※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

近年でも成長・拡大傾向にある広告市場。数々の制作会社が台頭するなか、クライアントから選ばれ続ける企業であるために、トップはどのような姿勢で経営に臨んでいるのか。「MakeFans」を行動原理として掲げ、広告コンテンツを制作するノースショア株式会社の、代表取締役CEO・石井龍に話を聞いた。

新規事業に失敗。失意の底から這い上がるまで

ーー起業に至った経緯を教えてください。

石井龍:
学生の頃、CGアニメに衝撃を受け、「自分も人の心を動かす映像がつくりたい」と、映像業界を志しました。就職氷河期で求人の少ない時代でしたが、何としても映像制作がしたかったので、派遣会社を通じて映像制作会社でCMプロダクションマネージャーの仕事に就き、その後CMディレクターへとキャリアチェンジしました。

経営者だった父親から「将来は何の会社をつくるんだ?」と尋ねられながら育った影響で、「いずれは自分も会社をつくるのだ」と漠然と考えていましたが、2008年にタイミングが来たため、独立して会社を立ち上げることにしました。

ーーご自身で経営を始めてから、どのような困難がありましたか?

石井龍:
会社を設立した2008年、リーマン・ショックの影響で広告の仕事が激減してしまいました。広告業界に未来が見えず、1.5億円の資金を調達してバイオ燃料事業に参入したものの、結果的に大失敗。

家財道具を売り払い、お金も仕事もなくなり、実家の6畳間に居候することに。朝早く目が覚めても体が重くて起きられない。30代で妻と子どもを抱えながら、毎日やることもなく両親にご飯を食べさせてもらう日々を送り、「自分は何をしているのだろう」と強い自己嫌悪に陥ったのを覚えています。

無力感でいっぱいの毎日でしたが、ある時、母親から居候している実家の「庭の木を切ってほしい」と頼まれました。それをきっかけに、「自分にも人や社会の役に立てることがある」という気持ちがよみがえり、「もう一度、原点の広告制作に戻って会社を成長させよう」と、エンジンがかかりました。

ーーどのようにして会社を再建したのですか?

石井龍:
運よく、以前勤めていた会社から仕事の連絡をもらいました。報酬額は決して高くはありませんでしたが、仕事を依頼されたことが嬉しくて一生懸命に取り組むと、また違う仕事をくれたのです。おかげで少しまとまったお金ができたので、300枚ほどあった昔の名刺から仕事につながりそうな方を30名ほど選び、お歳暮を贈りました。

すると、ありがたいことにポツポツと依頼があり、次第にリピートが増えて、受注単価も上がりました。貯まったお金でオフィスや人に投資したところ、翌年には年商が3000万円近くにまでなり、2012年にはタワーマンションにオフィスをつくり、年商も2億円を超えました。

クリエイティブの力で、クライアントと映像クリエイターの課題を解決する

ーー現在の事業内容を教えてください。

石井龍:
現在はブランディング事業とプラットフォーム事業を手がけています。

ブランディングとは、企業・商品・サービスの本質的な価値を言葉・ビジュアル・映像で表現し、その価値を上げることです。弊社では、テレビCM・コーポレートサイト・採用サイトなどの各種メディアに関し、映像・グラフィックデザイン・ウェブを含めたデジタルコンテンツからイベントまで、一社で対応できます。そのため、スピード向上やコスト削減等、お客様の負担軽減を実現しています。

もう一つのプラットフォーム事業では、CM・高品質映像制作のマッチングプラットフォーム「クリショア」と、AIを用いた映像カット表の生成サービス「カットウヒョー」を提供しています。「クリショア」は、CM制作関係者が登録するマッチングサービスでは国内最多規模となる約3300名のユーザーが登録しています。

また「カットウヒョー」は、映像制作の過程でクライアントがチェックする際に、制作した映像の内容を「カット表」という静止画資料にまとめる作業があるのですが、これをAIを使うことで作業量が7割以上減らせたことで、「もう前の作業方法に戻れない」といった声をいただくなど、ご利用の制作会社のみなさまに喜んでもらっています。

ーーなぜ同業者向けの事業を手がけるようになったのですか?

石井龍:
今はかなり改善されていますが、数年前まで広告業界は非常にブラックな業界でした。深夜残業や連日の徹夜、土日の出勤は当たり前。家族や恋人から心配されて、社員が辞めてしまうケースも多かったですね。業務を効率化することで労働環境を改善して、クリエイターが自分の好きなクリエイティブの仕事を続けていける世界を実現したいと思いました。

実は弊社も、2021年に労働基準監督署の指導が入ったのです。それを機に、スタッフの稼働予測を綿密に行い、時間外労働が規定を上回らないように調整するなど、現場の業務改善を進めました。結果的に「1年間でこんなに改善された企業は初めてです」と労基署からお褒めの言葉をいただくほど、大きく改善させることができ、離職率も下がりました。

すべてはクライアントのファンを生み出すために

ーー会社を経営するうえで大切にしている考えを教えてください。

石井龍:
行動原理として掲げているのが「MakeFans」。自分たちが理想とするカッコ良さを追求するのではなく、あくまでもクライアントのファンが増えることを目指そうというメッセージです。クライアントの立場になって、自分がクライアントであるかのように同じ課題に悩んで、ときには忌憚のない提案をする。結果として、クライアントが弊社のファンにもなってくれると思っています。

何を大切にしたいのかを言語化したことで、メンバーも自分に何が求められているかがわかりやすくなったようですね。言語化されていなかった頃は、それぞれの正しいと思う価値観がぶつかってしまい、組織がまとまらなくなるという経験もしました。

今は、会社の価値観に沿ってコミュニケーションをとるので、仕事が円滑に回るようになり、実際にメンバー全員と「1on1ミーティング」を実施するなかで、半数以上の人が「周りにいい人が多く、働きやすい」と答えてくれるようになりました。

最終的に実現したいのは、熱狂するプロフェッショナルが集う聖地をつくることです。優秀で気持ちよく仕事ができるメンバーとクライアントに恵まれ、当然、利益も出して、会社が永続的に発展し続ける究極の仕組みを追い求めたいと考えています。「ここで働くことが楽しくて仕方がない」。そのような、「熱狂的な会社」をつくりたいですね。

編集後記

社内にとどまらず、広告業界全体に目を向け、クリエイティブに関わる多くの人が熱狂できる世界を目指す石井社長。社長が掲げるビジョンは、広告業界にとどまらず、数多くのクリエイターに魅力的に映るのではないだろうか。同社がつくり出す「聖地」を見届けるために、今後も注目していきたい。

石井龍/CM制作会社の派遣社員としてキャリアをスタート。昼はプロダクションマネージャーとして制作業務をこなしながら、夜から朝にかけてはひたすら企画をつくり続け、CM監督となる。数々のナショナルクライアントを担当した後、ノースショア株式会社を設立して代表取締役社長CEOに就任し、現在に至る。