※本ページ内の情報は2024年8月時点のものです。

株式会社栄電舎は、生産工場の自動制御システムのソフト設計や、ハードウェア製品の製造をオーダーメイドで行っている会社だ。顧客からヒアリングした要望をもとに自社で設計・製作を行い、試運転やその後のメンテナンスまで手がけている。母国である中国を離れ、日本企業に就職したきっかけや、創業者から受け継いだ理念、大切にしている思いなど、取締役社長の呉昊氏にうかがった。

「日本と中国との架け橋になりたい」運命を大きく変えた創業者との出会い。

ーー呉社長が日本で就職したきっかけは何ですか。

呉昊:
中国の大学を卒業後、自分の視野を広げたいと思い、日本への留学を決めたのが始まりです。日本に来てまずは日本語学校に入り、日本語を身に付けました。それから福岡にある西南学院大学の大学院に進学し、経営学を学びました。

当時は、各国の企業が中国に次々と工場を建設していた時代で、中国は世界の工場と呼ばれていました。そこで私は、中国における日系企業の現地化について研究し、あわせて日本型の経営も学びました。そうして勉強していくなかで、学んだことを活かして日本と中国との架け橋になる仕事がしたいと思うようになったのです。

ーーそのなかで、栄電舎に入社するまでの経緯を教えてください。

呉昊:
日本に留学するにあたり、縁があって公益財団法人ロータリー米山記念奨学会(※)の奨学生となりました。実は、その会のカウンセラーの1人が栄電舎を創業した飯笹実氏だったのです。会を通じ彼から色んな事を学んだのですが、その中でも社是に掲げられた「どこに出しても恥ずかしくない人とものをつくる」という言葉には特に魅了されました。

ものづくりの会社ではあるが、素晴らしい人間をつくることにも熱心に取り組む会社だと感じ、ぜひこの方の元で働きたいと思い、栄電舎への入社を決めました。彼からは謙虚な気持ちを持つことの大切さなど数多くのことを学び、経営者としてのあり方を教わりました。

(※)公益財団法人ロータリー米山記念奨学会:勉学、研究を志して日本に在留している外国人留学生に対し、日本全国のロータリークラブ会員の寄付金を財源として、奨学金を支給し支援する民間の奨学団体。

中国事業を立て直した功績が認められ、経営者に抜擢

ーー入社後はどのような仕事に従事してきたのですか。

呉昊:
しばらくして中国の現地法人に出向となり、2年後には責任者として現地の指揮をとりました。中国事業は立ち上げからおよそ10年の間、赤字が続いていましたが、事業を立て直すために抜本的な改革を行ったところ、業績がV字回復し、その結果黒字化を果たしました。

ーーその後、社長に就任した当時の思いを聞かせてください。

呉昊:
会社の代表として大勢の従業員たちの生活を守るために、何としても会社を存続しなければならないという責任を感じました。

中国の現地法人でも現場の指揮をとってはいましたが、従業員が40〜50人と比較的小規模な組織でした。一方で日本法人ではおよそ200人の従業員が在籍しており、その家族を含めると千人近い規模になります。その分、大きなプレッシャーを感じていました。

ただそれと同時に、従業員に「ここで働いていてよかった」と思ってもらえる会社を目指したいという思いも強くありました。そのために高度な技術力を活かし、質の高い製品やサービスを提供する会社にしようと決心しました。

そして収益力を高め、事業で得た利益は従業員のスキルアップのために投資し、やりがいのある環境をつくって還元する。これが社長就任当時の一番の思いです。

ーー経営者になりたいという思いは昔からあったのですか。

呉昊:
特に経営者になりたいとは思っていませんでしたが、逆境のときこそ燃える性格ではあると思います。会社経営ではさまざまな危機に遭遇しますが、そんなピンチを乗り越えることにやりがいを感じるタイプですね。

従業員に浸透する「顧客に貢献」の理念

ーー貴社にしかない強みは何ですか。

呉昊:
お客様のニーズに合わせてオーダーメイドで製品を設計・製造できるのが最大の強みです。創業から67年もの間、国内や海外の現場で数々の経験を積み、高い技術力を培ってきました。

また、単に製品をつくって終わりではなく、納品後もメンテナンスを行い、何かあればアフターフォローも現地へすぐに駆けつける体制を整えています。“最も現場に近い”立ち位置で仕事を行っていることが、弊社の強みのひとつだといえます。

ーー貴社の社内の空気や、大事にされている文化などを教えてください。

呉昊:
自分たちがつくった製品が世の中の役に立っていることに、誇りと喜びを感じられる従業員が多いです。これは創業時から続く、「お客様のことを第一に考え、顧客に貢献する」という精神が浸透しているからだと思います。

私たちは図面通りに大量生産するのではなく、お客様の要望に合わせて一つひとつ製作するオーダーメイド体制をとっています。また、主力製品である制御装置は、人々の命を守る重要な役割を果たしています。

このように社会に貢献でき、やりがいを感じられる仕事だからこそ、従業員の定着率が高いのでしょう。技術者をはじめとする従業員全員が、弊社の宝です。これからも一致団結し、社会に貢献していきたいと思います。

ーー顧客からの評価はいかがでしょうか。

呉昊:
「電話一本」で現場に駆けつけ、お客様の困りごとにスピーディーに対応する点について、高く評価されています。どんなときもすぐにお客様のもとに駆けつけるため、「自分たちの一番近くにいてくれる存在」というお声をいただいています。

こうした対応が徹底できているのは、日頃から先ほどお伝えした理念の浸透に努めているからだと思います。この思いがお客様にもしっかり伝わり、強い信頼関係が生まれているのだと感じています。

顧客や従業員から託された思いを実現する

ーー今後どの分野に注力していこうと考えていますか。

呉昊:
お客様から頂いた貴重かつ膨大なデータをAI技術を活用してより細かく分析しサービスとしてお返しすること、例えば機械部品に取り付けられたコードを読み込むことで生産実績、稼働率、品質分析、コストまで瞬時に把握できそれを直ちに現場に反映させることに注力していきます。また営業・販売が活用するといったようなシステムサービスの提供で付加価値を高めていきたいと思っています。

ーー呉社長が大切にしている考えを聞かせてください。

呉昊:
自身が創った言葉ですが、「思いを預かり実現へ」という言葉を掲げています。言葉の意味のひとつは、お客様の要望に沿った製品をつくって、その思いを実現すること。もうひとつは、「ものづくりに関わり、より良い製品を生み出したい」「豊かな生活を送りたい」といった従業員の思いを預かり、それを会社として実現していくということです。

これからも業務フローの改善や新たなビジネスモデルの創出に努めて、お客様と従業員の双方に寄り添い、地域に愛される会社を目指していきたいと思います。

編集後記

創業者の思いに共感して入社し、中国事業の立て直しに奔走した呉社長。「日本と中国との架け橋になりたい」という思いの通り、両国の発展に大きく貢献してきたのだと感じた。顧客に寄り添い、従業員を大切にする株式会社栄電舎は、これからも生産現場の安全を守るべく新たな価値を提案し続けて、地域に貢献し続けることだろう。

呉昊/2000年に中国の大学を卒業後、福岡に留学。2004年に公益財団法人ロータリー米山記念奨学会の米山奨学生に登録。2005年、西南学院大学大学院、経営学研究科を卒業後、株式会社栄電舎に入社。2007年に中国現地法人(天津栄電舎)に出向し、2009年に責任者に就任。帰国後、2017年に日本法人の取締役、2021年に常務取締役、2022年に取締役社長に就任。