※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

産業のデジタル化が進み、環境への配慮も求められる中、金網業界でも技術革新を迫られている。独自の特許技術と世界的な調達網を強みに、新たな価値創造に挑戦し続ける企業が、創業以来、産業用フィルターのパイオニアとして歩んできた石川金網株式会社だ。世界初の金網折り紙「おりあみ/ORIAMI®」の開発など、金網の新たな可能性を追求し続ける同社の取り組みについて、代表取締役社長の石川幸男氏にうかがった。

父から受け継いだバトンと製造業の理想像

ーーまずは、社長就任までの道のりをお聞かせください。

石川幸男:
大学卒業後に1年間商社で働いた後、1988年に弊社に入社しました。家業だったこともあり、幼い頃から会社は身近な存在で、学生時代にはアルバイトとして働いていました。入社後は、建築関連事業部の立ち上げなど、新規事業開発に携わってきました。

その中でも印象深いのは、パナソニックのムービーカメラ用マイクヘッドカバーの開発です。これを機にプレス金型部門を立ち上げ、事業の幅を広げました。そして、2004年に「そろそろどうだ」という父の言葉を受け、40代前半で社長に就任したのです。

ーー貴社らしさを作り上げていく中で、大切にしていることは何ですか?

石川幸男:
営業時代にお客様から「貴社の特徴は何ですか?」と必ず聞かれる質問がありました。そういったお客様からの問いを受けて考えていたのは、価格競争に頼らず技術による差別化を追求することでした。

「皆様のお役に立つ商品をつくる」という理念を貫いてきました。お客様に喜ばれる商品を提供することで信頼関係が築かれ、さらなる相談や依頼を生み出しています。その結果、社員の給与が上がり、会社も発展する好循環を実現することこそが、私たちの理想です。

多様な経験を活かす「適材適所」の仕組み

ーー事業内容について教えていただけますか?

石川幸男:
メインはフィルター事業です。プラスチック押出機用フィルターでは業界トップシェアを誇ります。このフィルターは、プラスチック製品、フィルム、シート、チューブ、電線、合成繊維などの、さまざまな製造工程で欠かせない部品として採用されています。

また、製造機器メーカーとの長年の信頼関係から、「こんな課題があるのですが」と相談をいただいた際には、「この組み合わせなら、もっと効率が上がります」と具体的な提案をすることで、新たな製品開発につながることもあります。

ーー貴社の社風醸成と人材育成において意識していることは何ですか?

石川幸男:
弊社では、営業職で入社しても、その人の適性に応じて製造や経理など他部門を経験できます。前職でまったく異なる仕事をしていた方も多く活躍しています。常に意識しているのは「適材適所」です。

人材育成で何より大切なのは熱意です。前職での経験にはこだわらず、仕事に興味を持ち、成長意欲のある方を求めています。その人の持ち味を活かせる場所で力を発揮してもらいたいと考えています。

また、入社前に必ず工場を見学していただき、社員との対話の機会を設けています。実際の雰囲気を見てから入社を決めてもらうことで、入社後のミスマッチが少なく、円滑なスタートを切れることが特徴です。

600社が証明する品質と特許技術の実力

ーー他社にはない強みはどんなところにありますか?

石川幸男:
最も大きな強みは、長年築き上げた信頼関係です。現在、600社以上の取引先があり、上場企業とその関連会社が100社以上を占めています。

お客様から最も多くいただくのが、不良品率低減の相談です。製造工程で発生する不良品は、お客様にとって大きな損失になり、その先のお客様にも影響が及びます。そのため、品質向上は常に重要な課題です。弊社は不良品率を下げる提案を得意としており、お客様の無駄を削減することで、製造ラインの効率化に貢献しています。

さらに、特許技術も弊社の大きな武器です。最初に取得したのは、「パーフォアートパネル」という建築用パネルの特許でした。従来、1つずつパンチで穴を開ける工程を、200本の針が自由に動く独自の金型システムを使用することで、一括加工を可能にしています。

これにより30分から1時間かかっていた作業を10分程度に短縮できました。風切り音を防ぐ機能を備え、超高層タワーマンションの手すりなどに採用されています。この製品はデザイン性と機能性を両立させており、特許3件、実用新案2件を取得しています。

新分野への挑戦で未来を切り拓く

ーー新しい分野への挑戦について教えてください。

石川幸男:
金網が活躍できる分野はまだまだたくさんあります。食品や製薬、化粧品、航空宇宙分野など、新たな領域に力を注ぎ始めたところです。これらの分野では、まだ私たちの技術が十分に活かせていないと感じています。

コロナ前は、積極的に海外展開にも取り組んでいました。パリやドイツでの展示会に出展し、多くの引き合いをいただきましたが、パンデミックの影響で中断を余儀なくされました。現在、少しずつ再開を計画しています。

ーー将来に向けての思いをお聞かせください。

石川幸男:
私たちの技術をもっといろいろな産業分野で活用していただきたいと思っています。ただし、急激な拡大ではなく、一歩ずつ着実に前進することを大切にしています。お客様にも社員にも満足してもらえる会社であり続けたいと思っています。

また、社員にも新しいことにどんどんチャレンジしてほしいですね。金網は可能性の宝庫です。彼らとともに、まだ見ぬ可能性を追求し続けたいと願っています。

編集後記

取材を通じて特に印象に残ったのは、技術と信頼を重視する経営姿勢だ。世界的な調達網と特許技術を強みとしながらも、急激な成長を追い求めるのではなく、顧客満足と社員の働きがいを大切にする姿勢が印象的だ。その結果、多くの取引先から厚い信頼を得ている。時代の変化に柔軟に対応しながら、確かな技術で産業界を支え続ける同社の今後の展開が楽しみだ。

石川幸男/1959年、東京都生まれ。日本大学卒業。1988年、石川金網株式会社に入社。2004年に代表取締役社長に就任。