
コンサルティング業界の中でも、海外事業の経営支援を担う領域は、グローバルな視点と現場密着型のアプローチが求められる厳しい市場である。YCPホールディングス(グローバル)リミテッドは、従来型のデータ分析や戦略提案にとどまらず、企業変革を現場から支える「マネジメントサービス」に注力し、他社とは一線を画する地位を築いてきた。
アジア発の視点を強みとする同社の現場密着型の支援体制は、経営者と一体となり、企業の可能性を引き出す独自のスタイルとして、多くのクライアントから高い評価を得ている。今回は、取締役兼グループCEOの石田裕樹氏に、創業からの歩み、グローバル展開の背景、そして未来を見据えた成長戦略についてうかがった。
企業変革を現場から支えるマネジメントサービス
ーー創業までの経緯についてお聞かせください。
石田裕樹:
大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券で企業投資を担当し、投資先企業の経営改善に強い関心を持って取り組んでいました。しかし、リーマン・ショック等の影響による投資方針の変更があり、企業の経営に深く関与するハンズオン型の経営支援の機会が減少したのです。
そこで、自身が理想とする経営支援を追求するために独立し、2011年にヤマトキャピタルパートナーズ(現:YCPホールディングス(グローバル)リミテッド)を設立しました。
ーー貴社が展開されている事業の特徴を教えてください。
石田裕樹:
最大の特徴は、一般的なコンサルティング会社がデータ分析を基に経営戦略を提案し、報告書を納品することを主な業務としているのに対し、弊社は「マネジメントサービス」として、企業の経営現場に常駐し、経営者と一体となって会社の変革を支援する点です。
単なるコンサルティングにとどまらず、人材、資金計画、業務プロセスの構築など、事業運営に必要な要素を包括的にサポートし、具体的な成果を生み出すことに重点を置いています。
また、2013年からシンガポールや上海をはじめとする海外拠点を設立し、インドや東南アジアを中心に約500名のコンサルタントを擁する体制を整えていることも特徴です。このグローバルなネットワークにより、未上場企業への投資を行うPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)をはじめ、日本企業、欧米企業、さらにはアジアの現地財閥など、多様なクライアントのアジア全域でのビジネス展開を強力にサポートしています。
さらに、M&A、デジタル、マーケティング、サステナビリティなど、各分野に精通したプロフェッショナルが在籍している点も大きな強みです。この専門性の高さが、多様な経営課題を抱えるお客様に対して、それぞれのニーズに応じた的確なアドバイスの提供を可能にしています。
アジア発の視点で切り拓く地域密着型コンサルティング

ーー海外展開の成功の背景には、どのような戦略があったのでしょうか?
石田裕樹:
私たちは、アジアに根ざしたアジア発のコンサルティングファーム(企業の経営課題を解決する専門家集団)として成長してきました。コンサルティング業界にはアメリカ発のファームが数多く存在しますが、「アジアの企業の課題解決を欧米のファームに委ねることは、本当に最適な方法なのだろうか」という疑問を抱くようになったことが展開の原点にあります。
そこで、「成長著しいアジア市場を深く理解し、各国・各地域の特性やニーズに深く根ざした支援を提供する存在が必要だ」という確信のもと、現地の人材を積極的に仲間に迎えしながら経営に取り組んできました。この現地密着型のアプローチこそが、弊社の海外展開の成功を支える原動力となっています。
壁を乗り越えグローバル企業へと飛躍
ーー事業が飛躍的に成長した時期とその背景について教えてください。
石田裕樹:
最初の転機は、2014年から2015年に訪れました。それまでは、適切な価格設定ができておらず、案件受注数に対して十分な利益を確保できない状況でしたが、マッキンゼーやBCG(ボストンコンサルティンググループ)出身のメンバーが加わったことで、価格戦略やお客様への説明方法を見直し、効率的な体制を整えることができました。
その結果、創業から約3年が経過した頃、収益が大幅に改善し、新しいチャレンジに取り組む余裕が生まれたのです。もうひとつの転機は、日本での事業基盤が安定し、海外展開に注力し始めた時期です。
海外展開を始めた当初、日本と同程度のプロフェッショナルを擁しながらも、海外の売上はグループ全体の10%程度にとどまっていました。この状況が一変したのは、シンガポールのコンサルティングファームを買収した2018年末のことでした。
このグローバルなM&Aによって国際的なチーム体制を確立し、クロスボーダー案件への対応力を飛躍的に高めることができました。それにより、ビジネスの視点が大きく広がり、国際的な競争力を高めることもできたと思っています。
未来をつくる人材とともに挑む次のステージ
ーー今後の展望についてお聞かせください。
石田裕樹:
コンサルティング業界は非常に広大な市場ですが、弊社の日本拠点に在籍するプロフェッショナルはここ数年約100名にとどまっています。今後は、この規模を少なくとも3倍に増やし、業界内での認知度を大幅に向上させたいと考えています。それにより、日本企業のアジア市場進出支援をさらに強化できると期待しています。
ーーどのような人材を求めていますか?
石田裕樹:
弊社では、新卒者はもちろん、他のコンサルティングファームで経験を積んだ方々を広く歓迎しています。特に、現場に常駐して企業変革を支援する「伴走型」の体制が特徴ですので、このアプローチに共感し、グローバルな活躍を志す方にとって、弊社は格好のステージとなるはずです。
また、さまざまな国の人々と仕事をする中で、自分の強みを積極的に発信する姿勢が重要だと考えています。弊社では、そうした成長意欲あふれる人材の育成に力を注いでいます。「海外で挑戦したい」「自分を成長させたい」という志を持つ方々とともに、次のステージへ進んでいきたいと考えています。
編集後記
石田社長の言葉からは、アジア発の視点で企業を成長へと導くという揺るぎない信念が伝わってきた。単なる助言にとどまらず、経営現場に深く入り込み、変革をともに実現する「マネジメントサービス」の理念にはコンサルティングの新たな可能性が感じられる。
シンガポールをはじめとする海外展開の成功も、地域に密着し、現場を重視する支援の積み重ねの成果だろう。今後も、石田社長率いるYCPホールディングスが、企業の成長と変革を力強く支え、アジアから世界へと挑戦を続ける姿に注目したい。

石田裕樹/1982年新潟県生まれ。コーネル大学機械航空工学部卒業後、東京大学大学院工学系研究科で修士号を取得。2006年ゴールドマン・サックス証券に入社し、戦略投資部で投資先企業の経営再建に取り組んだ。2011年、ヤマトキャピタルパートナーズ(現:YCP Japan)を設立。2014年に香港、2021年にはシンガポールに拠点を移してグループ全体の経営に従事。同年、YCPホールディングスが東京証券取引所に上場。アジアを中心に多様な分野で事業を展開し、グローバルビジネスの最前線で活躍している。