※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

パチンコ業界は変革期にあり、ライフスタイルや娯楽が多様化している現代において、そのあり方が見直されている。株式会社三慶物産は、まさに今の時代と業界の動向を見据えて「みんなが主役」の組織づくりを実践してきた企業だ。3代目として業界が抱える問題に正面から向き合う同社の代表取締役社長、植本宰亨氏にその思いをうかがった。

トップダウン経営の中で与えられた自由裁量のキャリア

ーー貴社の沿革について教えてください。

植本宰亨:
弊社は1974年に私の祖父が地元の下関市にパチンコホールを開業したのが始まりです。その後、店舗数が増え、主軸のパチンコ店経営に加え、現在は不動産賃貸業や飲食業も行っています。パチンコ業界は、必ずしも肯定的なイメージばかりではないという事実がある一方で、CSR活動やSDGsへの取り組みが高まる以前から、地域貢献活動や環境活動を積極的に行っている業界でもあります。

弊社でも地域の清掃活動や交通安全活動、CO²削減システムの導入などさまざまな取り組みを実践してきました。地球温暖化に伴う自然災害などが増えている近年、一企業として防災時に協力できることはないかと考え、2019年に市内では第1号となる災害時サポーター登録も行いました。私が社長に就任して以降、こうした活動を目に見える形で社内外に向けて発信するようにしています。

ーー貴社に入社するまでの経歴について聞かせてください。

植本宰亨:
大学卒業後は、家業を継ぐことを見据えパチンコメーカーに就職し、そこで2年間業界知識を学びました。

パチンコメーカーでは、当時の上司にとてもよくしてもらいました。まだ社会人として右も左もわからない時期に、「誰にでも好かれようとしているな。何もみんなに好かれる必要なんてない。自分が良いと思う人とだけ付き合えばいいじゃないか」と諭されました。その言葉で、すっと肩の力が抜け、いい意味で気持ちが楽になり、そのおかげで仕事に集中して取り組めるようになったことを覚えています。

ーー入社後はどんな苦労がありましたか。

植本宰亨:
24歳の時に、部長として入社しましたが、店舗運営の経験がない中、若くして役職のポジションで入社したことを重圧に感じることもありました。

わからないことがあれば知ったふりをせず、現場の社員に聞いたり、前職で知り合ったパチンコ業界の方に教えを乞い、とにかく必死に勉強をしました。今までの人生で一番勉強した時期だと思います。

そんな中で、先代の「どれだけお客様に支持されるかが重要だ」という教えについても、現場の経験を通じて身をもって実感しました。

社員満足が顧客満足へ!動きの速い業界で勝つ戦略

ーー社長就任時に打ち出した方針や心に決めたテーマについて聞かせてください。

植本宰亨:
「“みんなが主役”である会社の追求」をテーマのひとつとしています。

長く働いている従業員とお客様との間には信頼関係が生まれます。そして、現場でのお客様との会話、いわゆる「生の声」に、課題や改善の糸口があると考えています。そのためには、指示されたことだけをする組織ではなく、「自発的に行動する組織」をつくることが大事です。

その考えのもと、従業員が気づいたことを投稿し、責任者がフィードバックをする「きづきメモ」という制度を設けました。この制度のおかげで、各々が、自発的に行動できるようになってきたと感じています。

また営業面においては、従来の体制では「市場戦略が店舗ごとに異なる」「ある店舗のアイデアが全店舗に普及しない」という問題がありました。ほかにも「発生したトラブルの事例やノウハウが各店舗で完結してしまう」といった統制上の問題がありました。

現場では、動きの速い業界の流れに対応し、タイムリーに情報を発信する仕組みをつくる必要があります。そのため、社内ツールを活用して、お客様からの質問に接客スタッフがいつでも回答できるように情報共有を促進しています。各々が仕事に対する当事者意識をもって知識やスキルを高めることによって、お客様へより質のよいサービスを提供できるよう取り組んでいます。

ーー現在、最も力を入れて取り組んでいることは何ですか。

植本宰亨:
仕事を続ける「モチベーション」や「やりがい」について考えると、職場環境を整えることや、従業員同士のコミュニケーションの場をつくり、従業員満足度をあげることが大切だと思っています。

従業員の満足がお客様の満足を生み、それがお客様からの支持につながり、結果として売上にも還元されると考えています。

弊社では、数年前に「ほめーる」という感謝の気持ちを社員同士で伝えるアプリを導入しました。これにより、各店舗の垣根を越えて従業員同士のコミュニケーションが密になり、社内の風通しもよくなりました。

こうした小さな改善の積み重ねにより、定期的に行う従業員満足度調査では99%以上の人が今の職場環境に満足しているという喜ばしい結果になっています。

50周年を迎えた老舗企業が描く、地域社会と共生する未来

ーー今後目指していきたい会社の未来像について聞かせてください。

植本宰亨:
創業50周年を迎え「Pride Smile Joy 人と地域に喜びがあふれる未来を」というパーパスを制定しました。経営理念を定める事によって、従業員全員が同じ志を持ち、自分の仕事に誇りを持って働ける風土づくりを進めていきたいと考えています。

縁あって弊社で働くことを選んでくれた従業員にはできる限り長く携わってもらいたいですし、みんなが活躍できる場所を守っていくことが私の仕事だと思います。

コロナ禍を経て感じたことは、人が生きていくにはやはり何か活力が必要だということです。当時は、旅行やスポーツ、人と会うことなど多くの活動が制限されました。パチンコ店の営業にも制限がかかる中で、どんなサービスも楽しんでもらうこと、好きになってもらうことでお客様に生きる力を与えられるのではないかと改めて考えました。

人は楽しいことがあると前向きになれるし、それが生きていく力になります。パチンコが好きな人々の人生に、活力を与える。大衆娯楽の一つとしてパチンコ店という場所があってもいいのではないかと考えています。

パチンコ店の経営は、お客様にいつも楽しんでもらい、さらにリピートしていただくためには難しい要素を含んでおり、奥の深い世界です。その中で培ったノウハウは、異業種に転換できる可能性を大いに秘めています。従業員の持つ経験や彼らが磨いてきたスキルを活かして、今後はより幅広い分野に事業展開をしていくことも考えています。

編集後記

とても穏やかな口調でその思いを語る植本社長。遊技場の提供を通じて人々に生きる活力を与え、従業員を守り、地域社会と共に生きる道を模索するその背中には、社長が持つ人に対する温かさが垣間見えた。

三慶物産が地域の人々に活力を与え、暮らしに必要不可欠な企業として100年とその先に歩みを続けることを信じている。

植本宰亨/1979年、山口県生まれ。2001年西南学院大学経済学部卒業。パチンコメーカーに入社。パチンコ業界の基礎知識を学んだのちに、家業である株式会社三慶物産に入社。部長に就任し店舗運営に携わる。2017年同社の3代目代表取締役に就任。