
2012年に飲食店経営から始まり、わずか10年で不動産や福祉事業など多岐にわたる事業展開を続けてきたNine Group。その成長を支えるキーマンが代表取締役の久保田健治氏だ。久保田氏の行動力を支える原点とは何なのか。Nine Groupの多彩な事業展開と、福祉や地域社会に貢献する理念に迫る。
居酒屋のアルバイトで人をまとめる立場になり、仲間たちと事業をスタート
ーー創業に至った経緯をお聞かせください。
久保田健治:
大学生時代に始めた居酒屋のビラ配りのアルバイトが創業のきっかけでした。当時、私は約30人いたアルバイトの中でトップの成績を納めており、おかげで自然と人をまとめる役割を担うようになっていきました。その流れで、親しかった方と一緒に飲食店を始めようという話になり、起業に至りました。
今では数多くの事業を抱えるグループの代表になりましたが、昔は経営者の道を選ぶなんて思いもしませんでした。自分に人をまとめる特技があると気付かなかったら、違う道を歩んでいたかもしれません。
ーー「Nine Group」という社名にはどのような由来があるのですか?
久保田健治:
会社の名前は野球チームの人数の9(Nine)からとったものです。創業当初、1店舗目の立ち上げメンバーの中に小学校からの野球仲間が数人いまして、さらに野球つながりのメンバーが多いことから「Nineはどうか」という話になりました。
この話には裏話があって、じつは店舗オープンの直前まで名前を決めるのを忘れていたんです。開店準備に追われる中でアイデアが降ってきたように決まった名前でした。
多角経営で会社の安定と継続的な成長を支える

ーー貴社の事業内容と独自の強みを教えてください。
久保田健治:
弊社は飲食店経営からスタートした会社ですが、今では不動産事業や福祉事業、レンタカー事業など多角的な事業展開をしています。
この多角経営が弊社の強みでもあり、事業推進とリスク分散の両方に効果を発揮します。たとえば不動産部門で得られる情報は飲食店の物件交渉に役立ちますし、コロナ禍で飲食業が打撃を受けた際には、店舗を福祉施設に転用して従業員の雇用を守ることができました。事業同士がお互いを支え合うことによって、安定した経営基盤をつくっているわけです。
ーー多角経営化に踏み出したきっかけは何でしたか。
久保田健治:
最初は飲食店を5店舗くらいまで出店しましたが、大繁盛する店が出せず、事業の成長に行き詰まりを感じていました。そんな時、同級生から不動産事業の話を持ちかけられたのです。
私は新事業を始めることで現状を打開できるのではないかと考え、同級生と一緒に不動産事業を立ち上げました。ここから弊社の多角経営化が進んでいき、飲食業の不安定さをカバーする形で業績が安定していきました。
父親を助けたい一心で始めた福祉事業が会社に新たな風をもたらした
ーー現在、急成長しているという福祉事業は、どのように始まったのでしょうか?
久保田健治:
脳梗塞で半身まひになった父を救いたいと思ったことがきっかけです。当時所属していた草野球チームで、福祉の仕事に携わっていた監督やキャプテンから「お父さんのために福祉事業を始めてはどうか」とアドバイスをもらったのです。
私は今までとまったく異なる領域へのチャレンジに不安を覚えたものの、父のために一歩踏み出す決意を固め、福祉事業に飛び込んでいきました。実際に始めてみると事業に対する不安よりも、障がいがある方や生活保護の方など、生活に悩みを抱えている方々に仕事や住む場所を提供できるというやりがいの方が大きかったです。
事業内容は就労継続支援B型、グループホーム(共同生活援助)、居宅介護(ヘルパー事業)、放課後等デイサービス、児童発達支援です。事業所の数はFC加盟店も合わせると、グループで100店舗近くあります。
ちなみに、弊社の福祉部門には野球チームがあるというちょっと変わった特徴があります。これは人材を確保しつつ、選手の引退後のキャリアを担保するという、2つの意味を持った施策です。野球チーム枠で採用された社員は、基本的に野球に専念することができ、選手を引退した後は、福祉事業のスタッフとして新たなキャリアをスタートできます。
野球に限らず、スポーツ採用は引退後にキャリアが断絶されてしまうことが課題になりがちです。引退する年齢は働き盛りの30代が多いので、社内にしっかりキャリアのルートを用意すれば、選手と企業がWin-Winな形で関係を継続できます。福祉の人材不足が問題になる中で、しっかり人材が確保できるのは利用者さまにとっても安心できる仕組みだと思います。
仲間たちと力を合わせることこそ行動力の原点
ーー貴社の今後の展望や目的を教えてください。
久保田健治:
フランチャイズ事業を活用して福祉施設を積極的に増やしていきたいと考えています。今後3年で500店舗の新施設と合計1万人の雇用創出を目指しており、現在は福祉介護用の商品作りにもとり組んでいます。その一つとして、プロ野球選手が使用した後の折れたバットを再利用した靴ベラをつくることで、プロ野球選手との協力体制も整えています。
そしていずれは福祉施設で働く方たちと力を合わせ、障がいがあっても安心して楽しめるバリアフリーなスタジアムをつくりたいと思っています。多くの人が集まれば社会を変えていけるということを、皆の力で証明していきたいのです。
私は仲間たちが協力することで、大きな力を生み出せるということを、身を持って体現してきました。これからキャリアを積んでいこうと考えている方は、ぜひ信頼できる仲間を見つけてください。思いを共有した仲間が集まれば、きっとまだ見ぬ素晴らしい景色に出会えるはずです。
編集後記
久保田社長はさまざまな経緯から事業の多角化を進めてきたが、その中心にはいつも「仲間との絆」があった。そして今度は福祉施設を介して社会課題に一石を投じるためのとり組みを始めている。野球と福祉を結びつける試みもユニークだ。久保田社長と仲間たちなら、きっと社会が驚くビジョンを実現してくれることだろう。

久保田健治/1988年生まれ。2007年に精華高等学校を卒業後、大阪電気通信大学に進学。2012年から個人事業主として、飲食店事業をスタート、不動産事業も手掛け、2017年より株式会社Nine設立。その後、福祉事業や行政書士法人などを始め、多角化を進める。現在では大阪本社に加えて、沖縄と千葉にも事業拠点を構えている。