※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

昨今、リモートワークの推進や、職場におけるダイバーシティ(多様性)の意識、ワークライフバランスの考え方など、働き方をとりまく環境に大きな変化が起こっている。そのような中、AI事業とコミュニケーション効率化事業を運営するAI CROSS株式会社は、子育てをしながらの働き方を見直すことからスタートした。

AI CROSS株式会社は、2015年に創業し、2019年には東京証券取引所マザーズ(現:東証グロース)に上場するなど飛躍的な成長を遂げている企業だ。同社の代表取締役CEO原田典子氏に、現在の事業や今後のビジョンなどをうかがった。

海外経験を活かして、SMSビジネスで日本の働き方改革に挑む

ーー事業を始めるまでの経緯を聞かせてください。

原田典子:
大学卒業後、ドイツ系ソフトウェア企業のSAPに入社しました。小中高時代はドイツで暮らしていたため、その縁もあり入社したのですが、当時はアメリカの企業で働きたいという思いもありました。

そこで、アメリカに移住できるルートを模索しているときに、友人がスタートアップでアメリカに進出する会社を手伝っていたので、その会社の社長を紹介してもらい、米国法人の立ち上げメンバーということで移住しました。

サービス立ち上げ、米国のサービスの日本市場への持ち込み、アライアンスなどを経て、アメリカでワインビジネスを行っていましたが、妊娠をきっかけにワインビジネスができなくなり、出産後、日本に帰国しました。

長い間海外で暮らしていたので、日本人としてのアイデンティティが強くなり、日本が大好きでしたが、実際に帰国して仕事をしてみると、多くのカルチャーギャップを感じました。

当時は待機児童が社会問題になっていた時期で、仕事中の子どもの預け先確保に非常に苦労しましたが、日本では子どもの問題をオフィスで言える雰囲気ではありませんでした。また、アメリカでは早くからリモートワークへの移行が進んでおり、日本の働き方との差を感じました。人口の減少が進み、子どものいる親も働かなければならない中で、「このような窮屈な環境で働き続けることは難しい」と考えるようになりました。

アメリカで子育てをしているときに、とても便利だったのがショートメッセージ。子育てしているとなかなか時間が取れない中、情報収集や企業から送られてくるのがメールではなくショートメッセージだと効率的に対応することができます。そんなサービスがアメリカでは急拡大していたので、日本でも絶対伸びるだろうと思っていました。

そこで、当時勤めていた会社の子会社からスタートする形で現在の事業を始めました。当初はSMSとビジネスチャットの運用を二本柱としてスタートしましたが、現在はビジネスチャット事業を売却し、SMSが主力となっています。

コミュニケーション革命とAIソリューションで働き方を革新

ーー現在の事業内容を教えてください。

原田典子:
弊社の事業では「Smart Work, Smart Life」を掲げています。

創業当時は、仕事で成果を出すだけでなく、ミーティングなどのやり取りのために特定の時間にオフィスにいなければならないという制約がありました。このような状況で業務効率を上げる必要性を感じていたので、SMSを取り入れることでコミュニケーションをデジタル化することを目指しました。

また、日本では仕事を楽しんでいる人が少ないなと感じました。これは環境の違いもあるかもしれませんが、日本に戻ってきて、我慢して働く、会社の不満を言いながら働く人が周りにとても多いなと感じたのを覚えています。

そのため、仕事上のコミュニケーションの活性化と、仕事そのものを楽しむことが生産性を高めるという考えのもと、「Smart Work, Smart Life」の理念を掲げ、SMS、チャット、AI事業のサービス開発、提供を行っています。

ーーAI事業についても教えてください。

原田典子:
2018年から、AIに関しての研究開発をはじめ、投資をしてきました。私たちは、お客様の要望のヒアリングからプロトタイプを立ち上げ提供することが自社だけでできるので、差別化になっています。また今提供している、Deep Predictorというデータがあれば、データサイエンティストがいなくてもデータ分析できるというサービスの引き合いが増えています。

近年、AIに対するお客様の関心は非常に高まっています。これほどの関心が寄せられた事業は過去になかったと思います。特に、人手不足が深刻な中、AIの活用がより求められていることが背景にあるのでしょう。私たちは、お客様のデータを分析し、コスト削減や売上向上のための最適な提案を会社ごとに行っています。

若い世代の成功体験が企業成長の鍵

ーー今後、どんな企業になっていきたいですか。

原田典子:
グローバルに展開していくために、多様な人材を受け入れていきたいです。私たちは、会社の強みの1つにダイバーシティがあると考えており、海外の方や幅広い層が活躍できるような場を提供することに力を入れています。

私の世代はバブルを経験しているので、「日本はできる」「自分たちはできる」とどこかで思っているように感じます。しかし、今の若年層は日本が伸びているのを見たことがない世代です。特に、学生時代にコロナ禍を経験した層もいます。

同じ世代でも、母国が成長している時代を経験した外国人は自信があるように見えます。それを経験していない世代に、「自分たちもやればできる」という成功体験を与えることが、私たち世代の責任だと考えています。

皆が活躍できる職場をつくるためには、会社が発展することも不可欠です。社員が会社を離れる理由として、「もっとチャレンジしたい」という話はよく聞きます。意欲の高い人がずっと在籍しても成長し続けられるように、彼らの成長スピードを超えるスピードで会社も成長しなければならないと感じています。弊社にも成長意欲が高い社員が多いように感じますね。

ーー人材についてのお話がありましたが、女性の登用についてはどのように考えていますか。

原田典子:
女性活躍の推進は、私のライフワークとしてやっていきたいと思っています。私自身は、女性であることや男性であることによる差別を受けた記憶がありませんが、今思えばそれは恵まれていたのだと思っています。

男女問わずメンターを務める中で、女性は仕事ができる方でも自信のない方が多い印象があります。昇進の話が出た際も、女性の方が判断に慎重な傾向がありますが、女性の管理職への登用も積極的にサポートしたいと思っています。

編集後記

仕事のあり方が大きな転換期を迎える中、原田氏の話しぶりからは提供する事業と雇用に対する先進的な視点がうかがえた。今後、働き方のあり方はますます重要な社会的課題となることが予想されるが、ITの活用による効率化や多様な人材の確保に対する考え方は、将来の働き方を考える上でのモデルになってゆくだろう。

原田典子/慶應義塾大学経済学部卒業後、SAPへ入社。コンサルタントとして働いた後、ベンチャー企業へ転職し、米国法人設立のために2000年に渡米。シアトル、サンノゼ、NYで10年ほど米国のマーケティング、提携・アライアンス業務などに幅広く携わる。出産を機に帰国し、2015年、AI CROSS創立、2019年には上場を果たす。2021年にはCVCを立ち上げ、ベンチャー支援にも積極的に取り組む。