※本ページ内の情報は2025年8月時点のものです。

かつて「ものづくり大国」として世界をリードしていた日本の製造業は、グローバル競争の激化や構造的な要因、労働力不足などの影響で、その地位が揺らぎつつある。この課題に真正面から切り込むのが、製造業向けオンラインプラットフォームで業界の根幹から変革を目指す株式会社アペルザだ。

代表取締役社長の石原誠氏は、キーエンスで営業と社内ベンチャーの立ち上げや、複数のスタートアップ創業など、多岐にわたるキャリアを経て、2016年に同社を立ち上げた。製造業の未来を変えるという使命感を持って挑戦し続ける同氏の経営哲学と展望をうかがった。

学生時代の経験が意思決定の原点に

ーー大学卒業後に株式会社キーエンスへ入社した理由は何でしょうか。

石原誠:
大学卒業後に複数の企業から内定をいただきましたが、その中で私が同社を選んだのは、当時最も小規模で可能性に満ちた会社だったからです。大企業の面接では一方的に配属先も決められてしまう雰囲気に違和感を覚えましたが、同社は若手でも裁量を持って働ける印象を受けました。海外展開にも力を入れ始めており、世界に挑戦できる点も決め手でしたね。

この選択をした背景には、これまでの経験が大きく影響しています。サッカーサークルの活動で全国大会で4位に入ったり、アルバイトで貯めた資金を旅に注ぎ込み、格安航空券でバックパッカーとして40カ国以上を巡ったりといった体験を私はしていますが、この積み重ねで好奇心と行動力が磨かれ、未知の環境に挑戦する原動力となったと考えています。

ーーキャリアを積む中で起業に至った経緯を教えてください。

石原誠:
キーエンスでは、社内ベンチャーである製造業向けカタログサイト「iPROS(イプロス)」の立ち上げに携わり、営業から資料作成、ウェブサイトの設計図となるHTMLコーディング、広告運用まで幅広く経験しました。そこで私が感じたのは、十分な手応えとともに、特定のメーカーの傘下で中立性を保つという構造的な課題に向き合うことの難しさでした。

何より起業への後押しとなったのは「日本の製造業の未来に貢献したい」という青臭い思いです。日本は貿易赤字に転落し、世界を席巻した製造業の先行きも不透明になりました。日本のものづくりは、つくる力には長けていても、売る力が置き去りにされています。コロナ禍でこの課題が浮き彫りになりましたが、経済大国である日本を私たちの世代で衰退させるわけにはいかないという使命感が、安定より挑戦を選んだ理由です。

創業前の腕試しでAppleベストアプリに選ばれる

ーー起業までの間にどのようなことに取り組みましたか。

石原誠:
退職後は、腕試しとして教育分野に挑戦しました。私の母親が携わっていた影響もあり、以前から関心があったのです。

当初は子ども向け教育プログラムを検討しましたが、規制や参入障壁の高さで断念。そこでターゲットを大人に切り替えました。ビジネス誌を調べる中で最も多く特集されていた英語に着目し、社会人向け英語学習アプリを開発しました。

キーエンス時代に培った「潜在ニーズを捉え、市場を創造する」ノウハウをもとに、当時主流だったSkype英会話による「聞く・話す」からターゲットをずらす戦略をとりました。「読み・書き」に特化したスマートフォンアプリを開発し、自分がスキルアップしたい領域に特化した英文を読みながら単語をタップだけで辞書を引ける機能を実装したのです。

このアプリが2014年にAppleのベストアプリに選出され、大きな反響を得たことは、私の「腕試し」が単なる成功を超え、未来につながる自信となり、2016年のアペルザ創業へとつながったと考えています。

ものづくり産業を変えるプラットフォーム

ーー貴社の事業内容を教えてください。

石原誠:
我々は製造業の工場で使う設備の取引にフォーカスを当てたオンラインプラットフォームを運営しています。製品カタログ、技術解説動画、ECモール、セールスマーケティング向けのSaaSなどを一体化し、売り手と買い手の双方の業務を支援するサービスを提供しています。

日本の製造業は非常に技術力は高いのですが、一方で「売る力」には大きな課題があると考えています。そこで我々のプラットフォームがデジタルを活用したセールスマーケティングの課題を解決するという役割を担っているわけです。

ーー注力されているテーマと、今後の展望についてお聞かせください。

石原誠:
現在注力しているのは、営業・マーケティング・受発注業務を劇的に効率化するクラウド型SaaS(クラウド上で利用できる業務支援ツール)の「アペルザDX」です。受発注業務支援システムや、名刺管理や顧客情報管理、メールマーケティングシステムなど、データを活用した「攻めの営業」を支える機能が特長となっています。

最近ではAI活用が非常に注目を浴びていますが、我々のプロダクトにもAIが多数搭載されています。東京大学の松尾研究所発のAIスタートアップと共同開発で取り組んだプロダクトもリリース予定でして、この取り組みは業界の常識を覆す挑戦となるでしょう。

ーー最後に、若い世代へのメッセージをお願いします。

石原誠:
アペルザは、ラテン語の「開く」を意味する「aperto(アペルト)」と、日本の職人集団を指す「座(ザ)」を組み合わせた造語です。職人の技術と精神を大切にし、「ものづくり産業を世界につなぐ」という理念を象徴しています。会社のロゴであるa/zは「AからZのすべての製品の中から最適なものを提供する」ことを示しています。

この「開く」にも通じる思いとして、皆さんにも世界へ出て視野を広げ、自分なりの使命感を抱きながら一歩を踏み出していただきたい。創業から間もない弊社は現在成長フェーズにあり、若くても大きな仕事に挑める機会が豊富です。新卒・中途を問わず、好奇心旺盛で行動力があり、新しい領域にも飛び込める人材を心から歓迎しています。

編集後記

技術立国・日本の製造業が直面する再興への転機を図るため、同社は「売る力」の強化を通じてものづくり産業の再興を支えている。安定より使命感を選んだ経営判断で、オンラインプラットフォームやクラウドSaaSなどのサービスを駆使し、国内外の営業・マーケティングを一体化する取り組みは、日本のものづくりに活力と未来への希望を与えるだろう。

石原誠/愛知県生まれ。大学卒業後、株式会社キーエンスに入社。コンサルティング営業に従事し、社内ベンチャーとして製造業向けカタログサイト「iPROS(イプロス)」の立ち上げに参画。その後、英語学習アプリを開発する株式会社ポリグロッツの創業など複数のスタートアップの経験を経て、2016年に株式会社アペルザを創業。代表取締役社長に就任し現在に至る。