
製造現場における「人の技」を、AIとハードウェアの組み合わせで進化させる株式会社ロビット。同社は、外観検査自動化ソリューション「TESRAY(テスレイ)」を主力に、食品カット自動化ロボット「CUTR(カトル)」、スマホ連動カーテン「めざましカーテン mornin'+(モーニンプラス)」など、独自性の高い製品を開発してきた。
技術者同士の横のつながりを重視した組織文化から生まれる同社のソリューションは、製造業の効率化と働き方改革に新たな可能性を示している。その取り組みについて、代表取締役の新井雅海氏に話を聞いた。
メンバーの力を結集して実現する、高度な商品開発
ーー起業に至った背景をお聞かせください。
新井雅海:
私も含め、弊社の創業メンバーは、学生時代に起業家コンテストの学生版のようなものに参加しており、起業に対して、強い興味や関心を共有していました。また私は、大学の授業を通して「1人の技術者ではできないことも、複数の力を結集すれば目標を実現できる」という考えを学んだことも、起業を後押ししてくれた要因だと考えています。
私は大学で習得したさまざまな技術をもとに、得意分野を持つメンバーの力を結集して、ものづくりの事業をしようと思いました。その準備段階として、卒業後はまず大手半導体企業へ就職して経験を積んだ後、2014年に弊社を立ち上げました。
ーー就職して学んだことは、現在の仕事にどのように活かされていますか?
新井雅海:
グローバルな大企業だったので、組織としてのルールづくりや、多国籍企業ならではの言葉の壁に直面したことは大きな学びになりました。また、「半導体にソフトウェアを組み合わせることで、これまで想像もしなかったすごいことができる」ということを知ったのも貴重な体験でした。これが後に「複数の技術を組み合わせて製品を開発する」という弊社のプロダクトのあり方に反映されています。
AIによる自動化で、企業の離職率低下にも貢献

ーー貴社の事業内容とその特徴を教えてください。
新井雅海:
弊社は、外観検査自動化ソリューション「TESRAY」のほか、AI技術で食品などの不定形物のカットをロボットで自動化する「CUTR」、一般消費者向けのスマホ連動型カーテン自動開閉機「めざましカーテン mornin'+」などの、設計や製造、販売を行っています。さまざまな製造現場におけるハードウェアの知見や技術をAIと組み合わせることによって、ハイエンドで独自性の高い商品を提供しているところが、弊社の強みと言えるでしょう。
また、弊社は「さまざまな技術を組み合わせて商品を開発すれば、面白いものができるのではないか」という発想から事業がスタートしているので、組織の文化として、複数の技術を組み合わせることに力を入れています。各部門の横のつながりを強化することを推奨しているところが、弊社ならではの特色であり、弊社製品の独自性や強みに反映されていると自負しています。
ーー商品開発にあたって、特に苦労されたエピソードはありますか?
新井雅海:
弊社は、車の部品や食品など、小型製品の外観の傷を検査する工場向けの「外観検査自動化ソリューション」を主力商品として取り扱っており、ものづくりの現場の標準化や業務効率化を目指しています。
私は工場勤務の経験がなかったため、イメージをつかむために実際の作業を見学させていただいたのですが、工場の方は驚くほどに作業が早く、そして正確だったのです。正直なところ、その高い水準を維持したり、サポートしたりするための商品開発に、予想以上に高いハードルを感じました。
特定の技術だけで対応しようとすると、現場の多様なニーズに対応できませんし、コストが非常に高くなってしまうなど、クリアしなければならない課題が多くありました。最終的には、AIとソフトウェア、ハードウェアのさまざまな技術を組み合わせたクロス・ソリューションを開発することで、その課題を解決できました。
ーー貴社の製品に対するお客様の反応はいかがでしたか?
新井雅海:
弊社製品の利用によって人員の配置を効率化でき、利益に貢献しているというお話をよくうかがいます。外観検査は、人力で行うと心身の負担が大きくなる上に、その会社の顔である製品を検査するという重大な責任を負う仕事です。検査で見落としがあり、経済的な損失があると、責任を感じて退職してしまう人もおり、人事上の課題を抱えている企業も数多く存在します。そのような背景がある中で、「弊社製品の導入によって離職率が下がり、職場の雰囲気が良くなった」というお声をいただき、非常に嬉しかったです。
技術者の横のつながりを強化し、さらなる進化を目指す
ーー将来に向けてどのような取り組みをしていますか?
新井雅海:
製造業界のお客様は、これまで人力で行ってきた作業のクオリティが高い分、弊社商品に搭載するAI機能にも高い性能を求めます。その高い性能を実現するためには、さらなるリソースや開発費用が必要になります。今後は、開発としての視点だけでなく、コスト的な面にも視野を広げていくことが、経営上の重要なポイントとなると考えています。現在は、創業メンバーがこれまでに培ってきたノウハウを社内で積極的に共有し、高いレベルの人材を育てる環境づくりに取り組んでいます。
ーー最後に、貴社の今後の展望をお聞かせください。
新井雅海:
会社を大きく成長させたいのはもちろんですが、弊社の組織の本質として、「技術者同士の横のつながり」が非常に重要になっています。この1年ほどは、横のつながりの強化や、経営陣の考えを社員に伝えることに注力してきました。今後も、全社員が組織として同じ方向性を目指して進むための仕組みづくりに注力し、横並びの社内文化を浸透させていく方針です。
弊社は「『作る』を進め、『創る』を増やす。」というビジョンを掲げています。このビジョンに込められているのは、「機械化が困難な作業に弊社の技術ソリューションが加わることで、ものづくりを推進し、より付加価値の高い労働に人的リソースを割けるような環境を創出したい」という願いです。このビジョンの実現に直接的に結びつくようなハイエンドのソリューションを、今後も提供していきたいと思います。
編集後記
新井社長が学生時代から持っていた「複数の力を結集する」という理想は、少しも色褪せることなく、今もその思いを貫いていることが伝わる。むしろ、開発を行う上で直面したさまざまな課題を通じて、その理想はより具体的な形となって実現している。高度な技術力を持ちながら、現場への敬意を忘れない。その姿勢こそが、同社の製品が持つ説得力の源泉なのかもしれない。

新井雅海/1988年、群馬県生まれ。中央大学大学院修了。その後、インテル株式会社に入社し、ソフトウェアエンジニアとしてAI、IoTや組み込みOS関連の事業に従事。IoT関連ソフトウェアの海外共同開発や、IoT・AIを組み合わせたビッグデータ解析システムの開発などを手がけた。2014年、株式会社ロビットを設立し、代表取締役に就任。AI技術と組み込みシステムを中心に幅広い設計・開発を行う。