※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

「まず~い、もう一杯!」という印象的なフレーズを聞いたことがあるだろうか?ケール青汁の通信販売で有名なキューサイ株式会社のCMに使われていたセリフだ。

かつてこのケール青汁で名を広めたキューサイは、現在「ウェルエイジング(※)」という視点から人々の生活をサポートする総合通販会社に転身している。そして、その仕掛け人こそが代表取締役社長の佐伯澄氏だ。

なぜ佐伯氏はキューサイの事業転換に取り組んだのか。ウェルエイジングを活用した事業構想や秘められた可能性についてうかがった。

(※)同社は“年齢を重ねることを前向きにとらえ、こころ豊かに生きること”を提唱している。

銀行員から始まり多くの経営経験を重ねてキューサイへ

ーー社長就任までの経歴を教えてください。

佐伯澄:
大学の経営学部を卒業後に最初に選んだ道は銀行員です。そこでは会社の経営を資金で応援するコーポレートファイナンスを担当していました。しかし、銀行の立場では経営の途中までしか伴走することができず、物足りなさを感じていました。

そこで、資金や人材の投資を通じて経営により深く関われる商社に転職しました。商社では投資先の経営陣に立候補できる環境があり、ニュージーランドのジュースメーカーCEOやフランスのメディア企業取締役などを経験しました。

商社を退職したあとは、AmazonでAmazon Freshの事業立ち上げに携わったり、株式会社MOAの代表取締役を担ったりしました。その後弊社の取締役を経て、2022年に社長に就任しました。

ーー社長に就任してから特に注力していることは何ですか?

佐伯澄:
「ウェルエイジング」を軸にした総合的な販売チャネル・ブランドの構築です。

弊社は「ケール青汁」の単品通販で成長してきた会社ですが、単品販売では顧客との相互のアプローチには限界があります。そこでケール青汁で培ってきた企業の土壌を活かし、事業・チャネルの多角化と顧客との関係構築を同時に実現できるウェルエイジング事業へとシフトしました。

ウェルエイジングに軸を置いたのは、顧客をエイジングという視点で生涯にわたって支えていくためです。弊社の商品やサービスを通じて、いくつになっても自信やチャレンジ精神を持ち続けられる人生を送ってほしいと考えています。

顧客の生涯に寄り添える環境の構築を

ーー顧客のウェルエイジングを支え続けるための具体的な構想を教えてください。

佐伯澄:
1つは顧客データを活用したレコメンデーションシステムの構築です。顧客との関係構築を目的としたCRMプラットフォームを整備し、購買情報や生活習慣情報を収集・分析。長期にわたって顧客に最適なレコメンデーション(推薦)を行います。

2つ目はウェルエイジングに関するあらゆる情報・モノ・サービスを集約するプラットフォームの構築です。Webサイトやアプリのようなイメージで、そこにアクセスすれば自分の現状や生活上の課題、今後行うべきことなどの全てが分かる仕組みです。

難しい取り組みですが、完成すれば画期的であり、弊社と顧客を生涯にわたってつなぐ場にもなってくれます。すでにサービス設計に取り組み始めており、個々の顧客のエイジングの現在地を測定するというサービスも想定しながら九州大学と共同研究にも取り組んでいる最中です。

商品やサービスの価値は「顧客体験のクオリティ」によって伝わる

ーー業務に取り組むうえで大切にしている価値観はありますか?

佐伯澄:
顧客体験のクオリティを第一に考えています。商品やサービスを通じて顧客に価値を提供することで信頼を獲得し、顧客体験への満足度を高めていく中で、末永いお付き合いにつなげていきます。

販路拡大はマーケティング手法に重きを置く傾向がありますが、一番大事なのは本当に求められている価値を提供することです。顧客との信頼構築ができれば、繰り返し購買される既存顧客の口コミを通じて新規顧客を獲得することもできるでしょう。

ーー新規顧客にはどのような方法でアプローチしているのでしょうか?

佐伯澄:
オンラインとオフライン両方に接点を設けたマルチチャネル販売に取り組んでいます。オンラインでは自社サイトやショッピングモールサイト、オフラインはドラッグストアやGMS(General Merchandise Store/総合スーパー)などを顧客接点にしています。

そして各チャネルの接点・各年齢層に応じた顧客に対して、豊富な品ぞろえで総合的にウェルエイジングをサポートします。自社商品だけでなく他社との連携も取り入れつつ、サポートできる体制を構築しています。

真のウェルエイジング企業になるための可能性を模索し続ける

ーーウェルエイジングを広めていくために、どのようなことに注力していますか?

佐伯澄:
まずは社内におけるウェルエイジングの体現を徹底しています。社員自らエバンジェリスト(伝道師)になることで、その価値を組織内から発信していきます。

また、会社全体をワンチームにするための施策強化にも取り組みたいと思っています。チームエンゲージメントから生まれる熱量や情熱は計り知れないものがあります。社内の垣根をなくして協力体制を構築すれば、商品やサービスのさらなる価値向上が見込めるでしょう。

ーー今後、実現したいことを教えてください。

佐伯澄:
ウェルエイジングには小さな可能性と大きな可能性の両方が内包されています。

小さな可能性とは個人やその周囲の人を変えることです。ウェルエイジングを体現する人を創出できれば、その人がインフルエンサーとなり、周囲の人へとその意味合いや活力が連鎖していくでしょう。

大きな可能性とは社会課題を解決することです。ウェルエイジングには日本が抱える高齢化問題に一石を投じられる可能性があります。シニア層を弊社の事業で元気にできれば、日本はより住みよい国になるのではないでしょうか。

ウェルエイジングとは誰にでも関係する身近な考え方です。一人でも多くの方に元気で暮らしていただくために何ができるか、これからも顧客に寄り添うことを第一に取り組んでいきます。

編集後記

ケール青汁は多くの人が「健康になりたい」と願って飲むと思うが、その先に思い描くのは活き活きとした自分ではないだろうか。そう考えると、佐伯社長による会社の転身はキューサイのマインドを拡大した「進化」のように感じる。ケール青汁から始まったウェルエイジングの道のりはどこまで続くのか、佐伯社長の社会における存在感は今後も増していくだろう。

佐伯澄/1973年、東京都出身。1996年、青山学院大学卒業後、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行し、その後米国Case Western Reserve大学院(MBA)に留学。2005年に住友商事株式会社に入社後、海外事業の投資や経営などに携わり、ニュージーランドにおける総合野菜果汁加工メーカーのCEOに就任。住友商事退社後は、Amazonにてアマゾンフレッシュの事業立ち上げを主導。2018年、株式会社MOA(現エクスプライス株式会社)の代表取締役社長に就任。2022年キューサイ株式会社の代表取締役社長に就任。