「唯一無二の“4つ星ホテル”」をコンセプトに、高級ホテルの上質さとビジネスホテルの利便性を兼ね備えるカンデオホテルズ。
ホテルステイの可能性を広げた株式会社カンデオ・ホスピタリティ・マネジメントの代表取締役会長兼社長穂積輝明氏に、事業を始めたきっかけや経営術に生かされているマインドについて伺った。
ボランティア活動とアルバイトで見つけた起業への道のり
ーーこれまでのご経歴で印象深いエピソードがあればお聞かせください。
穂積輝明:
大学でお付き合いしていた彼女と別れて寂しさを感じていた頃、ボランティアの発起メンバーに応募して活動を始めました。
学生の僕はボランティアに没頭できましたが、仕事との両立で疲れている社会人の姿も見ました。そのとき、ボランティア組織はもちろん大切ですが、生活の糧を得る場と社会貢献の場を一致させて「双方の板挟みにならない会社を作りたい」と感じたのが起業の背景です。
ーー学生時代から起業をお考えだったのですね。
穂積輝明:
思ったことをすぐに言ってしまう性格なので、「サラリーマンとしては出世できないだろう」と漠然と感じていたことも起因しています。
また、リクルート創業者の江副氏が経営していたスペースデザインという不動産開発会社でアルバイトをしていて、分譲マンションの設計企画など大きな仕事を任されたことも大きいです。実際は上手にマネジメントしてもらっていたのですが、当時は「実務経験のない僕を信頼してくれた」と、やる気に満ちていました。
大学卒業後、同社でさらに実績を積んで自信をつけたのち、資金調達について勉強するため不動産投資会社へ転職しました。
転職先で得たベンチャーの機会
ーーどういった流れでホテル事業に関わることになったのでしょうか。
穂積輝明:
社長直轄の新規事業立ち上げ部署に入り、提案の機会をいただきました。そこで、ホテル事業は「究極の不動産オペレーション事業」であると気づき、設計・施工をして終わりではなく、業務のオペレーションまで一貫して携わることができれば差別化のチャンスがあると思ったのです。
出張を重ねる中で、宿泊先が「寝るだけのビジネスホテル」か「一流のシティホテル」に二極化していると感じていたため、「中間のホテル」をコンセプトとしました。
大都市は2000年の資産流動化法でバブルが発生し、価格が上昇していたため、出店戦略のターゲットをあえて地方に設定しました。創業から3年間で8棟1090室を竣工というスピードは、おそらく業界最速記録です。
“4つ星ホテル”という価値が受け入れられるまで
ーー事業が軌道に乗るまでのお話をお聞かせください。
穂積輝明:
創業当時は、「ビジネスホテルの割に宿泊費が高い」「シティホテルだと思ったのにレストランが1つしかない」といったご意見をよく頂戴しました。改良を続けて3年ほど経ち、「こういうホテルが欲しかった」と言っていただけるようになりました。
想定していた「ワンランク上のビジネスパーソン」という層にもハマり、地方に出張で来た方が週末にご家族を連れて来られるケースもあります。
ーー「大浴場」や「おいしい朝食」などの人気ポイントも狙い通りだったのでしょうか。
穂積輝明:
僕がもともとお風呂やサウナ好きだったので、1号店から大浴場を設けたのです。空前のサウナブームはたまたまですね。
朝食については、他ホテルと比較し、利用率が高いため、原価率を上げて良い食材を使い、豪華さを追求しています。全店直営なのでメニューやレシピも随時変えられます。
昼・夜の食事はあえて提供せず、その土地のものを食べたいお客様に地元ならではのステキなお店を紹介すれば、お客様にも地域のお店にも喜んでいただけます。地域外から観光客を誘致する「ホテル」だからこそできる地域貢献の一つですね。
コロナ禍で迎えた初めての苦境
ーー日本では2020年2月頃から新型コロナウイルスが猛威を振るいました。当時のご状況もお伺いできればと思います。
穂積輝明:
弊社の売り上げは同年4月に85%ダウンし、眠れない夜もありましたが、「仲間である従業員のために経営している」という原点を思い出しました。
「雇用形態によらず全員の雇用を守るので、復活に向けて全力で力を貸してほしい」という全社メールを送り、自分としても腹が決まったのです。連泊やテレワーク利用の需要急増に素早く対応するなど、現場は相当大変だったでしょう。
しかし、従業員たちも「自分たちの生活を守ってくれる会社だ」と思えたのか、前向きなパワーで変化に追随してくれました。弊社は「Go Toトラベル」事業が始まる以前に回復し始め、2020年11月には黒字に戻っています。
今後の展開とマインドの継承
ーー今後のご展望についてもお聞かせください。
穂積輝明:
2023年9月現在、改良済みのホテルが25棟4903部屋あり、2027年5月期までに1万室分の出店を確定させ、2030年には開業するのが目標です。1万室になると中間ホテル領域のマーケットでシェアが10%となり、そこが打ち止めだと考えています。弊社のビジネスモデルは日本だからこそ活きるものですので、海外展開はあまりせずに主軸は今後も国内の予定です。
ホスピタリティの部分では、国内の貧困家庭を支援したいと考えています。たとえば、経済的に将来の選択肢が狭まっている子どもに対する「ホテルビジネススクール」の開催です。ホテル経営という本業が高収益であれば、周辺事業も責任を持って支えられるはずです。
ーー穂積会長兼社長が持つ「従業員ファースト」のマインドはどのように生まれたのでしょうか。
穂積輝明:
僕には「キラッと光るものを持っている方が活躍できる場を作りたい」という信念があります。リクルート創業者の江副さんの信念でもある「どんな人も必ず一つは誰にも負けない強みがある」というのを僕も信じていて、他社では上手くいかなかった子でも、働くことへの目的意識を明確に持った人材ならば迎え入れて環境を用意し、性格や人生観に応じて仕事の任せ方を変えています。
僕のこういったDNAを次の世代にバトンタッチしていく準備は、しっかりしていかないといけませんね。
編集後記
ホテルの満足度において、「滞在の質と価格帯のちょうどよさ」に目を付けた穂積会長兼社長。
ユーザー目線に立つことを忘れず、仲間の守り方や貧困化が進む日本の状況にまで気を配る「人」ありきのホスピタリティは、業界に斬新な視点を与え続けてくれるだろう。
穂積輝明(ほづみ・てるあき)/1972年、京都府生まれ。1999年に京都大学大学院工学研究科を修了。大学時代からアルバイトをしていた株式会社スペースデザインへ入社。2003年株式会社クリードへ転職。2005年、同社内の新規事業株式会社カンデオ・ホスピタリティ・マネジメントを立ち上げ、代表取締役社長に就任。2012年、オーナー経営者として独立。