※本ページ内の情報は2025年8月時点のものです。

古橋智史氏は、みずほ銀行からキャリアをスタートさせ、23歳で起業を決意。SaaS比較サイト「BOXIL」を運営するスマートキャンプ株式会社を創業し、マネーフォワードグループへの会社売却(M&A)を成功に導く。その後、起業家を支援するべくベンチャーキャピタル(VC)「HIRAC FUND」を立ち上げた。しかし同氏は、再び自らリスクをとる事業創造の道を選ぶ。「起業家としての成長」を求め、2023年にヘルスケア事業を手がけるアンドエル株式会社を設立。挑戦をやめない原動力、そして「100年続く会社」に込めた思いとは。その軌跡と哲学に迫る。

安定より挑戦を 23歳で芽生えた起業家の道

ーー起業に至るまでの経緯をお聞かせください。

古橋智史:
大学の体育会で水上スキー部のキャプテンを務めており、その活動を評価していただき、みずほ銀行に入行しました。当初は「金融を知ることで世の中の流れが分かれば」という程度の気持ちでした。しかし、巨大な組織の動き方が自分には合わないと早期に気づき、入行1年目の23歳で起業を考え始めます。

社長になりたいというよりは、起業という手段でなければ、自分が何かを成し遂げたり社会の役に立ったりできないと感じたのです。

ーーそこからすぐに起業されたのでしょうか。

古橋智史:
銀行の経験だけで起業するのは難しいと考え、株式会社Speeeに入社しました。Webマーケティングのコンサルティング営業を経験し、そこで営業の基礎を確立します。電話営業から契約締結まで全て一人で担当したこの1年強の経験は、私にとって良い修業になりました。そして、2014年にスマートキャンプを立ち上げました。

ーー起業後の事業展開についてお聞かせください。

古橋智史:
ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達をしていた以上、株式上場(IPO)か会社売却(M&A)という出口戦略は常に念頭にありました。もちろん、自分たちでゼロからつくり上げてきた会社ですから、単独での株式上場を目指すという選択肢もありました。そこに懸ける思いがなかったわけではありません。

しかし、創業5年というまだ未熟な組織が、これからさらに飛躍していくためにはどうするべきか。冷静に考えた時、単独で進むよりも、すでに成長軌道に乗っている企業と一緒になる方が望ましいと判断しました。その方が成長をさらに加速させ、組織をより強固なものにできると考えたのです。

互いを補い合い、共に成長できるパートナーを探していたタイミングでマネーフォワード社と出会い、未来を共に描けると確信したため、M&Aという決断に至りました。そして翌年、ベンチャーキャピタル「HIRAC FUND」を立ち上げます。グループが持つIPOとM&A双方の知見を活かし、コロナ禍で資金調達に悩む起業家を支援したいという思いがありました。また、自身もVCに育ててもらった経験から、いつか投資事業を手がけたいという思いもあり、起業家が立ち上げるVCとしてスタートしました。

ヘルスケア事業に懸ける情熱

ーー投資家という立場を経験した上で、なぜ再び起業の道を選んだのでしょうか。

古橋智史:
VCの仕事は非常にやりがいがありましたが、過去の経験を基にアドバイスをする立場になり、自身の成長が停滞している感覚を覚えました。心地よい環境に安住すると、かえって居心地が悪くなる性分でして。もう一度、自分で事業をつくって成長させたいという思いが強くなり、2023年に弊社を設立した次第です。

ーー貴社のミッションを教えてください。

古橋智史:
多くの会社を見てきた中で、事業がうまくいく企業の共通点は、非常にシンプルですが「健康」だと確信しています。社長や従業員が心身共に健康で元気な会社は、間違いなく強い。この「人の元気・健康」をサービスとして提供し、「人生を、ととのえる」ことをミッションとしています。

ーー貴社のサービスの強みと、主なターゲットについて教えてください。

古橋智史:
現在は、法人向けに福利厚生・健康経営支援サービスを提供しています。これは、従業員向けのオンライン診療、ストレスチェック、カウンセリングを一括で提供するものです。心身の健康を総合的にサポートできる点が強みです。大手企業は福利厚生が充実しているため、弊社のサービスは、費用をかけずに福利厚生を充実させたい中小企業にこそ価値を提供できると考えています。

「挑戦と仁義」を胸に目指すは100年続く企業

ーー今後の展望についてお聞かせください。

古橋智史:
弊社を「100年続くような、永続的で社会に信頼される会社」にすることを一番に考えています。弊社が提供するのは健康に関わるサービスです。そのため、急成長以上に、品質を保ちながらサービスを継続させることが何よりも重要だと考えています。毎週通っていた歯医者が突然なくなったら困るのと同じで、私たちもお客様にとってそういう存在であってはならない。短期的な成長を追い求めるのではなく、10年後、20年後も、さらに進化したサービスを提供し続けられる盤石な基盤をつくること。それが「100年続く会社」という言葉に込めた覚悟です。

ーー最後に、経営者として大切にされている価値観を教えてください。

古橋智史:
「挑戦」と「仁義」です。挑戦し続けることは私の信条ですが、それと同じくらい「仁義」、つまり人との関わりを大切にしています。どれだけ時代が進んでも、事業は人と人との繋がりで成り立っています。この10年間、多くの方々に助けられて今の自分がある。そのご恩を忘れ、不誠実な行いをすれば、いずれ全てが破綻するでしょう。この2つの価値観を胸に、これからも事業と向き合っていきたいと考えています。

編集後記

大手銀行からキャリアを始め、2度の起業、会社売却、そしてVC設立と、古橋氏の経歴はまさに挑戦の連続だ。しかしその根底にあるのは、「心地よくなると、心地悪くなる」という起業家精神にあった。心地よい環境を嫌い、自らリスクのある環境に身を置き続ける姿勢は、成長への渇望そのものといえる。今後の挑戦から目が離せない。

古橋智史/1988年東京都生まれ。立教大学を卒業後、みずほ銀行に入社。その後株式会社Speeeを経て起業。2014年スマートキャンプ株式会社を設立し、2019年に株式会社マネーフォワードへ売却。2020年にベンチャーキャピタル「HIRAC FUND」を立ち上げる。2023年にアンドエル株式会社を設立。