企業が生き残るためには、グローバル社会に対応することが不可欠とされる昨今。1965年の設立以降、海外の拠点数を着実に増やし、世界を相手に活躍する産業用空調設備メーカーが株式会社西部技研だ。
アメリカやスウェーデン、中国、ポーランドなどに拠点を持ち、売上比率は国内より海外のほうが高いという。一体どのようにして同社は成長してきたのか、取締役社長の隈扶三郎氏に今までの取り組みと展望を聞いた。
海外開拓を本格化させるためにアメリカへ出向
ーー入社の経緯と入社後の業務について教えてください。
隈扶三郎:
大学の夏休みなどに父から「忙しいから手伝ってくれ」と頼まれて、会社にはバイトでよく来ていました。その頃はちょうど新卒採用が始まったタイミングで、歳の近い高卒の社員さんと話をする機会も多くあったんですよね。
もともとバイトにはそこまで乗り気ではありませんでしたが、歳の近い社員さんたちといろいろな話をするうちに、「悪くない会社だな」と思うようになったのです。ただ、2人の兄たちが会社を継ぐ決断をせず、まさか私が継ぐことになるとは思っていませんでした。
入社時はちょうど海外の開拓に力を入れるタイミングだったので、業務研修で1990年11月からアメリカのニチメン社へ出向しました。ニチメンという商社で働くことで弊社のことを客観的に見ることができましたし、担当者から学ぶことも多く、非常に充実した時期でした。
ニューヨークの職場にはいろいろな立場の人がいて、まさにダイバーシティといった感じだったことを覚えています。アメリカにいた2年半は、弊社の事業をどのように伸ばすかを一生懸命考える時間になりました。その後、1993年に弊社に戻り、取引先であったスウェーデンの除湿機メーカーを買収したという流れです。
幅広い事業領域をカバーして挑戦を続けるのが強み
ーーアメリカに拠点をつくることになったきっかけを教えてください。
隈扶三郎:
当時、日本からアメリカの取引先に除湿機を売るだけではなく、アメリカ国内に自分たちの販売拠点をつくる必要があると感じていました。実際に拠点をつくることになったのは、長く取引していた会社がドイツの会社に買収されたことがきっかけです。
その買収された会社の、弊社のことをよく知るセールスマネージャーから「自分たちで会社をつくらないか」と話を持ちかけられ、アメリカに販売拠点をつくろうと本格的に動き始めました。アメリカに拠点を立ち上げたのが2001年、それから20年余り経った今では、EV(電気自動車)分野の成長を見込んださらなるビジネスの拡大を狙っているところです。
ーー今後の展望や貴社の強みを教えてください。
隈扶三郎:
半導体関連の分野も手掛けているので、排ガス処理の『VOC濃縮装置』はもちろん、半導体の製造工程で必要となるクリーンルームの施工も積極的に提案していきたいと思っています。
ほかにも弊社では多彩な機器や部品を販売しています。幅広い事業領域をカバーして果敢に挑戦しているのが、強みであり面白さでもありますね。
会社の成長には新しいことにチャレンジできる人材が必要
ーー社内で力を入れている取り組みはありますか。
隈扶三郎:
注力している取り組みの一つが、女性の活躍推進です。当初は出産などライフイベントをきっかけに退職してしまう女性が多く、優秀な人材を活かしきれていないことに大きな課題を感じていました。
そのため、キャリアアップ研修や長時間労働の是正、有休消化率の向上などの取り組みを行いました。その結果、ライフイベントで退職する女性はほとんどいなくなり、男性の育休取得率も高くなっています。また、福利厚生として本社内に保育所もつくりました。社員のお子さんをお預かりする場合、1年目の保育料は無料です。
ーー採用面でのお話や一緒に働きたい人材についてお聞かせください。
隈扶三郎:
弊社は現在グループを入れると社員数800名ほどで、今期の売上見込みは330億円ほどです。これを2030年までに550億円にまで伸ばし、社員数も1,000人超になると思っています。現状、採用は地元福岡の学生が多いのですが、東京などでも採用活動をしています。新卒についてはできるだけ男女同数の採用となるよう意識しています。
弊社はまだまだ成長余地のある会社です。そして、より成長して事業を広げていくためには、新しいことにチャレンジする必要があります。そのためには失敗した人が再チャレンジできる社風をつくることが大切だと考えていますし、新しいことにチャレンジできる方と一緒に働きたいと思っています。日本にとどまらず、海外の人材とのコラボもできればと思っています。
また、グループの売上比率は海外が80%ですが、基軸としては日本の本社で全体をある程度コントロールする必要があります。そのためには例えば生産や設計など、それぞれの現場をグローバルな視点で俯瞰することが不可欠です。これが上手くいかなければ、せっかくグローバルに展開しても、相乗効果は生まれませんから。
今後はより一層、日本にいてもグローバルを意識し、海外を拠点に活躍している人や企業と協業していきたいと考えています。
編集後記
部品から機器、そして設備へと事業領域を広げていった西部技研。今では福岡を代表する企業として知られている。
同社が海外への進出に成功しているのは、ビジネス領域の拡大に果敢に挑戦し、失敗を恐れない環境づくりを強みにしているからだろうと感じた。
隈扶三郎/1964年福岡県生まれ、1987年福岡大学法学部卒業、株式会社西部技研入社。1990年米国ニチメン会社にて業務研修のため出向。1993年株式会社西部技研の営業部に勤務、1994年東京営業所勤務、1997年専務取締役営業本部長、2002年代表取締役社長執行役員に就任。2024年代表取締役社長執行役員(現職)。