※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

愛知県東海市で65年にわたり漬物を生産してきたダイニチ食品株式会社は、地元の食材とSDGsへのこだわりを貫き新たなヒット商品を生み出している。同社の磯貝幸弘代表取締役社長は、漬物文化を継承するための鍵を家庭に見出し、企画開発力と営業体制の強化に取り組んでいる。漬物メーカーとして100年企業を目指す磯貝社長に、経営戦略を聞いた。

地元素材を使った商品開発をSDGsにつなげる

ーー漬物商品の開発について教えてください。

磯貝幸弘:
弊社の「新鮮生一本糖しぼり大根」の生産は、2000年に導入した、通常よりも短い期間で漬け込みができるタンクを使っています。本来なら時間もコストもかかるものですが、このタンクのおかげで製造期間が短縮され、適正な価格設定ができています。発売から約25年になりますが、今では看板商品に育っています。

最近では、「愛知のキムチ」の評判が良いですね。これは、隠し味として名古屋コーチンのエキスや、南知多町の豊浜漁港で水揚げされたカタクチイワシを使った魚醤、知多半島産の玉ねぎを使ったおいしいキムチです。これらの隠し味の材料は、規格外で出荷ができない未利用資源などを活用しています。

弊社は、1959年に愛知県に設立して以来、地元の方々に愛されてきました。その感謝と恩返しの気持ちを込めて、産学連携で開発した商品です。

白菜の収穫時期による味の違いなどにも気を配り、コンマ何パーセントのレベルで味の配合を検討し、開発に約2年かかりました。

ーーSDGsに取り組み、愛知県内では「エシカル×あいち」にも参加していますね。

磯貝幸弘:
弊社は漬物メーカーとして、SDGsの17ゴールのうち、3つのゴールの達成に取り組んでいます。具体的には、地域資源の活用、新技術の活用、それに環境に配慮した包装資材の使用という3点です。先ほどの「愛知のキムチ」も、愛知県産の未利用資源を活用しています。

漬物の生産にはどうしてもゴミが出ます。大根の頭の部分や皮などの野菜の不要部分です。これを何とか無駄にせずに活用するため、漬物に使えない部分を使った機能性食品の開発にも挑戦しました。実は、最近でき上がったばかりなんです。

日本の伝統的な食文化を守るのは家庭の食卓

ーー若い世代の漬物離れが進んでいると思われますが、どのように対応していますか?

磯貝幸弘:
若い人が自分で漬物を購入することがほとんどなくなったので、10代20代向けの商品開発を行っていません。とはいえ、漬物を買わないからといって食べていないわけではないのです。なぜなら、家庭の食卓ではたいてい漬物が出るからです。これは私が社長になってから就職相談会に行くようになり、学生さんと話して気づきました。

そこで、若者向けの商品を開発するのではなく、家庭で選ばれる漬物づくりに注力することにしました。家庭で日々の食卓にのせていただける商品をつくることこそが、結果的に漬物文化の継続に結びつくのです。

弊社は、精魂込めた漬物づくりで「日本の伝統的な食文化を守る」ことをコンセプトにしています。漬物を通して伝統的な食文化を守るということは、家庭で日々召し上がっていただける漬物をつくるということだと思います。今の若い人たちが親の世代になったときに、その子どもたちがまた漬物を食べてくれるといった循環を目指していきたいですね。

ーー漬物文化を守っていくには組織体制と経営戦略が重要ですね。

磯貝幸弘:
その通りです。漬物の生産量は、2001年の約120万トンから2022年には約80万トンに落ち込んでいます。現在の家庭に愛される商品を提供してこそ未来の漬物消費があるのですから、定番商品の販路拡大をはかりながら、一方では新しい商品を開発し定着させていく必要があります。

弊社の営業スタッフは、現在、私も含めて5人です。地元のお客さまをしっかり守りつつ、新たな販路を開拓していくためには、あと2、3人増やしたいところです。

ーー企画開発部門についてはいかがですか?

磯貝幸弘:
企画開発では、お客さまの要望をリサーチし、開発に落とし込んでいく必要があります。かつては家庭で漬物をつくっていましたが、今ではスーパーで購入する方がほとんどです。ということは、漬物という食文化を守っていくためには、漬物メーカーは、お客さまの嗜好を把握し、喜ばれる商品を提供していく責任があります。

現在、営業と開発、それに総務の担当者でプロジェクトチームをつくって対応していますが、専任の部門の確立は急務と考えています。

100年企業の実現と食文化を守るために会社の基盤を整える

ーー採用については、どのような取り組みを行っていますか?

磯貝幸弘:
就職イベント会場のブースでは、私自身が直接学生と話をしています。会社の特色、経営方針だけでなく、長期休暇や初任給、手当などについても行き違いがないように率直に説明しています。その結果、昨年、一昨年と新卒採用がゼロでしたが、2024年は高校生3人と大学生3人が入社してくれました。

ーーゼロから一気に6人採用というのは、すごいですね。今後の採用計画はどのようなものでしょうか?

磯貝幸弘:
弊社の人員構造はいわゆる砂時計型で、20代と50代に比べ、30代と40代が極端に少ない状態です。弊社がこの先も「日本の伝統的な食文化を守る」取り組みの一翼を担い続け、100年企業として存続していくためには、会社の基盤を強固にしなければなりません。

卒業したばかりの新卒採用と経験値の高い中途採用をバランス良く行い、社員の年齢構成を適正化し、中間層が少ない砂時計型から脱却することは必要不可欠です。どの業界も人手不足に苦しんでいますが、地道に人材を確保していくつもりです。

ーー社員に対して望んでいることを教えてください。

磯貝幸弘:
社員には幸せになってほしいということに尽きます。社員が幸せな人生を実現するための一部として会社があるので、働きながら自分の幸せを見つけて、それをかなえてほしいですね。

編集後記

「地元の方々に愛されてきたこと」への恩返しとして「愛知のキムチ」をヒットさせた磯貝社長。漬物に使う野菜の無駄をなくした商品開発にも積極的だ。SDGsにつながる活動にも取り組んでいて、人と地域、自然を大切にしている真摯な横顔を垣間見ることができた。

また、磯貝社長はインタビューでこれからも漬物を食べてもらえる消費者を育てるためには「食生活」を育む場所、すなわち家庭に目を向け、伝統を守ることにも取り組んでいかなければならないと語っていたのが印象的だった。これまで歩んできた道を大切にしながら、未来に循環できる商品の開発にも前向きな姿勢を示している磯貝社長。日本の食文化を守る同社の挑戦はこれからも続くだろう。

磯貝幸弘/1968年、愛知県生まれ。1991年、愛知学院大学商学部を卒業後、ダイニチ食品株式会社に入社し、営業職に配属される。その後も営業ひと筋に進み、1994年に係長、1999年に課長に昇進。2008年、子会社である株式会社浜松ダイニチに出向。2014年に本社取締役営業部長、2018年に専務取締役を歴任後、2020年に代表取締役社長に就任。