あなたは犬や猫のフードの品質について考えたことはあるだろうか?「オーガニック」や「無添加」は人間のためだけの言葉ではない。犬や猫にもまた、安心・安全な食べ物が必要だ。しかし、日本のペット業界における取り組みは十分とは言い難いという。
犬猫生活株式会社の代表取締役である佐藤淳氏は、そんな日本のペット業界に疑問を抱き、ゼロから起業した行動力の塊のような人物だ。さらに動物の福祉向上を目指し、犬と猫の保護活動などを行う非営利の団体(一般財団法人犬猫生活福祉財団)も立ち上げたという。
そんな佐藤社長の目標は「会社」と「財団法人」を両輪で成長させ、犬と猫にとって暮らしやすい社会をつくること。一体どのようなビジョンを持って経営に臨んでいるのか、佐藤社長にうかがった。
野良猫の保護をキッカケに起業を一念発起
ーー起業した理由を教えてください。
佐藤淳:
前職のオイシックス・ラ・大地株式会社に勤めていたときに、野良猫を保護したことがキッカケです。猫と一緒に暮らすなかで猫の食事について考えるようになり、より良いフードを提供したいという思いから起業しました。
そもそも、日本のペットフードは質の面で海外に比べてまだまだ遅れています。一方で良い食材と高い加工技術があるので、これらを活かせば良質な国産のペットフードがつくれると思ったのです。
ーー貴社の強みはなんでしょうか?
佐藤淳:
弊社の強みは「食品へのこだわり」と「ブランドの信頼性」の2つです。
まず食品へのこだわりですが、弊社のフードはすべて人間でも食べられる食材を使っています。さらに添加物も使わず、国産にこだわっているので、安心して愛犬、愛猫に与えていただけます。
またブランドの信頼性については、弊社は犬と猫の保護活動を行う財団法人も立ち上げました。ペットフード業界は利益優先のイメージが残っており、それが業界全体への不信感につながっています。私たちは事業で得た利益の20%を継続して財団に寄付し、動物福祉向上に真摯に向き合っており、そのことが顧客からの信頼にもつながっていると感じます。
保護活動のキッカケは純粋に「犬と猫のため」という思いから
ーー財団法人ではどのような活動をしているのですか?
佐藤淳:
財団法人は会社とは別の独立した法人として、財源は弊社の利益の20%を充てているほか、一般の方や企業からの寄付金に支えていただいています。
活動目標として殺処分ゼロ、保健所等に収容される子ゼロ、不適切な飼育環境ゼロという3つのゼロを掲げており、そのために保護シェルターや不妊去勢手術専門の動物病院の運営などをしています。
ーー保護活動に取り組もうと思ったキッカケは何ですか?
佐藤淳:
野良猫を保護して一緒に暮らすなかで、猫を取り巻く悲しい現状を知ったためです。猫は繁殖力が高いこともあり、野良猫の頭数管理は難しいところがあります。この現状が改善されない限り、保健所に収容されて殺処分になる猫はゼロにならないでしょう。
犬や猫の事業で利益を得たら、犬や猫に還元するのは当然のことだと思います。事業を通じて犬や猫にしっかりと良い食事を提供して、その利益の一部を財団を通じて還元し、良い環境づくりに使う。こうして人と犬・猫がWin-Winの関係になれる良いサイクルをつくれれば、人も犬も猫も今より幸せになるはずです。
今後は犬と猫の生活を総合的に支える組織へ
ーー今後のビジョンを教えてください。
佐藤淳:
犬と猫の生活に関する総合プラットフォームづくりに取り組みたいと思っています。具体的にはフード、生活産業、イベント、メディアの4つを軸に事業展開を考えており、商品やサービス、情報など多角的な方法で犬と猫とその家族の生活を支えていきます。
現在メインのフード事業のほか、生活産業である動物病院をスタートしていますが、今後は、同じく生活産業としてトリミングサロンの運営も計画中です。
日本では犬や猫に関するブランドは認知率が低いので、さまざまな角度からアプローチすることで、業界とも良い関係を築きながらブランドとして成長していきたいと思います。
また、事業のグローバル化にも取り組みたいと考えています。日本のペットフードが世界から遅れている状況を変えるために、世界に通用する良い商品を海外に展開していきたいですね。
ーー具体的にどのような事業に取り組んでいく予定ですか?
佐藤淳:
フード事業でいうと、今後はサプリメントや機能性のある商品の開発に取り組みたいと考えています。犬や猫向けのサプリメントは人向けの商品を代用していることが多いので、犬や猫に向き合った商品をつくるつもりです。
特に注力したいのが身体的課題が発生しがちなシニアの犬や猫へのアプローチです。個体ごとの課題を個別ケアできる商品をつくり、犬や猫がより健やかに暮らせるような取り組みをしていきます。
そのほか、犬や猫の楽しみとしておやつの開発も考えています。
広く世のためになってこそビジネスは価値を持つ
ーーこれからのビジネスにはどのようなことが求められると思いますか。
佐藤淳:
これからのビジネスに大事なことは「社会性」と「グローバル性」です。
社会性は事業の意義というビジネスの根幹に関わることであり、ビジネスは社会性が担保されなくては長続きしません。お金を稼ぐ「仕組み」でビジネスをすることも可能ですが、それでは信頼を得られませんし、ビジネスとしての面白みもありません。ビジネスを通じて価値を提供し、その結果の対価や信頼を得て、社会を良くしていく。このサイクルが価値のあるビジネスの根本といえるでしょう。
グローバル性はこれからの日本に求められることです。少子化や高齢化などで経済規模が縮小するなかで、日本の強みや良さを発信していくには海外にも目を向けなくてはいけません。
世界に出て勝負していくことで日本ブランドの価値が上がりますし、国内経済を回すことにもなります。私が国産のペットフードにこだわって提供できているように、日本には良いものを生み出せる地盤があります。今後、志を持って事業を立ち上げる人が増えてくれると嬉しいですね。
編集後記
佐藤社長は起業のきっかけとなった思いを商品、事業、組織、さらにはビジョンへと、一貫した幹を持つ木のように育てている。木は着実に成長しており、今後は枝葉となって犬や猫を愛する私たちの生活に恩恵を与えてくれるだろう。佐藤社長の思いが犬や猫、そしてその家族を支える大樹となる日はそう遠くないかもしれない。
佐藤淳/2013年にオイシックス・ラ・大地株式会社に入社。EC事業本部の販売推進室の責任者として、LTV(顧客生涯価値)を高めるための施策全般を管理。2018年に犬猫生活株式会社の前身となるオネストフード株式会社を設立。国産無添加のペットフードD2Cブランドとしてスタート。2021年、前澤ファンドから出資を受け、今に至る。また、2021年には犬猫の動物福祉の向上を目指し、一般財団法人犬猫生活福祉財団を設立し、理事長に就任。ペット栄養管理士。