
ものづくりのメッカである東京都大田区で、1968年に創業した株式会社三輝。ガスボンベなどに使用される「流体継手」の設計・製造販売から始まった同社の事業は、一般消費者向けのプライベートブランド商品の製造販売へと広がりを見せている。
シャンプーなどの詰め替えパックをそのまま使用できる「詰め替えそのまま」はその代表的な商品だ。同社の代表取締役を務める阿部拓也氏に、3代目社長に就任するまでの経歴や、社長として目指すところについて話を聞いた。
明るい未来を信じて道を切り拓き、社長に
ーー子どものころから会社を継ぐ意思はありましたか?
阿部拓也:
特に継ぐ気はなかったですね。学生時代は敷かれたレールの上を歩きたくない一心でした。そして周りが自分の好きな進路で突き進んで行く様を見て羨ましさもありました。ですが、親孝行もしたいとの考えもあり「流れのままに行こう」という気持ちもあったのも事実でした。
ただ、一方で、なるべく失敗はしないよう、自分の道を切り拓いてきたつもりです。それは、私の名前「拓也」に込められた「自分の手で道を切り拓く人になるように」という意味にふさわしくあるべきだという考えも影響しています。
ーー2003年にロンドンへ留学されていたそうですが、そこではどのような体験をしましたか?
阿部拓也:
当時サッカーが大好きだったこともあり、イングランドに渡英しましたが、勢いで留学したため英語はほとんど話せませんでした。ある日、公園で一人サッカーボールを蹴って遊んでいたんですが、ある子どもにボールをパスしたらそこに周囲に少年たちが集まり、みんなでサッカーをしたのを覚えています。「サッカーって言葉が伝わらなくても出来るし、スポーツは国境を越えるんだ」と思いましたね。座学で英会話を学んでいるだけでは、恐らくこのような体験はできなかったでしょう。
また、ある日に玄関の鍵が開かず、鍵をガチャガチャしていると、隣人に警察を呼ばれてしまったのです。まるで泥棒のように思われてしまい、言葉も喋れなかった為、何も言い返せずにただただ時間が過ぎるだけでした。日本では何不自由なく伝えられるけど、異国の地ではそうもいかない。そんな些細なことを言葉で伝える大切さも知りました。
その後も、親戚の田舎の小さな駅で切符が買えず困るなど、またまた言葉の壁にぶつかりました。自分の無力さを痛感すると同時に、これまで自分が周りの人に守られてきたことを自覚し、「人に感謝をしなければいけないな」という思いが、一気に溢れましたね。
ーー帰国後、社長に就任されるまでの経緯をお聞かせください。
阿部拓也:
帰国後は、アパレル企業にアルバイトとして入社したのですが、1か月経ったころに歓迎会の席で社会人としての資質を酷評され、「必ず見返してやる」と誓いました。そこからひたむきに仕事へ取り組んだ結果、ついに副社長から「うちの社長になってほしい」とお願いされるまでになったのです。
そんな話と同時期に父から「そろそろ三輝に入社しないか?」と懇願されました。ゆくゆくは自分も三輝に入って沢山勉強して立派な3代目にならなきゃと思い、満を持して2006年に弊社に入社することになりました。その後、父の病気療養に伴い、2014年に社長に就任しました。
社内体制を強化して環境整備に取り組む

ーー社長就任後は、どのような取り組みを行いましたか?
阿部拓也:
まずは社内ルールをつくるところから始めました。当時はルールが全くありませんでした。それと同時に、社員が意欲的に働けるように、福利厚生の制度も充実させました。「楽しくなければ会社じゃない、やりがいがなければ仕事じゃない」というスローガンを軸に据えて、自分が「そうであれば嬉しい」と思うようなルールを、社員の意見を取り入れながら決めています。
ーー貴社の事業内容を教えてください。
阿部拓也:
創業時から手がけている工業用の流体継手の製造を軸に、品質と安全性にこだわったものづくりを行っています。弊社は1968年の創業以来、大田区に拠点を構え、確かな技術力で多くのお客様から信頼をいただいてきました。
また、これまで培った技術を活かし、シャンプーなどの詰め替えパックをそのまま使用できる「詰め替えそのまま」という商品を開発するなど、プライベートブランド事業も展開しています。
創業60周年に向けて会社の土台をつくりたい
ーー今後の展望として、どのような考えをお持ちでしょうか。
阿部拓也:
2028年に創業60周年を迎えるので、そこに向かって邁進していくつもりです。具体的には、製造業として必要不可欠な、生産管理や品質管理の体制を強化していきたいですね。また、弊社商品の認知を広げるため、SNSを積極的に活用し、一般消費者に向けてPRしたいと考えています。
ほかにも、新製品の開発や数字を上げることなど、さまざまなことを考えていますが、それらを実現するためには会社の土台がしっかりしていなければいけません。まずは「社員が辞めない会社づくり」に注力します。さらなる福利厚生の充実と、社員が発言しやすい会社を目指し、話し合いの場を増やしていきたいですね。
ーー最後に、貴社が求める人物像をお聞かせください。
阿部拓也:
ユニークな人を採用したいと考えています。「私はこれだけは守っています」「これが私の武器です」といえるような、一つの物事に一生懸命になれる人を求めています。学歴よりも、とにかく元気で、一途に頑張ってくれるような人物が理想的です。そのような人と一緒に働けるのを、楽しみにしています。
編集後記
今後は一般消費者向けのプライベートブランド商品の開発も視野に入れたいと語る、阿部社長。「できれば大手企業とタッグを組んで、販売を強化していきたい」とのことだ。「流体継手」という、日常ではあまり聞くことのない工業製品にヒントを得て、一般消費者向けの商品を開発するというユニークな視点を持つ同社は、今後どのような新商品を市場に送り出すのだろうか。今からその商品を手にとる日が楽しみでならない。

阿部拓也/1982年、東京都大田区生まれ。高校を卒業して社会人経験を積んだ後、人生を変えるべくロンドンに留学。帰国後はアパレル企業に入社。その後、2006年に株式会社三輝に入社。2014年に代表取締役に就任。