福岡県朝倉市に本社を置く株式会社セリア・ロイル。九州地方の学校給食でおなじみのフローズンデザートをはじめ、全国の外食チェーンやコンビニエンスストアのメニュー開発も手がけている食品メーカーだ。代表取締役社長の山内大助氏に、就任時の苦労や今後の展望、企業の強みについてうかがった。
企業のストーリーと社長就任後の取り組み
ーー山内社長のご経歴を教えてください。
山内大助:
弊社の前身である「ロイヤル食品」は上場企業の完全子会社で、父はオーナー経営者ではありませんでした。事業廃止の話が出た中で、銀行や外部株主様の力を借りてMBOに至ったという流れがあります。その当時、私は外資系IT企業に勤めていたのですが、MBO後、間もない2011年に父が亡くなったため、遺志を継ぐ形で「ロイヤル食品」へ入社しました。
多額な借入金と持分比率が3割しかない株式だけを引き継ぎましたので、当時は精神的なプレッシャーがありました。その後、親会社の資本が外れたことで商標・商号は使えず、経営理念や社名を変更した上での営業活動においても苦労しました。
ーー社長として社員や顧客からの信頼を得るために求められる活動もあったのでしょうか?
山内大助:
初めの1年間はとにかく休日も休まず出社し、経営に関する勉強をしながら現場を見て回りました。アイスクリームの品質基準は乳等省令(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令)にもとづく厳しいものですので、まずは衛生管理を満足のいく状態にまで改善したかったのです。
私は創業者でもカリスマ性を持った人間でもないため、「誰よりも早く出社して清掃し、従業員を迎える」「何事も従業員と話し合って決める」ということも心がけました。コミュニケーションに関しては、自分から話しかけることを今も意識しています。話しやすい空気感と企業としての厳しさには一線を画しつつ、社員・パートを問わず、くだけた会話でもできる風土があります。
コロナ禍で感じた販路拡大の重要性
ーー現在は新規販路の開拓に注力しているのでしょうか?
山内大助:
弊社の売り上げはコンビニエンスストアと業務用商品の比重が大きい構成となっています。
しかし、コロナ禍を経て、量販店の領域を拡大する必要性を痛感しました。巣ごもり需要によって量販店のマルチパック(複数のアイテムをまとめて販売するパッケージ)のシェアが急増した一方で、CVSは勤務先の近隣で立ち寄られるといったシーンが多かったこともあり、売り上げを落としてしまったのです。徐々に戻ってきた現在でも全国の量販店や問屋へ積極的に営業することでシェアの安定化を図っています。
小売業界における商品開発・マーケティング戦略
ーー商品開発に関する強みや課題はありますか?
山内大助:
大手外食チェーンやコンビニエンスストアのプライベートブランド開発に関わっているため、年間で約80程度の新商品を商品化しています。お客様から要求される開発スピードに臨機応変にお応えできる点も弊社の強みといえるでしょう。
「手の込んだ商品でも大量生産できる」という中小企業ゆえの強みも維持し、大手企業との棲み分けもしていきます。毎年のように改良しなくてはいけないメニューは機械化が難しく、大手の参入は厳しいのです。
ーー商品のコンセプトはどのように決定するのでしょうか。
山内大助:
基本的に営業担当がお取引先のニーズをうかがいます。弊社には多様な商品にチャレンジできる環境があり、ひとつのニーズを追求することも可能ですし、様々なブランドとのコラボレーションも得意としています。
量販店に販路を広げるためには、NB(ナショナルブランド)のラインアップも増やさなくてはいけません。コンビニでは高級感のある商品が人気ですが、量販店向けとしては子どもに親しまれる味やファミリー層が手に取りやすい価格帯を目指す必要があります。
求める人材――「食べることが好きな人に来てほしい」
ーー貴社で働く魅力について、お聞かせください。
山内大助:
商品を開発していく過程で、いろいろな食材にふれる機会があります。「好きこそ物の上手なれ」と言いますので、食が好きな人にぜひ来ていただきたいですね。
つくるだけでなく食べる喜びも感じられるという意味では、私が就任してから社内食堂では自社アイスクリームが食べ放題になってます。また、過去最高値などの記録を祝う時や周年祝いに合わせて、デコレーションケーキやオリジナルグッズを記念品として配布したりもしています。
ーー今後の展望についても話していただけますか。
山内大助:
弊社を、個々の強みを活かせる集合体にしたいと思います。父の時代は経営者が全ての方向性を決めるトラディショルな会社でしたが、今は従業員の発想を活かせる環境を作り、各部署が協力した上で会社として結果を出しています。今後も「会社の安定化」を目的として、「年商100億円」「マーケットシェアの平準化」といった社内目標を達成していく予定です。
編集後記
セリア・ロイルのアイスクリーム事業は今や九州に留まらず、全国規模で展開されている。現場へ赴き、従業員の声を聞くリーダーがいるからこそ、時代のニーズを見落とさない「丁寧な経営」が可能なのではないだろうか。
山内大助/1969年、福岡県生まれ。福岡大学工学部電子工学科を卒業後、18年間にわたり、大手IT企業に勤める。2011年にセリア・ロイル(旧ロイヤル食品)へ入社。顧問、代表取締役専務を経て2014年に代表取締役社長に就任し、現在に至る。