2024年4月、建設業界における時間外労働の上限規制が適用された。これは、2019年4月に施行された働き方改革関連法の運用について、業界事情の特殊さから5年間の猶予期間が設けられていたものである。
『ちゃんと・真面目に・きっちりと!!』を合言葉に、神戸で多様な施工を展開するヒョウ工務店は、建設業でありながら、2019年に他の業界と同時に働き方改革をスタートさせて注目を浴びた。同社はまた、2007年、建設業界に先駆けて現場管理ソフトを開発し、抜本的な業務の効率化を実現している。卓抜な改革精神で業界の一歩先を走り続けるヒョウ工務店代表取締役会長兼CEOの瓢裕一郎氏。公共工事や大規模修繕、注文住宅、リフォーム業など幅広く手掛ける総合建設業を展開する同CEOに話をうかがった。
建設業としていち早く働き方改革を導入
ーー働き方改革の導入によって得られた変化について教えてください。
瓢裕一郎:
まず、働き方改革が決まったとき、僕なりにいろいろ勉強して社員が楽になる方法や、社員が休む時間をきちんととれて、より効率的に仕事ができる方法を模索しました。
そして、2019年に働き方改革がスタートし、建設業は2024年4月まで猶予期間を与えられましたが、普通に考えて導入はなかなか難しい。特に建設業にとっては、当時の段階では導入課題が多いと思いました。そこで、弊社では2019年から猶予期間ではあるが助走期間として取り組みをスタートしようと考え、社員にも準備と練習のために対応してもらいました。
「8時半から始めて、17時半までに業務を終わらせてください」、「19時までは現場監督さん個人の裁量で残業してもいいですよ」とお願いしたら、当然ベテラン組は猛反発しましたが、半年後にはその社員たちが19時であがるようになりました。休みもしっかりとって、「体が楽だ」という声が聞かれるようになったのです。
ーー建設業界ではIT化が遅れていると聞きますが、貴社はいかがでしょうか。
瓢裕一郎:
働き方改革の対応以前に、弊社では2015年にIT事業部を立ち上げました。デジタルによる業務効率化、今でいうIoT、DXのはしりです。当時ITによる管理などは、建設業ではほとんど普及していませんでした。ソフトは多少あっても、弊社の望むものがない。「だったら、自分たちでつくろう」ということで、現場管理ソフトを作りました。建設の営業も会計や経理も、僕は一応全部を担当しているので、統括してプロデュースしました。まるで僕の知識を注ぎ込んだようなソフトです。
結果として、IT化によって驚くほど利益率が上がりました。このソフトを使うと、収益も現場の人員配置も瞬時にわかります。そして、面倒な書類の仕事にすべて対応できます。現場監督の仕事はほぼ書類づくりですから、こういったツールは非常に役立ちます。長時間労働の負担を軽減できたのは、早期IT化という背景があったからなのです。
将来を見据えて未来の幹部を育てていく
ーー建設業界の人材確保については、どのような対策をとっていますか?
瓢裕一郎:
これからを担う人材を欲しがる経営者は多いと思います。しかし、建前と本音が全然違うという場合が多いです。建前は「入社後すぐに活躍してほしい」と謳っていたとしても、実際は目の前の業務を処理するための人員を求めている場合も多いのです。せっかく建設業に夢を抱いて来てくれた社員を、そのような理由で不安にさせたくありません。
今の20代の方は、賢いし頼もしいと思っています。ただ残念ながら、ちょっとした失敗を恐れる傾向があると思います。入社後は、失敗をどんどんしてもらいたいと思っています。ちょっとした失敗は僕らがフォローしたらいい話なので、失敗からものを考えることを学んでほしいです。まるで父親のような思いがありますね。
ーー若い世代を支援するために取り組んでいることはありますか?
瓢裕一郎:
「Lim's House Design」という設計部門を立ち上げました。主に若年層のスタッフに特化したチームです。スタッフは当然プレッシャーを感じると思いますが、そこを会社が支えることで挑戦できる環境を整えています。学校では教わらなかった厳しさもあるでしょうが、彼らの能力を信じています。失敗したとしても、いずれ必ず彼らの財産になるはずです。
自分の家族が安心して住める家づくりを
ーー今後、品質改善に注力していくとうかがいましたが、その背景を教えてください。
瓢裕一郎:
阪神・淡路大震災があり、僕らの年代には大切な方を亡くされた方が多くいます。せっかく建てた家がつぶれて、家族を亡くしてしまう。それは絶対に避けたいという思いから、家の耐久性を高めるために、建築基準法の1.5倍の強さである「耐震等級3」の家をつくっています。
建物の品質は、設計と施工で決まります。国の施工要領の指針に則った施工をしなければ、職人の感覚でつくった建物になってしまいます。反対に、正しい設計があっても、それを形にできる技術力がなければ、「自分の家族が住んでも安心な家」にはならないでしょう。これからもチーム一丸となって、正しい設計と確かな技術力で自分の家族が安心して住める家をつくっていきます。
編集後記
長時間労働の常態化や人材不足、若者の離職など、建設業界がかかえる問題は切実だ。大胆なIT化で、はるか以前に2024年問題の突破口をひらいていた改革の人、瓢CEOは「我々は社会に常に満足を提供する集団である。」という経営理念を掲げている。
働き方改革のいち早い導入、若者を見つめる視線、品質へのこだわりなど、その思想は、社会貢献の方向へ向いている。震災の痛みをかかえながら、神戸で建設業として生きる。ヒョウ工務店の挑戦は、建設業界のひとつの指針となっていくだろう。
瓢裕一郎/1979年生まれ。神戸市立神戸工業高等学校卒業。2001年、現在の株式会社ヒョウ工務店の前身、有限会社ヒョウ工務店を創業。現在は代表取締役会長兼CEO。1級建築施工管理技士、宅地建物取引士、1級建築士、1級土木施工管理技士の資格を保有。