※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

醤油全体の生産量の80%以上を占める濃口醤油の原料が大豆50%・小麦50%であるのに対し、たまり醤油は小麦をほとんど使わず、長い時間をかけて発酵・熟成させるため、2%の生産にとどまる希少な醤油だ。

1957年の創業以来、「美味しいたまり醤油を届けたい」という一貫した思いで昔ながらの製法を守りながら、自社で醸造した醤油を使って米菓用や焼肉のタレなどの調味液を製造しているヤマミ醸造。

同社の代表取締役社長、竹内加代子氏は、3代目として創業者である父の思いを受け継ぎつつ、精力的に商品開発や海外展開を進めて会社のさらなる発展を見据えている。竹内社長に創業からの歴史や会社の強み、今後の展望についてうかがった。

脱サラして一からたまり醤油の醸造を始めた創業者の思いを受け継ぐ

ーー社長就任までの経緯を教えてください。

竹内加代子:
もともと家業を手伝うつもりでいましたが、短期大学の卒業を間近に控えていた時に父から他の会社で働くように言われ、液糖メーカーに入社しました。営業事務として約3年間務めましたが、結婚を機に、夫と一緒にヤマミ醸造所(旧屋号)に入社しました。その後、夫が2代目社長に就任し、私は常務を務めていましたが、創業者である父の意向もあり、2年前に社長に就任しました。

ーー創業当初から自社でたまり醤油の醸造をしていたのでしょうか?

竹内加代子:
父である土屋春雄は7年間サラリーマンとして醤油屋に勤めていましたが、美味しいたまり醤油を自分の手で広めたいという思いから1957年にヤマミ醸造所を創業しました。創業当初は醤油屋から醤油を買って売り歩き、創業から3年後にたまり醤油の醸造を始めました。そこから17年後の1977年、愛知県半田市に大手醤油メーカーと同様の最新の設備を備えた醸造工場を新設しました。

たまり醤油の旨味を活かした調味液を小ロットで製造

ーー米菓用調味液の製造に至った経緯は何だったのでしょうか。

竹内加代子:
半田市に工場を新設した頃、醤油屋への販売だけでは毎月の売上が安定しなかったため、米菓業界への営業を始めました。たまり醤油は醤油全体の生産量のうち約2%と希少価値が高く、大豆80〜100%でつくるため、旨味成分が一般的な濃口醤油の2倍といわれています。

さらに、弊社では一般的な醤油と比べて塩分を低くする技術があります。そんなたまり醤油の特性をせんべいやあられの味付けに活かすことで、お客様に気に入っていただき、米菓業界への参入に成功しました。その後、米菓業界の売上上位20社のメーカーのうちのほとんどが弊社のたまり醤油を扱うまでにシェアを広げました。

ーー数ある企業の中で貴社の調味液が選ばれてきたのはなぜでしょうか?

竹内加代子:
40年前に焼肉のタレの製造を始めた時は、大手メーカーや地元企業など、すでに多くのライバルが存在していました。そんな中、一般的な製造ロットが300〜400kgであるのに対し、弊社では100kgという小ロットで販売することで他社との差別化を図り、シェアを広げました。現在も、最低ロットが250kgであることを強みとしています。

さらに、味や品質、納期に関してもお客様の要望を叶えることを第一に考えています。たとえば、お客様が指定した他社の醤油を使ったラーメンのかえしをつくったりもします。

味と品質にこだわった醤油で唯一無二の調味液をつくる

ーー貴社のたまり醤油の美味しさの秘訣は何でしょうか。

竹内加代子:
醤油の旨味は、大豆や小麦に含まれるタンパク質が酵素によって分解され、アミノ酸に変化することで生まれます。アミノ酸の数値が高いほど美味しく感じるといわれており、このアミノ酸の量は、窒素の量で表されます。

弊社のたまり醤油は窒素の数値が特に高く、それを使って加工調味料をつくることで大手メーカーとの差別化を図っています。全国に約1000社ある醤油メーカーの中でも、弊社のようにたまり醤油を自社で醸造し、加工する企業は数社しかありません。

ーー日本の醤油は海外でも注目されていますね。

竹内加代子:
現在行っているヨーロッパやオーストラリア、ドバイへの輸出をさらに別な国にも広げたいですね。海外では小麦を使わない醤油の需要が高く、今後はグルテンフリーの加工調味液の輸出も伸ばしたいと考えています。

工場の増築、新設とともに職場の士気を高めてさらなる成長を目指す

ーー社員のモチベーションを高めるために工夫していることはありますか?

竹内加代子:
現在、タレ専門の工場の増築をしており、社員の意見を取り入れながらいろいろなロボットを取り入れていく予定です。それによって作業の効率化を図るだけでなく、機械の導入について社員に裁量を与えることでやりがいをもって働ける環境をつくりたいと思っています。

ーー今後さらに伸ばしたい事業について教えてください。

竹内加代子:
弊社は米菓用調味液とタレ類の2本の柱がありますが、もう1本の柱として粉末調味料の製造に力を入れたいと考えています。粉末調味料は需要があるものの、製造できる会社が少なく、供給が追いついていないという現状があります。

弊社では、粉末調味料専用の工場を新しくつくる予定です。この工場では、経営を社員に任せ、実績に応じて報酬を支払う仕組みをつくりたいと考えています。その際は、目標意識が高く、やる気のある人に来てもらいたいですね。

編集後記

手間と時間がかかるたまり醤油の伝統を守りながら、その可能性を広げる加工調味料の製造に余念がないヤマミ醸造。小麦を使わないグルテンフリーの食品が注目される昨今、たまり醤油の需要は今後さらに高まるだろう。

竹内加代子/1961年、愛知県生まれ。市邨学園短期大学商経科を卒業。液糖メーカーに入社し、3年間営業部の事務を経験。1984年にヤマミ醸造所(旧屋号)に入社。2022年、現在の株式会社ヤマミ醸造代表取締役社長に就任。