※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

パソコンやスマートフォンだけでなく、あらゆるデバイスがインターネットにつながる時代が訪れている。ネット上を飛び交う膨大な情報「ビッグデータ」は、業務効率化や社会課題解決の切り札だ。

ここでは、「モビリティ(移動)」に特化したビッグデータ活用で急成長中の、株式会社スマートドライブに注目した。同社の手掛ける車両管理システムは、大手企業なども含め1400社以上に導入されている。

大学院在学中に創業した気鋭のスタートアップ経営者、代表取締役の北川烈氏は「移動」を通してどのような未来を描くのだろうか。

データの力で移動の世界を変える

ーー学生起業の経緯を教えてください。

北川烈:
大学を卒業して普通に就職するよりも広い世界を見たいと思い、在学中に米国に留学しました。シリコンバレーで就職した友人から、自動運転やEVの技術で移動の世界が大きく変化する話を聞いて、感銘を受けたのが最初のきっかけです。

日本に戻って大学院に進学しましたが、研究も大切だけど社会に実装するサービスを提供したいと考え、研究室にあったマイコンを使ってプログラミングしてソフトウェアを開発したりしていました。当時、専門にしていたデータ分析を軸に、世の中を良くしたいという思いで大学院在学中に創業しました。

ーー創業にあたって困難だったことはありますか?

北川烈:
最初はお金がないから人が集まらない、人がいないからものがつくれないという状態です。一人で始めて、資金を集め、パートナー企業を集め、人材を集めました。苦労しましたが、あきらめなければ何とかなると信じていました。

違う分野だとしても、さまざまな方向に振り切った行動をすれば、物事の本質を客観的に見ることができると思っています。たとえば学生時代にサハラ砂漠を250km走るマラソンに参加したのですが、走り終えたとき、「物事を継続している人が最後に勝つ」「才能よりも意志の力の方が大きい」と感じました。

自動運転や電気自動車、シェアリングなどが進んだ世界の中で、データの力で移動の世界が大きく変わる未来を確信しています。あきらめなければ弊社に勝算があると思っています。

「マルチデバイス・マルチサービス」という戦略

ーー事業内容を教えてください。

北川烈:
弊社では、営業や配送など業務に車両を利用する企業を「フリートオペレーター(FO)」と呼んでいます。FO向けのメイン事業が「SmartDrive Fleet」というクラウド型車両管理システムです。データを活用して営業効率の改善、事故の削減などに役立つサービスを提供しています。

一方、メーカーや保険会社などで自動車関連事業を運営する企業を「アセットオーナー(AO)」と呼び、AO向けにFO事業で培ったデータやノウハウを元に、新規事業支援や業務プロセスを効率化する事業を展開しています。

ドライバーの運転傾向や走行データを自動車メーカーが知ることで、車を使う人のためにより良いサービスを提供できます。また、弊社の分析によって事故リスクが高精度でわかるので、保険会社と協業して安全運転する人の保険料が下がる仕組みを開発しています。

FOのデータが集まったことでAOに価値を付加でき、さらにAOのデータをFOに活用するという、好循環が生まれています。現在ではFO事業、AO事業という両輪と、それらを国外に展開する海外事業を加えた3つが大きな軸です。

ーーどのように競合他社との差別化を図っていますか?

北川烈:
車両管理システムを開発する企業はありますが、多くはデバイスのメーカーです。弊社はソフトウェアで優位性を築いた「マルチデバイス・マルチサービス」が特徴で、どのメーカーの自動車や電子機器でも利用でき、さまざまなサービスと連携できます。

そして、これまでに400回以上の新機能を追加しています。これは週1回更新がされるペースで、お客様は一度契約すれば、追加料金なしで、改善された新しいサービスを受けることができます。

事業規模、事業領域をともに広げる

ーー株式上場の狙いは何ですか?

北川烈:
たとえば特定の自動車メーカーの傘下に入ったら、その会社の自動車を使っているユーザーのみにサービス提供が限られてしまうかもしれません。知名度を高め、幅広い企業と提携し、どこかに限定されずにさまざまなデータを収集することが上場の狙いです。

独立系でオープンに移動データを保有しているのは、弊社がアジアで最大級です。海外事業も、現在は東南アジアに注力しており、順調に拡大しております。

ーー海外企業との競争でも勝機はありますか?

北川烈:
たしかに欧米の企業は技術が進んでいますが、モビリティに関して影響力が大きいのは日本企業です。弊社は大手メーカーや保険会社と組んで、渋滞など移動の課題を解決します。また、特にアジアなどの国外のほうが人口や、移動の課題が多いので、国内よりもビジネスチャンスが大きいと考えています。

ーー国内の戦略を教えてください。

北川烈:
全国で商用車として登録されている約2000万台のうち、弊社のサービスの利用率は1%に届いていません。すべての商用車に弊社のサービスを実装していただく将来像を描いています。そのために、まずは新規取引先の開拓や提携を進め、既存の事業を拡大していきます。

一方で、1台の車両から取れるデータを増やすことも重要で、それによって隣接する領域にサービスを広げられます。たとえば車両整備、中古車販売、駐車場やEV充電スタンドの運営事業者向けのサービスなどがあります。

社会課題を解決する人が集まる職場

ーー貴社の社風について教えてください。

北川烈:
モビリティの進化によって社会課題を解決するのが弊社の存在意義です。それに共感する人が働いているので、自分中心ではなく周りの人を気遣って協調できることが社員の特徴です。

しかし社会貢献であっても、ビジネスとして伸ばせなければ存続できません。社員にとっては、会社や社会に貢献することが、結果として給与やキャリアアップというかたちで自分に返ってくるというモチベーションがあります。

ーー採用や人事の方針を教えてください。

北川烈:
弊社の事業は、売上を倍にするために倍の人数を必要とするわけではありません。効率的な経営を目指しているので社員数を大規模に増やすことはしませんが、ベースとなる事業にとって必要なエンジニアや営業は常時採用しています。また、希望者には部署間の異動も活発なので、さまざまな経験ができるのも魅力だと思っています。

編集後記

株式会社スマートドライブのオフィスから、眼下の街を行き交う車が見えた。北川代表は、自動車にとどまらず、「移動」に関するあらゆるものに同社のサービスが実装された世界を目指している。見晴らしの良い場所にオフィスを構えたのは、そのような未来を思い描くためだという。

データの力で社会課題解決とビジネスの成長を両立させる代表。「あきらめずに続ける人が最後に勝つ」。この力強い言葉は、私たちを新しい世界へと導くだろう。

北川烈/慶応義塾大学在籍時から国内のITベンチャーでインターンを経験し、複数の新規事業の立ち上げを経験。3年次より1年間、アメリカのボストンに留学し、エンジニアリングやコンピュータサイエンスを学ぶ。その後、東京大学大学院に進学し、「移動体」のデータ分析について研究する。その中で自動車のデータ活用、EV、自動運転技術が今後の移動を大きく変えていくことに感銘を受け、在学中に株式会社スマートドライブを創業し、代表取締役に就任。