※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

華やかなイメージに憧れて志す人も多い美容業界。しかし低賃金・長時間労働など、課題を抱えているのも事実だ。そのような課題がある中、独自の経営戦略を携えて奮闘している男がいる。


今回は美容業界で店舗数日本一を誇るAB&Company代表取締役、市瀬一浩氏に事業拡大の秘訣、労働環境の改善方法、業界の今後の展望などについてうかがった。

独自のビジネスモデルで急成長を遂げるに至った経緯

ーー貴社の事業内容と起業のきっかけを教えてください。

市瀬一浩:
直営の美容室運営、フランチャイズ、そしてインテリアデザインの3つの事業を展開しています。もともとは個人店で美容師としてサロンワークをしていましたが、低賃金、長時間労働、高離職率など、少しずつ業界の課題が見えてきました。

そして、先輩や上司から話を聞く中で、それらの課題が昔からずっと変わっていないことに気づき、「自分で理想の会社を起業することで解決できるのではないか」と思いました。

ーー貴社のビジネスモデルと強みを教えてください。

市瀬一浩:
2009年に創業して以来、なるべく従業員がフレキシブルに働けるように、業務委託契約で店舗展開しています。正規雇用にこだわらず、「もっと柔軟に働ける美容室なら日本全国で発展しやすい」と考えたからです。

また、弊社は直営とフランチャイズを合わせて全国970店舗を展開し、4000名超のスタイリスト(2024年4月末)が在籍しています。リーズナブルな価格でサービスを提供することにこだわって年間500万人程のお客様にご利用いただいており、そこが強みだと感じています。

ーー事業を立ち上げるにあたって苦労したことを教えてください。

市瀬一浩:
創業当初は経営戦略がありませんでしたが、ある程度美容師としてのスキルを磨いてきたので、独立しても繁盛店をつくれる自信はありました。しかし、ふたを開けたら1日1〜2人ほどしか集客できず、精神的に厳しかったですね。

社員には秘密で、1人でビラをつくって配ったり、時間外に近隣のポストに投函したりということを2年間ずっと行っていました。

ーー事業拡大につながったきっかけを教えてください。

市瀬一浩:
やはりフランチャイズ事業にあると考えます。起業当初は直営だけで店舗展開していましたが、2013年からは47都道府県で展開できるように独自の仕組みをつくり、フランチャイズ事業を始めました。

フランチャイズのオーナーたちが、自分に代わって物件の取得から採用、集客、マーケティングやスタッフマネジメントまで行うことは、事業拡大の非常に大きな要因だと思います。

現在のフランチャイズ契約は35社で、そのオーナーたちに対してブランドの貸し出し、法人設立の準備、税務、集客、採用などのサポートをしています。そのため彼らにとっても「フロントオフィスに集中できる」という利点があり、事業拡大につながっていると思います。

フランチャイズ事業を軌道に乗せるまでの道のり

ーーフランチャイズ事業の、具体的な取り組みについて教えてください。

市瀬一浩:
実績がなかったので、当初はフランチャイズのオーナーになりたい人を見つけることに苦労しましたが、「まず1人はロールモデルをつくらないと」という思いで1人目のオーナーになってくれる方を見つけました。

そのオーナーを成功に導いたところ、その後に2人目、3人目と続いていきました。経営スキルについては先輩や個人店のオーナーたちと会話する中で学びました。

フランチャイズ展開を始めた当初は、長期的なマネジメントは負荷が大きいので、とにかく自信がありませんでした。しかし、「その問題をどうしようか」と考えた時に、自分の後輩や弊社の従業員をオーナーに育てるという手法に行きつきました。結果的に、この戦略がはまり、今でもそのスタイルが継承されています。

ーー美容業界の経営管理や教育について教えてください。

市瀬一浩:
弊社ではアワードを取り入れ、各店で人気のあるスタイリストにスポットライトをしっかり当てています。この業界は表彰されることが少ないので、最初は「独自でイベントをつくり、頑張りを正当に評価しよう」という考えから始めました。輝いている先輩や上司の姿を見て後輩も育ち、今では全体の雰囲気も底上げされているように思います。そして、社員には「どれだけ美容師歴があっても常に素直で謙虚でいなさい」と伝えています。

非常に難しいことだと思いますが、「それができればいろいろなものを吸収できるのではないか」と私は考えています。また、この仕事はお客様からの評価を重視しがちですが、売上を上げるためには関わっているまわりのスタッフたちの評価も加味して自分の立ち位置を決めてほしいと思っています。

働けない人でも働ける環境を提供し、業界を発展させたい

ーー貴社の今後の展望を教えてください。

市瀬一浩:
今後は弊社のブランドを日本全国へ、さらに拡大していきたいですね。現在フランチャイズのオーナーが35人いますが、「これからオーナーをどれだけ増やせるのか」が僕の挑戦だと思っています。また、「国内だけでなく国外にも進出していきたい」と考え、現在準備を進めています。

そして、ヘアケア商品やボディケア商品の販売にも力を入れていきたいと思っており、ブランディングにも力を入れていきたいですね。

ーー美容業界における社会課題との向き合い方について教えてください。

市瀬一浩:
私は「働きたくても働けない方に働きやすい環境をつくるべきだ」と考えています。特に、女性は出産などのイベントで離職するケースも多いと思いますが、「業務委託契約で展開したことによって復帰しやすくなった」という喜びの声を聞くことも増えました。

美容学校が減り人材が不足する中、今後はもっと働きやすい環境を提供することで業界を成長させて、多くの学生にも美容師を目指してもらえたら嬉しく思います。

利益を追求し、前人未到の記録を達成する楽しさをともに味わう

ーー貴社の求める人物像を教えてください。

市瀬一浩:
一言でいうなら野心のある人です。野心のある人は伸びる傾向にあるので、そのような人たちと仕事をして業界を盛り上げていきたいですね。

ーー最後に業界に向けてのメッセージをお願いします。

市瀬一浩:
「業界の先頭を走って業界を変える」、その可能性に溢れた会社だと思うので、ぜひ一緒に前人未到の地を目指す楽しさを味わっていただきたいと思います。

また美容室というものは、満足感にひたりながら、お1人につき2~3時間のサービスを受けていただくという、その空間にこそ価値があるはずです。「もっと独創的な発想をお客様に提供できるチャレンジをしていきたい」と思っているので、私たちが今後、美容室という空間で提供するサービスの内容にも興味をもっていただけたら幸いです。

編集後記

業界の課題に挑み、独自の経営戦略で成功を収めるAB&Company代表の市瀬氏。同氏が自身の経験から生み出したフランチャイズ展開に至るまでの苦労やビジネスモデルの特長、そして美容業界における社会課題への取り組みなど、美容業界にもたらす革新的なアプローチに、多くの業界関係者が注目していると思われる。「夢と希望に満ちた仲間と業界をリードしたい」と熱を込めて語る同氏。彼の飽くなき挑戦はこれからも続く。

市瀬一浩/2003年に山野美容専門学校を卒業後、青山の美容室にスタイリストとして勤める。低賃金・長時間労働が常態化する美容業界に疑問を抱き、業界変革を目指して2009年に独立し、株式会社AB&Companyを創業。