
株式会社ジャストは、建物の調査・診断からコンサルティングまでを手がける企業。構造物の安心・安全を多角的に支えている。「他にない『構造物の総合病院』」というビジョンを掲げ、50年以上にわたり業界で信頼を築いてきた。金融業界など異分野での経験を持つ角田賢明氏は、2015年に同社へ参画し、2022年に代表取締役社長に就任。変革期をリードする同氏に、老舗企業が大切にする価値観と、未来への挑戦について話をうかがった。
金融・コンサル業界から創業50年の事業会社への転身
ーーこれまでのご経歴と、ジャストに入社された経緯をお聞かせください。
角田賢明:
慶應義塾大学の理工学部を卒業後、日本IBMでシステム開発の仕事に約3年携わりました。その後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券でM&Aのアドバイザリー業務に9年ほど従事。2015年、株式会社ジャストに入社し、今年で10年目になります。
前社長からお話をいただいたことが、弊社に入社したきっかけです。私の父が弊社の代表を務めており、前社長との接点がありました。ある日、前社長が私の職場にいらっしゃり、「会社に来てみないか」と声をかけていただきました。すぐには決断できませんでしたが、その2〜3年後、ジャストへ入社しました。
ーー入社後、ご苦労されたことはありますか。
角田賢明:
入社後は、管理部門の整備や、イノベーションが生まれるような新しい仕組みづくりに携わってきました。専門領域が違うという点で大変さはありましたが、「社内において自分自身の役割は何か」ということを常に考えていました。
金融業界は非常に合理的な世界でした。しかし、50年続く事業会社には社員の感情や想いがあり、必ずしも合理性だけでは物事が進みません。その気持ちをしっかり理解し、さまざまな意見に耳を傾けることを、今も大切にしています。
在りたい姿は「他にない『構造物の総合病院』」

ーー貴社の事業内容と、ビジョンについておうかがいできますか。
角田賢明:
弊社は3つのコア技術をかけ合わせ、高品質・高精度の検査・調査・診断を行っています。その技術とは「非破壊検査技術」「建築・土木技術」「最新テクノロジー」です。また、第三者機関として公平中立な立場で調査を行います。これにより、あらゆる構造物の安心・安全の確保に貢献し、建物の命を未来へと繋ぐ社会的役割を担っています。
弊社では、ビジョン2030(2030年度に在りたい姿)として「他にない『構造物の総合病院』」を掲げています。「他にない」とは、競合他社にできない、競合他社がやらないことに挑戦し続けることへの覚悟を意味しています。単なる検査・調査会社にはとどまらず、「ビルディングドクター」(※)として、さまざまな領域でサービスを提供できる存在を目指しています。
事業ポートフォリオの観点では、新築市場だけでなく、既存建物の課題解決に注力しています。具体的には、橋やトンネルといった社会インフラ領域における建設コンサルタントの事業を強化しています。
また、従来アプローチしてこなかった不動産会社や金融機関など、多様な事業主と直接取引を拡大しています。お客様の課題に基づいて新しいサービスや技術を生み出すため、M&Aや新技術への投資も積極的に行っています。3Dレーザースキャナーやドローン、地中レーダーなどを活用し、他社ができない、あるいはやらない領域に挑戦し続けています。
(※)ビルディングドクター:構造物の検査・調査・診断を行うスペシャリスト
ーーージャストが50年以上大切にしてきた「変わらないもの」はありますか。
角田賢明:
最も大切なのは、「企業使命」と「経営理念」です。私たちの原点は、構造物の安心・安全を守ることであり、これが揺るがない企業使命です。
そして、変わらない経営理念としていくつか掲げていることがあります。「真のスペシャリスト集団でありたい」という思いは強く、これは全ての職種の社員に求めています。技術職はもちろん、営業や事務も例外ではありません。
また、新たな挑戦をしなくなった時が衰退の始まりです。ですので、「挑戦し続ける」ことを大事に、社員の自主性や創造性を重んじながら常に新たな価値を生み出していきたいと思っています。そして、「第三者性」。しがらみのない立場で正しいことを正しく報告するという、検査・調査会社としての根幹です。
さらに、「社員のための会社であること」は、特に大切にしている理念です。会社の本来あるべき姿は、従業員が幸せに働くことを通じて社会に貢献することだと考えています。従業員を尊重し、一人ひとりが能力を最大限に活かせる快適な職場をつくります。そして、豊かな生活を実現できるよう環境を整えています。これらが50年以上、私たちが大切にしてきた価値観です。
挑戦と還元で未来を拓く「グレートカンパニー」へ
ーー改めて、ジャストの最大の強みとは何でしょうか。
角田賢明:
間違いなく「社員」です。そして、それを支える「理念の強さ」だと考えています。経営理念にもある「挑戦し続ける姿勢」と「第三者性」は特に重要です。嘘をつかず、正しい情報を報告する。その誠実さが、業界における当社のポジショニングを確固たるものにしています。
また、これらを実践する社員の高い技術力も強みです。多くの専門家を抱えるマンパワーも誇っています。「困ったらジャストに相談すれば何とかしてくれる」とお客様に信頼される存在でありたいと考えています。
ーー「社員のための会社」を具現化する取り組みについて教えてください。
角田賢明:
まず資本政策として、社員が株を持てる仕組みを導入しました。現在、当社の株主は社員と役員のみです。これにより、上場企業のような「株主のための会社」にはなりません。「社員のための会社」であり続けるための枠組みを作りたいと考えています。
経営方針としては「ビジョンで会社を牽引する」ことを宣言しています。ジャストには20以上の事業部門があります。そこでは各部門のリーダーが「あなたが社長です」という意識を持ち、自分たちのありたい姿や経営目標、戦略を考えて収益管理まで行っています。会社から目標数値を押し付けることは一切なく、社員が自ら決めたことを全力で支援するスタンスです。これにより、各組織が主役となり、社員が主体的に会社づくりに参加することを目指しています。
ーー今後、どのような会社を目指していきたいとお考えですか。
角田賢明:
私の思いとしては、「グッドカンパニー」ではなく「グレートカンパニー」を目指したい。「いいね」と言われるだけでなく、「なくてはならない」と社会やお客様から尊敬を集める会社です。そのためには、常に未来志向で先見性を持ち、より大きな社会的インパクトを与えられる企業へ成長せねばなりません。
社員一人ひとりが自社を誇りに思い、「ジャストはグレートな会社だ」と胸を張って言える状態。それが私の目指すジャストの姿です。
編集後記
金融業界という全く異なる畑から、創業50年を超える老舗企業ジャストのトップへと転身を遂げた角田賢明氏。その言葉の端々からは、伝統を重んじつつも変革を恐れない強い意志が感じられた。そして、社員一人ひとりの力を信じ、彼らが主役となって未来を切り拓くことへの期待も見て取れる。「他にない『構造物の総合病院』」というビジョン。これは、同氏が描く成長戦略と、社員の主体性を重んじる組織文化があってこそ現実味を帯びるものだ。社会基盤を支える使命感と、飽くなき挑戦心。これらがジャストを「なくてはならない会社」へと導いていくだろう。

角田賢明/1979年神奈川県生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業後、日本アイ・ビー・エム株式会社、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社にてM&Aアドバイザリー業務に従事。2015年、株式会社ジャストに入社。2022年より同社代表取締役社長を務める。