※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

電気代高騰によるカーボンニュートラル実現化の加速により、社会ではさらに有効なエネルギーマネジメントが求められている。

そんな中、「電気のコンシェルジュ」と称し、商社とメーカー双方の立場から創エネ・省エネ・蓄エネのソリューションを提供する株式会社電巧社。ビル用の電気・空調設備、太陽光発電設備などの販売や施工から、モーターなど産業用電機品の販売、さらには配電盤製造やソフトウェア開発など、幅広い事業を展開している。

同社は1928年創業の老舗ながら、中嶋社長は「シゴトをアソベ」と言い切る柔軟な思考の持ち主で、常に新たな仕掛けを求め続けている。

「宿命」を受け入れて自らの人生のレールを敷設

ーー2代目社長であったお父様から貴社を継承した経緯を教えてください。

中嶋乃武也:
父が病に倒れたこともあり、祖父が築いた会社を守り継ぐのは、傍でずっと父の苦労を見ていた私しかいないと思っていました。大学卒業後に就職した商社の仕事は実に面白かったのですが、早い時点で継ごうと考えていました。

父が敷いたレールをそのまま歩むことに若干の抵抗感がありましたが、蓋を開けてみると、私の前にはレールどころか1本の枕木すらない。理由は、放っておいてもものが売れた時代背景による大雑把な経営のツケが、バブル崩壊で露呈し会社が経営危機に直面したからです。前職の商社時代とは違い、倒産の恐怖と戦いながら、組織や体制を一つひとつ修正して進むべき路線を開拓していきました。

大変なときもありましたが、苦労とやりがいは表裏一体。社員の支えもあり、名前は同じでも当時の中身とは大きく異なる、まったく別の会社に生まれ変わることができたと思っています。

既存事業の「地続き領域」の開拓が多角化戦略の秘訣

ーー広く事業を展開しているのはなぜですか。

中嶋乃武也:
多角化の目的は単純明快で、柱は太い方が、そして多い方が会社をよりしっかりと支えられると考えたからです。そのための策として地続き領域でビジネスを広げることを考えました。例えば受変電設備の地続きには、発電機や太陽光発電、それに蓄電池などがあります。また、それらの施工やメンテナンスもあります。

これらのビジネスは、全く新しい飛び地の分野と違って既にある程度の知見があったため、比較的安全かつ短期間で立ち上げることができました。今では商品販売だけでなく施工からメンテナンスまで一気通貫で長期的に貢献するというリカーリングモデルは弊社の強みとなっていますし、元の柱をより太くする役にも立っています。

また弊社は大手電機メーカーのビジネスパートナーです。大手メーカーは商品(事業)ごとに縦割りの組織ですが人脈は繋がっている地続きですので、モーターや受変電から、空調・エレベーター・照明・蓄電池などと商材を増やしていくことは、比較的容易だったと思います。担当する人材は、新規採用だけでなく儲かりにくくなった分野からもシフトして賄いました。

お客様のなかにはいろいろなニーズが存在しますから、たくさんの商材をお客様に重ねて提案することは、一つのお客様の中という地続き領域のなかでのビジネス展開です。そのため商品ごとではない顧客対応をする総合営業という窓口を設けるようになりました。

さらに弊社はメーカーでもあるため元々が現場重視の技術体質で、商社にも技術者が在籍しています。東日本大震災以降の省エネ化の波のなか、幅広い商材に加わった技術者の提案力が弊社の幅を広げ、ビジネスを牽引するようになりました。

マジックやゲームの感覚をビジネスの仕掛けづくりに活かしたい

ーーマジックやゲームが経営とどのように繋がるのか教えてください。

中嶋乃武也:
マジックは私の50年来の趣味で、社員やお客様に披露することもあります。

あるときマジックもビジネスも、その構成要素は同じで、どちらも「お客様を喜ばせるための仕掛けづくり」だと気付きました。マジックでは、どう見せれば観客が驚いてくれるか、仕掛け(タネ)とストーリーやプレゼンテーションを考え、自分のスキルが伴っていなければ練習を重ねます。

これは、ビジネスも同じ。どうすればお客様の課題を解決し、喜んでもらえるかを考え、商品や技術開発などに努めます。実際の商談ではストーリーとプレゼンテーションが大切ですから営業マンはこれを練習します。

同じ構成であるなら、より感動を大きくするためにも相手の想像を超える、あるいは相手の意表を突くようなビジネスモデルを仕掛けようと社員に話しています。その方がやっている自分たちも楽しいし、逆に代わり映えしない仕掛けや提案からはお客様の感動は得られません。

また、私は前職の商社時代に仕事が楽しく、「○○マーケット攻略ゲーム」といった具合に、ゲーム感覚で取り組むことを経験しました。ゲームというと一見不謹慎に見えますが、いい加減な気持ちは一切ありません。いやいやこなすより、楽しんで取り組む方が成果につながることは既に知られています。

仕事とゲームを区別するのは作業内容ではなく、気持ちや取り組む姿勢にあるのではないでしょうか。仕事を楽しんでいけないことはありません。むしろゲームのように工夫を楽しみながら、我を忘れるほど没頭しチャレンジする方が成果が上がるはず。だから弊社では「シゴトをアソベ!」と言っているのです。

この先の100周年につなげたい、社員と事業の「健康と絆」

ーー今後の目標をお聞かせください。

中嶋乃武也:
2028年に迎える創業100周年に向けた中期経営計画のなかで、私は電巧社のさらなる強靭化を掲げていて、柱を増やす多角化もそのための策の一つと言えます。私は会社とは社員たちが成功を目指して活躍していくための舞台だと位置づけていて、社員が安心して仕事に打ち込むことができ、存分に活躍できる強靭な舞台を作ることを最大の目標としています。

そのために、財務状態を良くする様々な仕掛け(戦略)とは別に、「健康経営」と「絆(を大切にする)経営」を打ち出しています。「健康は全てではないが健康を失うとすべてを失う」というのは体を壊した父の口癖でした。社員の心と身体の健康こそが一番の土台ですが、弊社の健康経営では「仕事(事業や商品)の健康」も大切だと考えています。

旬が過ぎてニーズに合わなくなった商品にしがみついていると、社員にも経営にも負担になるだけ。ときにその商品から撤退すると決めるのも経営者の大切な役割の一つだと考えています。変化に振り回されるのではなく、変化を起こす側に身を置きたいと考えています。

絆経営とは共に明日を創る仲間づくりを進める経営のことで、互いに助け合い励まし合う社員間の絆を、仕事を通じて強くしていこうというものです。弊社では社員が一堂に会して企業文化を体感しながら会社の状況、経営戦略などを共有し理解する場や、懇親の場が頻繁に用意されています。

ビジネスは人の交流で生まれます。会社とは人が集い、絆をつなぐ場所。コロナ禍で在宅勤務が浸透しましたが、社員同士が直接顔を合わせて刺激し合うことで会社はイキイキと回ります。オフィスを否定するのではなく、オフィスを皆のたまり場にすること、仲間に会える自分の居場所にすることが私の目標です。夢は月曜日が楽しみになる会社を作ることなのです。

編集後記

「ビジネスとマジックは相通じる」「仕事はゲーム」など、ユニークなワードが次々と飛び出した、中嶋社長へのインタビュー。「これまでにない仕掛けによって電気の世界を変える」という決意通り、持続可能な社会と未来をマジックのように実現してくれるに違いない。

中嶋乃武也/1960年東京都生まれ、慶応義塾大学理工学部卒。伊藤忠商事株式会社で貿易に従事。1991年株式会社電巧社に入社し、2002年同社代表取締役社長に就任。