※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

かねてより日本は、ICT教育の普及が遅れていると言われてきた。新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけにオンライン授業や「1人1台端末」の普及がほぼ実現したのは、2021年と、つい最近の話だ。そのような中で、株式会社バンザンは2007年からオンライン教育事業に携わり、AIを活用したオンラインプロ教師サービス「メガスタ」を普及させている。

地域や収入による教育格差をなくすことを目標に掲げる同社は、どのような取り組みをしているのか。同社の代表取締役社長を務める山田博史氏に、オンライン教育事業について話をうかがった。

「100年後もなくならないもの」を考えて、教育の分野で起業

ーー前職では銀行に勤務されていたそうですが、なぜ教育の分野で起業しようと考えたのですか。

山田博史:
銀行では入職後割とすぐにトップ営業マンになることができましたが、27歳でやるべきことをやり尽くしたと感じました。そこで27歳のときに「30歳になったら起業しよう」と決めたのですが、どの分野で起業するかはまだ決めていませんでした。

50年後や100年後まで残る会社をつくるためには、一過性のブームで終わらない分野で起業する必要があります。3年間考え抜いた末、将来にわたって必要とされる業種として思い浮かんだのが、教育に関わる事業でした。

ーー実際に起業されたあとは、どのような事業を展開しましたか。

山田博史:
1995年の会社設立後は、家庭教師の派遣事業や教育関連のコンサルティング、ホームページ制作などの事業を展開していました。ところが、やっている間に「これでいいのかな」と次第に違和感を抱くようになったのです。

当時私が気になっていたのは、地域によって教育に大きな格差があることでした。一例を挙げると、家庭教師の先生は東京から離れたところにはあまりいません。東京の中でも山手線付近に集中しています。東京都内だけでこれだけハッキリとした格差があるのですから、地方と東京の格差はさらに大きいでしょう。そういった教育の地方格差をなくしたいという思いから、2007年にオンライン教育事業をスタートしました。

AIを活用してオンライン教育の質の向上を図る

ーーオンライン教育事業について、具体的な内容を教えてください。

山田博史:
小学生から高校生・浪人生までを対象に、マンツーマンをはじめ、5人くらいまでの1対1、又は集団指導を、学生・プロ教師で行っています。録画による配信ではなく、すべてリアルタイム・双方向型の授業であることが最大の特長です。

オンライン教育事業を始めたときから、私は一貫してオンライン特有のクオリティを追求してきました。AIなどのテクノロジーを活用することで、オンライン教育の質を向上させています。現在は家庭教師の派遣事業はほとんど行っておらず、バンザンの事業の大部分がオンライン教育です。

ーーどのような形でオンライン教育事業にAIを活用しているのですか。

山田博史:
AIを使って授業の様子を分析することで、授業のクオリティを見える化しています。たとえば、生徒と先生の「発話の量」です。生徒と先生の発話にはちょうどよい比率があります。「どちらか一方だけがたくさん話していないか」「笑顔の瞬間がどれだけあったか」などの要素で、よい授業かどうかを割り出しています。AIが分析する項目は全部で30項目くらいあります。

また、毎回指導管理ができるように、AIでオンライン授業を採点するサービスも展開しています。質の低い授業はすべてアラートが出るので、そういった場合には教師を指導したり家庭に対してフォローを入れたりして、品質の向上につなげていますね。

教育格差の解消を目指し、世界の市場に進出!

ーー貴社の今後の展望をお聞かせください。

山田博史:
塾・予備校・家庭教師の市場規模は、およそ1兆2000億円と言われています。バンザンは、このマーケットをオンライン化したいと考えているのです。オンライン教育はすでに世界的に一般化しています。

たとえば韓国では、2015年にすべての学校で教科書を電子化していますし、中国ではSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルスの流行をきっかけに、オンライン教育事業が一気に成長しました。残念ながら、日本はオンライン教育の普及が遅れていると言えるでしょう。

編集後記

AIという最先端のテクノロジーをオンライン授業にとり入れた株式会社バンザンの事業は、日本の教育界にとって画期的な取り組みと言える。教育を通じて社会の根深い格差に挑むという構想に、教育の持つ可能性の大きさを改めて実感した。同社の取り組みによって日本の教育、そして将来を担う子どもたちはどのような成長を見せてくれるのだろうか。その未来に大きな期待を抱かずにはいられない。

山田博史/1965年、高知県生まれ。住友銀行(現三井住友銀行)でトップ営業として多くの実績をつくったのち、教育の道に進む。1995年に株式会社バンザンを設立。2007年にE-ラーニング(オンライン教育)事業、2012年にスタディ・タウン事業をスタートさせる。2017年に双方向型オンラインサービス開始し、急成長中。