※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

2023年、フィッシングによるインターネットバンキング関連の不正送金の被害件数は過去最多の5,147件で、被害金額は80.1億円(2023年11月時点での数値)となった。(※)

(※)出典:一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター

昨今はフィッシング詐欺やクレジットカード情報の盗難による、不正利用が横行している。こうした不正取引から事業者を守るために対策用製品の開発・提供を行っているのが、かっこ株式会社だ。

同社の主力サービスは不正注文検知サービスの「O-PLUX」で、業界シェア1位を誇っている。代表取締役社長、岩井裕之氏に、事業の強みや今後の戦略を聞いた。

世界中で横行する不正取引にビジネスチャンスを見出す

ーー岩井社長の経歴や起業の経緯を教えてください。

岩井裕之:
最初はCD・DVDを扱う商社に入社し、その後オンライン決済関連の会社に転職しました。当時ビジネススクールに通っていたのですが、そこで美容室を経営している方と知り合いになったのです。

その経営者の方に「そろそろまた転職しようと思っているんだよね」という話をしたら、「岩井さんは起業するのだと思っていた」と言われました。

そのときに、もともと自分が起業したかったことを思い返し、何も行動を起こさないうちに15年も経っていたことに気づきました。「何かチャンスが巡ってきたら起業しよう」とは思っていましたが、チャンスは自らつかみに行くべきだと気付いたのです。

決意を新たに翌年2011年に起業すると決め、私と3人のメンバーでかっこ株式会社を立ち上げしました。

ーーなぜ不正検知サービスを始めることにしたのでしょうか。

岩井裕之:
付き合いのある会社の社長から「不正対策プロジェクトを始めるから、そのプロジェクトのマネージャーになってほしい」と言われたことがきっかけです。もともとは別の事業を始める予定でしたが、創業メンバーと話しているうちに「自分たちの得意なことを、この不正対策サービスで活かせるのでは」と思うようになり、着手することにしました。

不正取引の問題はあちこちで起こっていますが、不正対策のシステムを自社で開発し実用に至るまでには長い時間がかかるため、すぐには対応できないのが実情です。

私たちの技術があれば短期間かつ低予算でシステムを開発でき、たくさんの人に喜んでもらえるのではないかと思いました。また、インターネット上の不正取引は世界中で起こっているので、この市場にはニーズがあると感じたのです。

不正検知システム・決済コンサルティング・データサイエンスの3つが強み

ーー貴社の事業内容や強みを教えてください。

岩井裕之:
不正注文検知サービスは、ECサイトから弊社に注文データを連携してもらい、そのデータを元に不正のリスクを審査するものです。住所や氏名、商品の購入パターン、「O-PLUX」の利用企業間で共有するネガティブ情報など約200以上の要素から多面的に判断をしています。

弊社の不正検知システムは国内導入シェア1位であり、他社よりも毎日多くの審査を手がけています。今までの不正のパターンに関する膨大なデータが蓄積されており、その分高精度な審査を実現できることが強みです。

また、不正取引を企む海外のユーザーにとって日本語を正しく理解することは難しいものです。そこで、弊社では注文情報における氏名とフリガナの不一致に着目し、より精度の高い審査を行えるようにしました。そのほか、システムを自社ですべて開発しているので、価格に優位性があることも強みですね。

その他にも、後払い決済サービスを利用したい企業向けのコンサルティングサービスや、売上分析や業務効率化を行うデータサイエンスサービスがあります。データサイエンスサービスは、たとえば建材メーカーであれば工場の生産計画を立てる場面などで役立っています。

今後は不正対策以外の市場やグローバル展開も視野に

ーー今後の注力テーマについてお聞かせください。

岩井裕之:
1つは対応領域の拡大です。不正取引は世の中でたくさん起こっており、最近では特にフィッシング詐欺が増えています。弊社のサービスは、ECや金融以外の不正の制御にも貢献できます。

また、不正取引の審査で弊社に提供される情報には、消費者の購入品やその金額など、マーケティングに使えるものも多くあります。そのようなデータを活用した新たなマーケティング支援に貢献できる新製品の開発も検討しています。

そのほか中長期的には、ECサイトの構築や運用支援、さらには、グローバル展開にもより力を入れていきたいと考えています。具体的には、インドネシアやシンガポールに弊社ソリューションを提供し、ユースケースの創出を行っていたり、ベトナムの大学と人材育成支援におけるプロジェクトに取り組んでいきます。

編集後記

求める人材像について「自己中心的でなく誠実で、論理的な思考ができる人。個人としての目標を持っていることが重要」と語った岩井社長。これから社会に出る学生に対しては「自分がどうやって成長できるかを軸に仕事を考えるのが良い」とメッセージを送った。

同社のサービスは企業のセキュリティ対策に不可欠であり、さらに多様化する不正取引の手口にどのように対応していくのか、今後の活躍により一層期待したい。

岩井裕之/CD・DVD商社を経て、オンライン決済関連会社に転職。2011年かっこ株式会社を創業。「未来のゲームチェンジャーの『まずやってみよう』をカタチに」を掲げ、データサイエンスの技術とノウハウをもとにSaaS型アルゴリズム提供事業を展開。第14回ニッポン新事業創出大賞で経済産業大臣賞、第17回ASPICクラウドアワード2023 社会業界特化型系ASP SaaS部門で先進技術賞を受賞。デジタルリスク協会理事も務める。