
マイクロソフトを中心としたクラウドサービスの導入とサポートを手がける日本ビジネスシステムズ株式会社。2022年8月に東証スタンダード市場に上場し、2024年9月期には売上高1,408億円を達成するなど、成長を続けるIT企業だ。昨今はその業績だけではなく、日本一といわれる社員食堂の整備をはじめ、社員育成など人的資本経営への取り組みも注目を集めている。
今回は、代表取締役社長の牧田幸弘氏に、創業当時から大切にしている理念、企業としていかに差別化をはかるかの戦略、さらに今後の展望について、具体的な成功事例を交えながら話をうかがった。
顧客志向を貫くために起業へ
ーーはじめに、ご自身のキャリアと会社設立の経緯を教えてください。
牧田幸弘:
大学卒業後、日本IBMに入社し企業向け営業を担当していました。成果に応じて報酬が上がる仕組みには大きなやりがいを感じていました。その一方で、当時はメーカー主導の時代だったので、たとえお客さまにとって良い選択だったとしても、自社の商品ではない他社製品を販売することができない制約がありました。
本当に顧客の役に立つためには、自由にシステムを構築できるマルチベンダーのアプローチが必要だと考え、1990年に会社を設立しました。
ーーIBMでは8年連続トップセールスを達成とのことですが、営業において大切にしていることは何ですか。
牧田幸弘:
営業として自社製品のメリットを伝えることは重要です。しかし、顧客がまだ「知りたい」と感じていない段階で伝えても響きません。
どの企業にも課題はあるものなので、まずは顧客の状況を丁寧にヒアリングします。その上でプロとしてのアドバイスを提供し、一緒に課題解決の糸口を探る。こうした信頼関係を築くことで顧客から頼られる存在となり、そこから新たなチャンスが生まれます。
売り込みではなく「あなたのお困りごとを解決します」というスタンスを貫くことが、持続的に営業成果を上げる大切な要素だと考えています。
顧客志向の考えと実践が育む組織の成長力

ーー社長が大切にしている考えをお聞かせください。
牧田幸弘:
お客様のために何ができるかを常に考え、困っている方のために自分たちができることは何でもやろうという姿勢を大切にしており「Customer First」を行動指針のひとつとして掲げています。これが次の仕事につながり、自分たちの成長にも結びついていくと信じています。
成長に結びついていくエピソードとして、創業時ではありますがこのようなことがありました。IT経験のない新入社員がお客様のコンピューターの設置を担当しました。当然、最初は「設置するにはどうすればいいのか」と戸惑います。しかし、「お客様のためにやるしかない」と必死で考え行動することで、彼らは実践を通じて課題を克服しました。
その後もさまざまな課題を自ら考えて対応する中で着実に成長していく姿を目の当たりにしました。こうして身につけた経験は、忘れようとしても忘れられないほど体に染みつきます。成功体験を積むことで、さらに大きな成長につながると確信しています。
クラウドインテグレーションに強みを持つエンジニア集団
ーー改めて、事業内容と会社の特徴を教えてください。
牧田幸弘:
主に大手企業向けにクラウドサービスを提供し、ITシステムの課題抽出から設計、開発、運用までを担うクラウドインテグレーターです。しかし弊社は大手企業ではないため、明確な特徴を持たなければ生き残れません。
JBSはクラウド活用のプロフェッショナルとして、戦略立案から定着化支援までをワンストップでサポートしています。中でもマイクロソフト製品を得意としており、知見・実績ともに、業界トップクラスの自負があります。
2,700名の社員のうちエンジニアが約2,000人おりますが、その多くがマイクロソフトエキスパートの資格を持っています。これだけ多くの専門性を持ったエンジニアがいることから、お客様がマイクロソフトのクラウドを活用しようとする際、私たちを選んでいただけるのです。
ーーどのように成長のきっかけをつかみましたか。
牧田幸弘:
2001年、日本の携帯電話会社だったJ-Phoneが、イギリスの通信キャリアであるボーダフォンに買収されました。当時ボーダフォンの経営メンバーだった方と過去にビジネスでお付き合いがあり、弊社の事業内容や強みを認知していただいていました。
ある日、彼からITインフラを全面的に刷新したいという相談を受け、それまでに経験したことがない約7,000人規模の大企業の案件となりました。当時の弊社社員数は130人、限られた人数でこれを遂行できたことでお客様から信用を得たのです。この成功がさまざまな大型案件の受注につながり、弊社の成長のきっかけとなりました。
「人的資本経営」で目指すクラウドとAIでつくる未来

ーー現在、注力していることをお聞かせください。
牧田幸弘:
今注力しているテーマは「人的資本経営」です。まずは社員が安心して働きながら、プロとして成長し最大限の力を発揮できる環境を整えることを目指しています。
その1つが社員食堂「Lucy’s(ルーシーズ)」です。昼食だけでなく、夜にはダイニングレストランとしてシェフが手掛ける飲食店に劣らない本格的な料理を提供しており、社員同士やお客様とのコミュニケーションを活性化させる場となっています。
また、社員のスキル向上を目的に、本社から徒歩5分ほどの場所に社員研修用のトレーニングセンターを併設しており、ITのプロフェッショナルとしてのスキル開発を積極的に支援しています。
日本の企業が世界で競争力を維持するために、私たちがデジタル分野で貢献できる部分は大きいと考えています。そのためにも「人への投資」を重要な要素として位置づけています。
ーー今後の企業成長におけるポイントを教えてください。
牧田幸弘:
今後は、これまでのクラウド活用に生成AIを組み合わせた新しいサービスをさらに展開していきたいと考えています。「デジタル変革により収益化できる事業を生み出したい」というお客様に向けて、その実現をサポートしていきます。そして社員には、第一線で活躍できる人材へと育ってほしいと願っています。
また、私には忘れられない経験があります。あるエンタープライズ企業にシステム構築案件を提案した際、大手IT企業と競合になりました。実績面で弊社は圧倒的に不利な状況でした。そんな中でも社員たちはあきらめずに提案準備を進め、結果的に弊社が案件を勝ちとることができたのです。
その時私は、表向きは「がんばれ」と応援しつつも、心の中ではまさか受注できるとは思っていませんでした。しかし弊社の提案が採用されたと報告を受けて、嬉しさと同時に、受注に向けて頑張ってくれた社員に対して信頼しきれていなかった自分を深く反省しました。
次の時代を担う世代が発揮する力は、私たちの想像をはるかに超えるものがあると実感しています。だからこそ、彼らの成長を支える環境を徹底的に整えることが会社の未来に不可欠だと考えています。次世代の人材育成が私の使命です。
編集後記
営業時代から徹底して掲げてきた「徹底した顧客志向」の考えにはじまり、今では「人的資本経営」にも注力している牧田社長。単なる「製品販売」ではなく、顧客の課題に常に耳を傾ける姿勢を貫いてきた。
マイクロソフトのクラウドサービスを強みとし、AI分野の事業にも着手するなど、最先端を行こうとする日本ビジネスシステムズ株式会社。人を大切にする経営方針を基盤に、デジタル変革を推進する企業としての今後に注目していきたい。

牧田幸弘/1957年生まれ。新潟県十日町市出身。慶應義塾大学卒業。1979年、日本アイ・ビー・エムに入社。トップセールスとして8年連続表彰を受けるなどコンピューター関連製品の営業として活躍。1990年、日本ビジネスシステムズ株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。顧客企業のITシステムの課題抽出から、設計・開発・運用までを担うクラウドインテグレーターとして、多数の大手優良企業から支持を受けている。