
企業が資金調達の目的で発行する有価証券の一つである「社債」。一般的に、得られる利息や期間が予め定められている社債は、値動きによって資産価値が変動する株式よりも、投資リスクが低いといわれている。社債には、個人投資家が申し込みできる「公募債」が知られる一方、限定された人数の投資家だけが購入できる「少人数私募社債」という金融商品がある。
この少人数私募社債に着目し、個人投資家がオンラインで購入することを可能にしたのが、Siiibo証券株式会社だ。同社の代表取締役CEOである小村和輝氏に、その設立の背景と未来への想いをうかがった。
自由で透明、かつ公正な「直接金融」の創造を目指して
ーーこれまでの経歴と、起業の背景を教えてください。
小村和輝:
私は東京大学大学院工学系研究科に在学中、収集された情報の中から傾向や関連性を見出す「データマイニング」の研究分野を学びました。その際に使用したデータが金融市場のものだったことから、企業との共同研究に携わることになりました。
私自身、株取引に興味があったこともあり、さまざまな立場の方々の集合知によって成立する金融市場というものに、面白味を感じていました。
実はこの当時から、少人数私募社債という仕組みにも興味を持っていたのですが、日本では一般の人々に開放されている市場ではありませんでした。そこで、より広く深く日本のクレジット(社債)市場のことを知りたいと考え、大学院を修了後は、ドイツ証券に入社しました。
ドイツ証券でクレジットトレーダーとして国内外の社債、CDS(※1)、仕組債などのクレジット商品全般の取り扱いを経験する中で、債券市場の構造に課題感を抱きました。シンプルな商品ほど取扱いが機関投資家の間に限定され、仕組債など複雑な商品ほど一般の個人投資家向けに展開されているのです。
その後、転職したブラックロック・ジャパン株式会社では、注文から決済までを行う大規模な資産運用システムの導入プロジェクトがあり、既存の業務を解体して新しい業務に一本化する過程に私も携わりました。この導入経験を、少人数私募社債に特化したプラットフォームの構築に活かしたいと考えたのです。
(※1)CDS:クレジット・デフォルト・スワップの略。企業の債務不履行にともなうリスクを対象にした金融派生商品のこと。
ーーSiiibo証券創業時のエピソードと貴社の事業内容をお聞かせください。
小村和輝:
「自由・透明・公正な直接金融を創造する」ことをミッションに掲げ、2019年に株式会社Siiibo(現:Siiibo証券株式会社)を創業しました。大学院時代の同期2人も参画し、それまで練ってきた事業計画・構想をもとに、資金調達を行ったことを機に、本格スタートしたという形です。
弊社は、これまでクローズドな環境下で発行されてきた私募社債を広くオープンなオンラインプラットフォームに実装することで、投資家と資金調達をしたい企業をつなぐネット証券会社です。少人数私募社債とは、1債券につき勧誘対象を49人までに限定する有価証券で、開示規制の緩和と社債管理者の設定義務免除により、公募債と比べると低コストで発行できるというメリットがあります。
しかしながら、公には情報が開示されないため、これまでは購入できるのは企業と既成の繋がりがある主要取引先や株主、自社の役員や親族など、限られた人だけでした。このことから「縁故債」とも呼ばれていたのです。
企業が資金調達をする場合、日本ではその大部分の役割を銀行が担っています。しかし、銀行の資金源の一部が預金であることなどから、融資の実施には資金使途の制限や財務コベナンツ(財務制限条項)が設けられていることが多く、銀行融資では対応が難しい領域があります。
この領域を埋めるための資金調達市場が「プライベートデット」(※2)で、今、世界的に急速拡大していますが、日本におけるこの市場拡大は機関投資家を対象としたものが多く、個人投資家がアクセスできる市場は大変限定されています。
近年特に注目が集まっているのが、スタートアップ企業がデット(負債)性の資金調達を行う「ベンチャーデット」(※3)と呼ばれる領域です。2022年に発表された「スタートアップ育成5か年計画」に2本目の柱として「資金供給の強化と出口戦略の多様化」が組み込まれたこともあり、市場規模は、近年大きく成長しています。
これまで、個人投資家がアクセスできる機会が少なかった少人数私募社債をプラットフォームとして発展させ、企業が投資家から資金を調達する「直接金融」を可能にしていく「債券市場の民主化」が弊社の使命だと考えています。
(※2)プライベートデット:企業が銀行融資や公募社債以外の手段で非公開にてより柔軟に資金調達する手段。通常、機関投資家やプライベートデットファンドが貸し手となる。
(※3)ベンチャーデット:新興企業にとってのデット(負債)性の資金調達手段。
利息を得ながら企業を応援できる新しいベンチャー投資

ーー個人が少人数私募社債に投資できると、どのようなメリットがありますか。
小村和輝:
たとえば、ベンチャー企業が発行する少人数私募社債を個人投資家が購入する場合、投資という形で企業を応援しながら、保有期間中は決まった利息を受け取ることができます。社債投資のリスクとして、売却したい時に譲渡先(買い手)が見つからない流動性リスクがよく挙げられますが、弊社ではそのリスクを軽減する「定期換金債」という商品を展開しています。
中途換金が可能で、債券投資が初めての方にもご利用いただきやすいものとなっています。社債は一般的に発行時に決められた利率と期間で運用されるため、日々の値動きに一喜一憂する必要がない点も魅力でしょう。その他いくつかの取り組みも合わせ、債券投資のハードルを下げることで、さまざまな投資家の方が参入しやすい環境づくりを進めています。
企業側にとってもメリットがあります。株式発行による経営権の希薄化を起こさずに資金調達ができ、財務コベナンツの制限も受けません。銀行融資を受けにくいスタートアップ企業やベンチャー企業でも活用しやすいものとなっています。また、個人投資家から直接投資を受けるスキームは、事業を理解し応援してくれる投資家を集める機会にもなっています。
ーー将来の展望をお聞かせください。
小村和輝:
金融機関インフラの一つとして機能するために、弊社が上場してからが事業の本格的なスタートだと考えています。上場企業がサービス提供を行うことで、お客様の安心感にもつながるからです。したがって上場することを前提に、事業計画も策定しています。
個人投資家の社債投資の機会を広げるため、複数の社債を一つにまとめた「おまとめ債」を2025年2月から提供開始しました。一つの商品の中で銘柄分散されており、これまで個社の社債を選定して購入することにハードルを感じていた方にもご検討いただきやすいものになっています。このような商品開発等を通じ、これからも、一般の方々の選択肢の一つになる投資機会を増やしてまいります。
投資家と企業の繋がりが重視され、自分の投資が何に活用されているのか、使途の見える投資機会が近年求められているように感じます。企業を継続的に、直接応援できる、シンプルな仕組みを目指して、社債投資を特別なものではなく、身近な選択肢の一つとして広めていきたいと考えています。多くの個人投資家と多様な企業が直接繋がる機会を増やし、互いに支え合う新しい社会を実現させたいですね。
編集後記
少人数私募社債という、一般的にはまだ知られていない投資分野に特化したSiiibo証券株式会社。これまで限られた投資家のみが活用していた市場を開放し、「自由・透明・公正な直接金融を創造したい」と語る小村CEOの言葉から、力強い意志が伝わってきた。ベンチャー企業に投資できる場を提供する同社のプラットフォームが多くの人々に広まり、金融市場がより活性化する未来の訪れが待ち遠しい。

小村和輝/東京大学大学院工学系研究科修了後、ドイツ証券株式会社に入社。トレーダーとして国内外の社債、CDS、仕組債などのクレジット商品全般の取り扱いを経験。その後ブラックロック・ジャパン株式会社にて国内の運用会社・公的金融機関に向けたリスク分析および投資プロセスのアドバイザリー業務に従事した後、株式会社Siiibo(現:Siiibo証券株式会社)を設立、代表取締役CEO就任。一般社団法人Fintech協会理事。