株式会社ダイケンは印刷事業からスタートした熊本で活動する企業である。その活動を一言で説明するのは難しい。印刷のみならず、広告、アプリ開発、さまざまな企業のエージェンシーを担うなど事業展開が多方面にわたっているためだ。
代表取締役社長として会社を率いるのは、多摩美術大学大学院を修了し、有名企業のWebページなど数々のデザイン制作を手がけてきた松茂信吾氏である。自身のクリエイティビティを活かして経営に取り組む姿を取材した。
時代とともに姿を変えながら成長
ーー創業当時の事業について教えてください。
松茂信吾:
1985年に有限会社ダイケンプランニングとして創業しました。創業時は全国の旅行代理店のチラシをはじめとした広告物の制作・印刷を手がけていました。当時はパソコンがなかったため、チラシをつくる際には制作会社で用意したデザインを別会社の印刷所に持参して刷版に転写するという方法を実施していました。会社が分かれることによる不便に着目し、弊社では、印刷所と提携して制作・印刷をともに請け負っていました。
ーー現在分野の異なるフィールドで展開している複数の事業について教えて下さい。
松茂信吾:
弊社は熊本を拠点に、4つの事業を柱として活動しています。商業印刷を得意とする印刷業、旅行代理店、アプリ開発、地元企業の販売エージェンシー事業です。さらに来期からは不動産事業にも取り組む予定です。
最近はアプリ開発とエージェンシー事業に重点を置いています。アプリ開発では、勤怠管理アプリ「キャスタイム」が主力製品です。このアプリは14年間にわたりアップデートを繰り返しながら進化させてきました。開発当初から、スマートフォンが台頭し世の中に技術革新が起こることを見据えていたのです。
エージェンシー事業は、さまざまな企業やブランドのフランチャイズ経営のような形で展開しています。例をあげると、楽天ポイントカードの認定代理店や、全国2万局に及ぶ郵便局のネットワークを活かした広告代理店などです。
美術大学で学んだクリエイティビティを活かしたサービス開発
ーー美術系の大学院を修了という経営者としてはユニークな経歴をお持ちですね。
松茂信吾:
クリエイティビティが私のアイデンティティであり、現在の礎になっています。ほかの企業の企画営業職の方と比較すると斬新で稀有(けう)な存在かもしれません。
しかし、入社した当時は、それを仕事で発揮する機会はほとんどなく、財務面の業務などに時間を費やしていました。今になって振り返ると経営者としての能力を上げる貴重な経験だったと感じます。
ーー新規事業の展開について教えてください。
松茂信吾:
現在進行形でさまざまなアイデアを形にしています。弊社のコアコンピタンス(※)を一言で表すと、システムです。サービスのコンセプトは私が独自で考えるものが大部分です。
たとえば弊社が代理店を務める冷凍食品の自動販売システムである「ヒエヒエ食堂」は、福利厚生として社員食堂のようにコストを抑えたメニューを提供して評価されています。東京エレクトロン九州株式会社など大手企業にも採用されています。QRコード決済で簡単にバリエーションに富んだ冷凍食品を購入でき、ランチなどで楽しめます。システム購入後は顧客開拓から提案まで自身で行うことができます。
(※)コアコンピタンス:他社に真似できない核となる能力
また、今後の展望という意味では、私自身ゲーム好きという背景もあって、ゆくゆくは世界中でプレイされるようなゲーム作成事業も手掛けたいなと思っているところです。
ーーシステムがコアとのことですが、社内にもそのノウハウは活用されていますか?
松茂信吾:
もちろん、社内の業務自動化にも活用しています。かつて弊社は徹夜労働が当たり前という文化で、労働監督署から指導を受けたこともあります。それを是正するために勤怠管理アプリ「キャスタイム」を自社にも用いて従業員の労働時間を管理しました。
これにより、残業時間の確認や業務上のアラートが迅速かつ明確に把握できるようになり、トラブルの早期解決にも役立っています。社長と従業員との距離が縮まり、コミュニケーションも円滑になりました。
社員一人ひとりの成長を支援!会社発展のための秘訣
ーー現在の会社の方針や姿勢について教えてください。
松茂信吾:
最近は子会社の立ち上げや新しい事業領域の開拓を進めており、能力に秀でた社員は年代問わず登用しています。ある子会社では20代の女性社員が執行役員に選ばれ、また別の30代の社員は事業部長を務めています。
経験豊富な人材の活用も行っており、役員の中にはパナソニックの工場長を務めた経験がある66歳の社員もいます。社長である私がリスクをとり、個々の社員はモチベーションを高く保ちながらどんどん世の中や社会に貢献する仕事に取り組んでほしいと考えています。場合によっては独立もサポートします。
ーー最後に今後も発展しつづけるための秘訣を教えていただけますか?
松茂信吾:
私はともに働く仲間に3つのことを大切にするように伝えています。それは「コミュニケーション」「アイデンティティ」「エンジョイ」です。ここでいうアイデンティティとは「ダイケンらしさ」を意味します。
これらを中心に置きながら、デジタルコンテンツなどのサービスを通じて世の中や社会に貢献していきたいと考えています。同時に、社員皆が「ダイケンで働いてよかった」と胸を張れるような企業を目指しています。
編集後記
時代を先読みしてダイケンの事業は変化を続けてきた。成長のエンジンになったのは、言うまでもなく美術大学で学んだユニークな経歴をもつ松茂社長の存在だろう。クリエイティビティをもとにしたサービス展開こそダイケンらしさであり、これからも変わることはない。変わらないアイデンティティと、変わり続ける事業が共存してこそ今後の発展が期待できる。
松茂信吾/1976年熊本県生まれ。多摩美術大学大学院修了。東京芸術大学で3年間の勤務を経て2006年に株式会社ダイケンに入社。2015年に代表取締役社長に就任。