現在6兆円を超えるとされる国内広告の市場は、2020年の特例を除いてほぼ毎年伸長を続けている成長産業だ。常にニーズの変化に対する新しい広告のあり方を模索しながら、ソーシャルメディアの発展によるネット広告の拡大など、さらなる成長が期待される業界である。
そんな中、2020年に設立した株式会社チアドライブ(東京都中央区)は自ら開発したプラットフォーム「Cheer Drive(チアドライブ)」を運用し、まったく新しい広告を手がける。
一般乗用車の車体にステッカーを貼ることで広告スペースとして活用するスタイルは、社名そのままに「ドライブすることで企業や組織の応援ができる」画期的なビジネスとして異彩を放っている。仕掛人であり創業者の代表取締役社長、保科昌孝氏に、経歴や経営方針、事業内容などについて話を聞いた。
ゼロから生み出すことに価値を見出し起業に昇華
ーー起業を目指したきっかけを教えてください。
保科昌孝:
群馬県渋川市に生まれ、車が生活の一部という環境にも後押しされて大の車好きに育ちました。同時に広告も好きだったので、大学でもその分野の学部を専攻しています。
大学進学をきっかけに横浜市に移り、ある人気TV旅番組のステッカーが貼られている車が街を走っていたことに衝撃を受けました。好きな番組のロゴを自分の車に貼るという行動に驚きを感じたことが、のちにこのビジネスを立ち上げるきっかけになっています。
ーーかの「N高等学校」立ち上げのご経験をお持ちですね?
保科昌孝:
元々はドワンゴでインターネット生放送番組のプロデューサーをしており、主に将棋番組を担当していたのですが、プロ棋士とコンピューターが戦う「将棋 電王戦」の企画が大成功したことが評価され、KADOKAWAとドワンゴが企画するN高等学校の立ち上げに携わることになりました。
通信制の高校だからといって決して不登校児の受け皿にはならないように施策を講じ、さらに高等部だけでなく「中学生向けの中等部」を新たに設けることで課題の解決を目指してきました。
ーー当時から新しい事業を開発していたのですね。
保科昌孝:
今までなかった中等部をつくったことで、保護者の方からは「ずっとこんな学校を待っていました」という声をいただきました。
既に存在している、同じようなサービスに少し価値を追加しただけでは社会貢献度はそれほど高くはない。今までなかったものを世の中に出して喜んでいただくこと、それこそ有意義なのだとN高の立ち上げのときからずっと感じていました。それが独自の事業を興すことにつながっていったのです。
一般ドライバーの参加しやすさと物理的な広告力が強み
ーー具体的な事業内容をお聞かせください。
保科昌孝:
チアドライブは「車に好きな商品やサービスのステッカーを貼って走行する」ことで企業や団体を応援し、お礼として走行距離に応じた副収入を得られるサービスです。
参加希望者はチアドライブのスマホアプリをインストールするだけで無料で始められます。好きなデザインの広告ステッカーを貼っていただいた後は、走行距離に応じて、1㎞当たり3円〜5円、1ヵ月3000円〜5000円相当の報酬を受け取れるシステムです。過去のキャンペーンへの参加回数や、1ヵ月の走行距離に応じて決められるドライバーランクによって1km走行あたりの報酬額が決まります。
ーー貴社の差別化ポイントはどんなところでしょうか?
保科昌孝:
自分の車にステッカーを貼るにはそれなりのハードルがあり、応援したい企業でないとできないので、ステッカーを見た人に、そのサービスや商品が「愛されて応援されている」という認識を与えることができます。
ステッカーを貼る側は、車を所有していれば誰でも参加でき、応援したい会社や組織の盛り立て役としての満足感も得られますので、このサービスはこれまでの広告にはない効果があるといえます。
ーーこの広告サービスの強みは何でしょうか。
保科昌孝:
後続車のドライバーに対する訴求力の高さがポイントです。運転中は必ず前を見ていますので、前車のリアウィンドウに貼られたステッカーは必ず目に入るはずです。
多くの屋外広告が中々目に入らないのに対し、無視できない形でPRできることは大きな強みだと考えております。
マイカー広告ビジネスを広めていく狙い
ーー新規の開拓についてはいかがでしょうか。
保科昌孝:
アメリカではこうしたシェアリングエコノミー型(複数の人が同じ車や物流手段を共有する仕組みのこと)の広告はかなり普及していますが、まだ日本では馴染みがありません。
チアドライブは、出稿企業様に対して費用対効果の高い広告として提供できることはもちろん、話題性もあり、多くのドライバーの生活を豊かにすることに貢献できる新しい仕組みです。現在、大手の広告代理店も一緒になって実績をたくさんつくろうと今まさに動いている最中です。
現在、6/1〜6/30の期間でカラオケのJOYSOUNDとの走行キャンペーン(※)を実施しており、限定1,000名の募集も即日定員に達するなど、反響をいただいています。
(※)JOYSOUND PRキャンペーン
ーー災害支援の企画も手がけていらっしゃいますね。
保科昌孝:
参加費をすべて災害被災地へ寄付する企画で、車のリアウインドに応援メッセージを添えたステッカーを貼っていただきます。ウクライナ戦争や能登半島、台湾の地震災害のときには、一度に何百台も集まっていただきました。
ーー人事面での社内方針をお聞かせください。
保科昌孝:
弊社では現在、家族やプライベートの時間を大切にしてほしいという思いから、週休3日を選択することも可能です。真に生産性を上げるためには、追い込まれた状態にならずに余裕を持つことも重要でしょう。
私生活や家族をおざなりにして仕事をするようではメンタルが続きません。プライベートも含めてリフレッシュした中でいい仕事も生まれると思い、そのような方針をとっています。
ーー一緒に仕事をしたい人物像についても教えて下さい。
保科昌孝:
新しいことに挑戦する喜びを一緒に分かち合える人が理想です。新しいことをするには困難がつきまとうものなので、淡々と同じことを繰り返すのが好きという方には苦しく感じる場面が多いかもしれません。弊社では、仲間と協力してゼロからなにかをつくり上げるのが好きな方を歓迎します。
編集後記
保科社長はかつて多忙な会社員時代に「60日連勤という過酷な経験をした」というだけあり、健康的に働ける環境を整えることには特にセンシティブに対応していると見受けられる。N高校では新規事業や、新たな企画を次々に立ち上げ、これまでにない教育を提供してきたそうだ。その実績が評価され副本部長として教育事業を総括する立場に抜擢されている。行動派の社長が次にどんな秘策を打って出るのか楽しみでしかたがない。
保科昌孝/2008年、インターネット広告代理店に新卒入社。2012年に株式会社ドワンゴに転職し、ニコニコ生放送公式番組のプロデューサーとして、将棋の電王戦などを担当。2015年、学校法人角川ドワンゴ学園に出向し、N高等学校の立ち上げに携わる。2018年からは副本部長として教育事業全体を統括。2020年に株式会社チアドライブを設立。2021年にマイカー広告サービス「Cheer Drive(チアドライブ)」をリリース。