2050年までにカーボンニュートラルを目指す日本政府は、2035年までに新車販売における電動車の割合を100%にすると発表した。しかし、車両価格の高さや、充電できる場所が少ないなど、EV(電気自動車)の普及には課題も多く残されている。
そのような中、再生可能エネルギーを活用したEVの普及推進や、EVに特化したカーシェアリングやEVを活用したエネルギーマネジメント事業を展開しているのが、株式会社REXEVだ。同社代表取締役社長の渡部健氏に、創業の経緯や事業内容、今後の展望についてうかがった。
電力業界の経験を生かし、EVの可能性に着目
ーー貴社を創業するまでの経緯をお聞かせください。
渡部健:
学生時代に電力システム工学を専攻し、電力自由化の研究に取り組みました。卒業後は住友商事株式会社に入社し、海外向けの事業を担当した後、サミットエナジー株式会社という小売電気事業者に出向。そこでは、発電所の建設から電力の販売、需給調整まで、幅広い業務を経験することができました。
また、仕事と並行してビジネススクールで電力取引について学び、2009年には株式会社エナリスというベンチャー企業に転職。ここでは、エネルギーマネジメントや新電力事業のコンサルティング、電力需給管理の仕事や新規事業開発にも携わりました。その後、2019年に株式会社REXEVを設立するに至ったのです。
ーー創業に踏み切った理由や事業内容について教えてください。
渡部健:
創業のきっかけは、前職で取り組んでいた定置用蓄電池による電力調整事業でした。2015年頃は蓄電池自体の値段が高く、ビジネスとして成立させるのが難しかったのです。そこで着目したのが、EVに搭載されている蓄電池です。
EVは本来、車を走らせるために電気を蓄えておきますが、車はずっと動いているわけではありません。車が停まっている間、使われていない蓄電池を充電器に接続して電力のネットワークをつくる。そうすれば電池を安く使えるのではないかと考えたのが創業のきっかけですね。
ただし、このビジネスモデルはEVの普及が前提となります。そこでまずは、EVに触れる機会を提供するため、カーシェアリングを始めました。現在は、EV普及のための取り組みを合わせて進めているところです。
カーシェアリングと充電インフラ整備で、EV普及の障壁を取り除くことに挑戦
ーー現在、注力している事業について聞かせてください。
渡部健:
現在、私たちが注力している事業の一つは自治体向けのEVカーシェアリング事業ですね。平日は公用車として使い、休みの日は市民や観光客に使っていただくことで、自治体はコストを抑えつつ脱炭素の取り組みができます。
また、弊社では、EVを再生可能エネルギーで充電したいという自治体のニーズに応えて、太陽光発電の導入支援も行っています。豊富な種類の中から最適な充電器を選定し、建物の設備状況に応じて設計できることも私たちの強みですね。
ーーEVの普及にはどのようなことが必要だとお考えですか?
渡部健:
今注目しているのは、EVの中古車です。ガソリン車に比べて価格が高いEVも、中古車はであれば価格が少し下がりますし、比較的新しいモデルであれば十分使えます。また、環境への優しさという、ガソリン車にはない利点は見逃せません。EVは充電に少し時間を要しますが、使わない夜間に充電するなど、スマホの充電を管理する感覚で考えてもらいたいですね。
ーーEVに切り替えたときのメリットを教えてください。
渡部健:
EVに切り替えるメリットとしては、燃料コストの削減が挙げられます。EVの燃料である電気のコストはガソリンと比較して、2分の1から3分の1程度に抑えられますし、車種や走行距離によっては、4〜5年で導入コストを回収できることもあるのです。さらに、粗大ゴミを出すのが有料になったように、今後、CO2を出す場合はお金を払うというように変わってくれば、世の中のEV導入への意識も変わっていくかもしれませんね。
EVを社会インフラに組み込み、再生可能エネルギーの利用を促進
ーー事業で特に注力したいことは何ですか?
渡部健:
環境への意識が高い企業などを対象に、新規開拓に力を入れていきます。特に多くの車を保有している場合は、EVと入れ替えることで、大幅なCO2削減につながります。また、これからは法人だけでなく、一般家庭向けのサービス展開も検討しているところです。
私たちの商材は提案営業が中心なので、商品知識がないお客さまにも説明できる専門性が必要となります。難しい営業であるからこそ、社内での知識の共有や教育体制の強化も重要です。EVの特性や活用方法をわかりやすく伝えられるよう、これからも営業スタッフのスキルアップに力を入れていきます。
ーー今後のビジョンについて教えてください。
渡部健:
日本と比べて海外の方がEVの普及率が高いので、海外進出も視野に入れる必要性を感じています。EV市場の成長は読みにくいのですが、日本でも2027年あたりからEVの利用者が徐々に増加していくでしょう。弊社としては、2025年頃には、1万台のEVを弊社のシステムにつなげて制御していくのが目標ですね。
再生可能エネルギーを増やしていくためには、電力の計画的な管理が不可欠です。たとえば、太陽光エネルギーは、天候に左右されたり、夜間に発電ができなかったりといった不安定な部分がありますが、蓄電池と組み合わせて利用することで、その不安定な部分を補うことができるのです。
つまり、蓄電池がなければ、手軽に利用できる再生可能エネルギーは増えません。私たちは、再生可能エネルギーの利用促進やEVが社会インフラとして活用される未来へ向けて、これからもまい進していきます。
編集後記
株式会社REXEVは、EVを社会インフラとして定着させるための確かな一歩を踏み出している。渡部氏の語るビジョンからは、再生可能エネルギーとEVが融合した、持続可能な社会の実現に向けた力強い意志が感じられた。環境に優しい、スマートな移動手段であるEVが、私たちの日常をより豊かなものへと変えていく未来は、もう目の前まで来ている。
渡部健/一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コースを修了(金融戦略MBAを取得)。早稲田大学院理工学研究科電気工学(電力システム工学)を修了後、住友商事株式会社に入社し、国内外の電力事業に従事。2009年に株式会社エナリスに入社し、経営企画や新規事業開発などに携わる。2019年、株式会社REXEVを設立し、代表取締役社長に就任。