
日本の老舗レコードレーベル、株式会社テイチクエンタテインメント。現在、演歌・歌謡曲を中心に、ポップスや落語、軍歌、ボーカロイド曲など、幅広いジャンルの音楽・映像ソフトを企画・制作・販売している会社だ。
2022年4月から代表取締役社長を務めるのは、大ヒットを記録した通信カラオケ機器「UGA(ウガ)」の開発・販売にも携わった栗田秀樹氏だ。同氏に、事業の詳細や強みに加えて次の目標などを聞いた。
1人でできる仕事ではないからこそ大切にしてきた信頼関係

ーー今までの経歴を教えてください。
栗田秀樹:
1993年、カラオケ機器メーカーの株式会社日光堂(現 株式会社エクシング)へ入社し、カラオケの機械や楽曲、コンテンツの開発業務に携わりました。同社ではさまざまな業務を経験しましたが、特に大きな実績として残っているのが通信カラオケ機器「UGA(ウガ)」(※1)の開発です。高音質のサウンドや新曲の配信など、それまでにないシステムとして注目を集め大ヒットとなりました。
そして、カラオケとレーベルの間でシナジーを出す理由で、2015年、株式会社テイチクエンタテインメントの取締役に選任されました。その1年後の2016年には、音楽出版社のエクシング・ミュージックエンタテイメント代表取締役社長を任され、2022年4月にテイチクエンタテインメントの代表取締役社長に就任し、今に至ります。
(※1)2024年10月31日を以って、サービス終了
ーーこれまでビジネスを行ううえで、どのようなことを大切にしてきましたか。
栗田秀樹:
会社の中と外を問わず、周囲の人とより良いコミュニケーションをとることを常に大切にしてきました。この仕事は1人でできることが少なく、社内外の人と協力しなければできないことがほとんどです。
たとえば、アーティストが出ている映像をカラオケに使うにしても、著作権の問題があるため、所属事務所など各所へ許諾をもらいにいかなければなりません。しかし、信頼関係が築けていない会社に許諾を与えてくれることは少なく、話を聞いてもらうことすら難しい時代だったので、まずは信頼関係を深めることが大切だと考え行動していました。
また、この信頼関係を構築するという意味でも、できないことを「できる」と言わないなど、約束を守ることも常に意識してきました。
自社制作したミュージックビデオをカラオケの分野に展開できる強み
ーー事業の内容と強みをお聞かせください。
栗田秀樹:
弊社は音楽や映像ソフトの企画・制作・販売などを手がけるレコードレーベルで、海外資本が入っていない会社としては、業界内で歴史が長い会社です。特に、演歌・歌謡曲の分野を得意としており、新人からベテランまで幅広いアーティストが所属しています。
昨年からはエクシングが手がける通信カラオケシステム「JOYSOUND(ジョイサウンド)」と提携し、共同レーベル「Imgramox Music(イングラモエックスミュージック)」を立ち上げるなど、さまざまな取り組みを行っています。
また、エクシングの子会社ということもあり、弊社が制作する楽曲のミュージックビデオを「本人映像カラオケ」として、全国の「JOYSOUND」に随時配信できるのが特徴です。弊社は演歌・歌謡曲を強みとしている会社ですが、それ以外にもポップスなど幅広いジャンルの楽曲を取り扱っており、これらの楽曲をカラオケに展開できるのも大きな強みだと考えています。
ーー貴社内はどのような雰囲気なのでしょうか。会社の雰囲気なども教えてください。
栗田秀樹:
とてもアットホームでボトムアップな社風だと思います。上司部下の関係を超え、自らプロジェクトを企画し、社員たちは自主的に動き一丸となって協力し合う空気があります。
昨年は創立90周年でしたが「なにかやりたい」と社員から持ち上がり、記念コンサートやライブをはじめ年間を通じてさまざまな企画を実現しました。
デジタルでの展開を拡大し、ヒット作を生み出したい

ーー今後の目標を聞かせてください。
栗田秀樹:
今後の目標は、マネジメント部門の強化です。これまでも360度ビジネスとしてアーティストのマネジメントをしてきましたが、可能性を秘めたアーティストと優秀なマネージャーを育成していきます。
さらに、もうひとつの目標はデジタル化をさらに進めることです。弊社では、音楽配信サービスよりもCDの売上高のほうがいまだに高い状況にあります。音楽のデジタル配信が進んでもCDを求める人もいますので、CD事業ももちろん続けますが、それと同時にデジタルでの取り組みにも力を入れなければいけません。
そこで今年始めたのが、世界的なデジタルディストリビューターであるBelieveとの提携です。今後はBelieveを通じて弊社が手がけてきた、そしてこれから手がける作品を世界に向けて配信・プロモーションしていきます。
また、弊社のYouTubeアカウントを通して音楽を聴く人は多いため、この分野においてもまだまだ事業を拡大できる可能性があると考えています。さらに、今後はSNSのほか、Apple MusicやSpotifyといったDSPでのアーティストのプロモーションをより強化する方針です。
こうした取り組みでデジタルの売上をCD以上に成長させ、デジタルでヒット作を生み出したいですね。
公式Youtubeチャンネル
「Teichiku Music Channel」はこちら
「TEICHIKU RECORDS 演歌・歌謡曲」はこちら
「Imgramox Music」はこちら
編集後記
すでに業界内では確固たる地位を築いているテイチクエンタテインメントだが、Believeとの提携によるデジタル化の促進など、栗田社長の挑戦は止まらない。同社が強みとする演歌・歌謡曲に、興味を持つ海外の人は多い中、同社のデジタル化が加速すれば、世界中に日本の音楽の魅力が伝わり、業界だけでなく日本全体を盛り上げることにもつながるはずだ。

栗田秀樹/1993年5月、株式会社日光堂入社。大ヒットカラオケ機器「UGA(ウガ)」の開発に携わる。2010年7月、株式会社エクシング経営企画本部編成企画部部長。2015年6月、株式会社テイチクエンタテインメント取締役兼株式会社テイチクミュージック取締役。2016年6月、株式会社エクシング編成企画部部長兼株式会社エクシング・ミュージックエンタテイメント代表取締役社長。2022年4月、株式会社テイチクエンタテインメント代表取締役社長に就任。