※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

医療業界は人の生命や健康に関わるため、異業界からの参入はハードルが高い。そんな中、前職の不動産業界の知見を活かして医療施設の運営支援などに取り組み、医療分野に新しいソリューションを提供しているのが株式会社アドバンスト・メディカル・ケアの古川哲也氏だ。

古川社長が不動産業界から医療業界に挑戦しようと思ったきっかけは何か。今回は、会社設立までの経歴や印象に残っているエピソード、今後の取り組みなどをうかがった。

不動産業界から医療分野への挑戦は困難を極めた

ーー現在の業界に飛び込んだきっかけは何ですか。

古川哲也:
私は、慶應義塾大学法学部を卒業後に三井不動産株式会社に入社し、再開発プロジェクトの担当として資金集めや行政への開発許可、まちづくりで付加価値を生み出すための誘致活動などを行いました。ラゾーナ川崎などを担当した後、東京ミッドタウン全体のプロジェクトに参画しました。その中で、東京ミッドタウン・タワーの6階には医療機関をつくることになったのです。

「これまでにないような医療機関にテナントに入ってもらいたい」という趣旨と志のもと、医療機関誘致に取り組み、ついには、単身で渡米して有力な医療機関を訪問し、提携先探しに奔走しました。

アメリカの医療機関との提携においては初めてのことばかりでしたが、人脈も広がっていき、メリーランド州ボルチモアにあるジョンズ・ホプキンズ病院の運営機関であるジョンズ・ホプキンス・メディスン・インターナショナルと複合的な医療施設をつくることになりました。

ーーアメリカの医療機関との提携後、トラブルはありませんでしたか。

古川哲也:
ジョンズ・ホプキンズが日本で展開することは法律的に難しく、日本で医療施設を展開するための枠組みも整える必要がありました。

そのとき、医療施設運営を行う日本のパートナーとしてリゾートトラストグループが手を挙げました。リゾートトラストは会員制ホテルを基盤に、高精度な検診機器を導入した医療施設の展開を始めていたのです。

いよいよ新しい医療施設として稼働が始まると、課題や困難が山積していました。「テナントが決まって終わりにするのではなく、チャレンジングだが自分が運営に携わってみよう」という気持ちが沸き起こり、東京ミッドタウンクリニックを運営支援する株式会社アドバンスト・メディカル・ケアを設立しました。

赤字、人材問題、多くの困難に直面した創業時の苦悩

ーー創業後は手応えがありましたか。

古川哲也:
東京ミッドタウンクリニックは、開業当初は大赤字が続きました。しかし、好立地だったことや東京ミッドタウンのブランド力、健康診断や人間ドックの需要の伸びなどを踏まえ、「このまま続けばいずれ成功するだろう」と見通していましたが、成功するまではしばらく我慢が必要でした。この経験から「ビジネス環境が良好で、よい条件がそろっていても、新規事業の成功には時間がかかる」という生きた教訓を得ました。

たとえば、立ち上げの際に一気に人材を集めたため、関係性が構築されていない状態で突然一緒に仕事を始めることで、さまざまな問題が起こりました。

医療機関は旧態依然とした習慣が色濃く残っており、当時は勤務する医師同士の生産性の足並みが揃っていませんでした。それは1日に診療する患者数の差に顕著に現れており、自身がそれまで培ってきた流儀と組織が求める成果が噛み合わず、是正を打診すると反発を受けました。

また、組織運営に関しても急ごしらえでピラミッド型に構築を試みましたが、人間関係ができていない状態だったために、自身の立場に不満をもつ者が少なからず存在しました。さまざまところでひずみが生じていたことは明らかで、いま振り返ると事業がうまくいかなかったことは当然の帰結でした。

ーーバラバラになった組織をどのようにまとめ上げたのですか。

古川哲也:
会社を去ったスタッフもいましたが、会社に残ってくれたスタッフを中心に組織をつくり直しました。「この場所で人間ドックや健康診断を受けたい」という顧客のニーズがあることはわかっていても、イチから体制を立て直すプロセスには時間もお金もかかりました。

一方でクリニックを開業してから半年、一年と経過するにつれて残っているメンバーは一時的に集まった個々の医師やスタッフではなく、ともに同じ医療施設で経験を積んだ仲間になっていきます。私や当時の東京ミッドタウンクリニック院長である田口医師のビジョンに共感し、高い職業的倫理観をもった者たちが体制の立て直しを支えてくれました。

自分が磁石のように求心力を発揮したとは全く思っていませんが、会社に残った人たちと環境を再構築して成果を出せる状況をつくったことは間違いないでしょう。

一人ひとりに合わせた予防医療で健康を届ける

ーー今後についてはどのような展望をお持ちですか。

古川哲也:
弊社には、リゾートトラストメディカル事業の人材輩出会社としての一面もあり、グループを支える幹部人材を多数育成しています。今後も人材の創出に力を入れ、さらなる成長を目指していきます。

ーー新しく構想しているサービスで目指すゴールはありますか。

古川哲也:
私たちのグループには、膨大な健常者の検診データが蓄積されています。メディカルデータ活用のDX事業も推進しており、医学研究のさらなる強化、サプリメントなど商品開発への活用、一人ひとりにパーソナライズドされた健康ソリューションの提供などにつなげていきます。

予防医療を超えて、人生100年時代のパーソナル・ウェルビーイングに真の意味で貢献するため、高齢者になっても介護を受けずに健康に過ごせるような未病への挑戦を続けていきます。

ーー今後、経営で取り組みたいことはありますか。

古川哲也:
弊社では、賃上げと採用強化の方針を打ち出しています。困難なのは事実ですが、よりサービスを高付加価値化していき、価格に見合う価値提供をする必要があります。

採用については、私は「働いている先輩社員、特に魅力的な幹部社員がいないと魅力的な会社にならない」と考えています。そこで、魅力的な会社をつくっていくために、私自らリクルーティングを行い、採用の拡大に取り組んでいます。また、スキル向上やマネジメントの強化は会社として行っているので今後も続けていきます。

ーー会社の未来をどのように見据えていますか。

古川哲也:
リゾートトラストグループは会員権販売の好調に加え、メディカル関連事業も伸び続けています。弊社の成長によって、グループのさらなる拡大に貢献していきたいという考えです。

編集後記

古川社長が新卒で不動産業界に飛び込んだのは、確たる理由があったわけではなかったそうだ。「一流の会社に入りたい」という漠然としたイメージから、都市の再開発で大きな成果を上げるようになり、さらには自身が携わったメディカル領域のビジネスが転機となった。不動産業界では亜流・辺境といわれた領域だ。

しかし、古川社長はつかんだチャンスを離すことなく、大きな事業へ成長させた。未来のチャンスは辺境に存在することもあるだろう。その道のりには厳しい試練が何度も立ちはだかったが、メディカル事業の成長性と社会貢献度の高さを信じる志を胸に、困難を乗り越えてきた。

苦しい時期でも諦めることなく、前向きに挑戦する姿勢を持ち続けている限り、株式会社アドバンスト・メディカル・ケアの成長はとどまることを知らないだろう。

古川哲也/慶應義塾大学法学部卒業。三井不動産株式会社を経て、2006年株式会社アドバンスト・メディカル・ケアを設立、代表取締役社長就任。リゾートトラスト株式会社専務取締役、株式会社iMedical代表取締役会長CEO、株式会社進興メディカルサポート代表取締役社長、株式会社ハイメディック代表取締役、株式会社CICS代表取締役社長COO、株式会社ウェルコンパス代表取締役社長、株式会社シニアライフカンパニー代表取締役を兼任。