
日本の学校生活に欠かせないランドセル。その製造・販売で国内最大規模を誇る株式会社協和は、オリジナルブランド「ふわりぃ」で知られる業界の大手御三家の一つだ。品質へのこだわりと、子どもの使いやすさを追求した革新的な製品開発で、国内外から高い評価を得ている同社。2024年4月に代表取締役社長に就任した古田嶋徹氏に、長年の財務経験を活かした経営戦略と未来への展望をうかがった。
経理部長としての経営視点を評価されて社長へ就任。品質と技術にこだわる商品展開
ーー社長就任までの経緯を教えてください。
古田嶋徹:
1990年に弊社に入社して以来、経理業務を軸に経験を積み、2004年に取締役経理部長に就任しました。その後、会社全体の財務管理や経営戦略の立案に携わり、2024年4月に社長として弊社の次世代を担う立場を任されることになりました。
就任の背景には、これまでのキャリアで培った経営視点と、組織統率の経験が評価されたことがあります。弊社の基幹事業であるランドセル部門のブランド力維持と拡大に注力する方針を掲げ、品質と機能性を追求する姿勢を今後も堅持する方針です。
ーー貴社の事業内容についてお聞かせください。
古田嶋徹:
弊社は、オリジナルブランド「ふわりぃ」を展開する国内最大規模のランドセルメーカーとして、製造から販売まで一貫して手がけています。全国に15店舗の直営店があり、そこでは製品の特長を直接お客様にお伝えし、フィッティング体験もできるので、より最適な商品提案が可能です。昨今はオンライン販売も強化し、多様な購入方法で、より多くのお客様にお応えできる体制を築いています。
また、ランドセルだけにとどまらず、スーツケースやビジネスバッグの製造販売も手がけており、特にビジネスバッグでは法人向けのOEMや、高機能素材を使用した製品の開発に注力しています。さらに、これまでの技術を活用し、スポーツ用品やアウトドア用品など新しい製品ラインを展開し、多様なニーズに応える事業拡大を進めています。

ーー他社との差別化を図っている点や強みについて教えてください。
古田嶋徹:
弊社の最大の強みは、品質への徹底したこだわりです。ランドセルには軽量かつ丈夫な国産素材「クラリーノ」を使用し、独自に開発したチェストベルトや成長に合わせて調整可能な肩ベルトなど、子どもの使いやすさを第一に考えた設計を採用しています。これらの機能は、長年の経験と技術力によって実現した弊社ならではの特徴だと思っています。
さらに、ランドセルで培った技術力を基盤に、高機能素材を採用した製品開発を進め、軽量かつ耐久性に優れた新素材を用いて新たな市場への挑戦も積極的に展開中です。多岐にわたる製品展開と確かな品質で、多様化するお客様のニーズにお応えできることが、弊社の競争力を支える大きな強みだと言えるでしょう。これからもランドセルに限らず、幅広い製品を通じてお客様の期待に応えていきたいと考えています。
人を大切にする経営で築く未来
ーー働きやすい環境づくりのために、御社では、どのようなことに取り組んでいらっしゃいますか?
古田嶋徹:
弊社では、社員一人ひとりが、安心して働ける環境づくりに注力しています。その根底にあるのが、創業当時から大切にしている「協調和敬」という経営理念です。「皆で心を一つにして協力し、互いを敬い、調和のとれた豊かな社会を築く」という意味が込められています。
たとえば、社員一人ひとりが安心して働ける環境づくりに注力し、その一環として「イクボス宣言」を掲げ、育児や介護と仕事の両立を支援しています。2020年には「日本でいちばん大切にしたい会社」の大賞(厚生労働大臣賞)を受賞し、大きな励みになりました。
加えて特に特徴的な制度として「子育て100万円プラン」を導入しており、小学校から高校までの教育費を段階的に補助することで、社員の経済的負担を軽減し、安心して仕事に集中できる環境を整えています。これらの取り組みは、社員の満足度やモチベーションの向上に直結し、結果として会社全体の成長を後押ししていると思っています。
日本の品質を世界へ!グローバル市場での挑戦

ーー海外事業の展開状況について教えてください。
古田嶋徹:
現在、海外に販売拠点を展開し、特にアジア市場では、日本の高品質な鞄が高く評価され、需要が拡大しています。現地パートナー企業との連携を強化し、多様化するニーズに適した仕様やデザインを取り入れながら、日本と同等の品質基準で提供しています。また、市場ごとのニーズを踏まえたラインナップを展開し、グローバル市場での競争力を高めています。
ーーランドセルを使う子どもたちのためのユニークな取り組みもされているそうですね。
古田嶋徹:
ランドセルは単なる通学カバンではなく、日本の教育的文化であり、子どもたちの成長を見守る大切な存在です。その思いを形にするため、弊社では「未来へつなぐタイムレター」プロジェクトを実施しています。これは、入学時に、ご家族からお子様へのメッセージや、お子様自身の将来の夢などを書いていただき、その手紙を弊社で大切にお預かりし、3年生の夏休みに返送する、という取り組みです。
この活動を通して、ランドセルが家族や子どもたちの思い出をつなぐ象徴的な存在であることを感じていただきたいと考えています。私たちは、次世代を担う子どもたちのために、より良い製品と心に残る体験を提供し続ける所存です。
ーー今後のビジョンをお聞かせください。
古田嶋徹:
今後の日本の少子化は、ランドセル事業にとって大きな課題です。しかし、私はこの課題を成長の機会と捉えています。ランドセル事業を維持しつつ、新たな事業の柱を育てるべく、これまでの事業で培ってきた、企画、製造、販売、それぞれのノウハウを活かし、積極的に新たな事業の創出を模索しています。
また、社内においては、次世代リーダーの育成を組織の未来を担う重要な要素と位置づけ、若手社員の成長を支える教育プログラムの充実を図っています。これからも進化を続けるため、社員一丸となって新たな挑戦に取り組んでいく決意です。
編集後記
古田嶋社長が語る「協調和敬」という理念には、社員とともに成長する会社にしたいという強い思いが込められている。少子化によるランドセル業界の課題すらも成長の糧とし、幅広い商品展開を目指すその姿勢は、意欲的で頼もしい。ランドセルを通して子どもたちを支援するユニークな取り組みには、ビジネスの枠を超えて社会貢献する企業のあるべき姿を感じた。

古田嶋徹/1960年、東京都大田区生まれ。1990年に株式会社協和へ入社し、財務や経営戦略に携わる。2004年に取締役経理部長、常務取締役、副社長を歴任し、2024年に代表取締役社長に就任。ランドセルを中心とした鞄製品の製造販売を手がける協和を牽引し、品質と機能性を追求する革新的な製品づくりを推進している。