夏の夜空に美しく咲く花火。あなたにも誰かと一緒に花火を見た、良い思い出があるのではないだろうか。株式会社若松屋は、花火大会から庭先で楽しむ線香花火まで、あらゆる花火を一手に取り扱う花火のプロフェッショナル企業だ。そして代表取締役である佐野明正氏は、花火には人々を笑顔にする力があると語る。
花火を仕事にするというのは一体どのような感覚なのか。花火会社の業態や花火を仕事にする魅力などについて、佐野代表にうかがった。
愛知県岡崎市で始まった花火会社を継ぐ、4代目代表
ーー佐野代表の経歴をお聞かせください。
佐野明正:
弊社は1937年に愛知県岡崎市で創業した花火会社です。代表は代々引き継がれ、私で4代目になります。私は次男なので会社を継ぐことを考えていなかったのですが、3代目代表だった兄が2年前に体調を崩し、私が引き継ぎました。
弊社に勤める前は、大学を卒業後に1年間だけ、火薬を取り扱う会社で修業を積みました。火薬の取り扱い方や危険性について理解し、関連する資格を取得するなど、意義のある一年でした。
ーー佐野代表にとって、花火の魅力とは何ですか?
佐野明正:
国や年齢、性別の違いなど、さまざまな条件を問わず、その美しさを実感できることだと思います。夜の空に咲いた花火を見て、「きれいだね」というだけで、世界中の方と共通の思い出が作れるのです。
皆さんにも、花火にまつわる思い出があるのではないでしょうか。花火大会だけでなく、庭先で楽しんだ花火や線香花火が消えるまでの時間の比べっこなど、花火を一緒に楽しんだすべての時間が宝物になるのです。
「おもちゃ花火」と「打ち上げ花火」。両方をカバーする、広い事業領域
ーー貴社の事業内容を教えてください。
佐野明正:
主な事業は花火の製造や打ち上げ、花火にまつわるイベントの開催です。また、玩菓(玩具菓子。おまけをつけた菓子など)を扱い、玩具事業も行っています。
花火の製造においては、家庭で楽しむ「おもちゃ花火」と、花火大会などで打ち上げる大きな花火の両方を手がけています。また、花火大会などで打ち上げを担当する機会も多く、地元の愛知県で開催される岡崎市の花火大会には長年にわたって携わらせていただいています。
その他には、花火作りや花火体験などのワークショップも行っています。子どもを中心に人気のある弊社の取り組みで、多いときには1日で300人近い方にご参加いただくことがあります。最近は海外からの観光客が多いので、気軽に日本文化に触れてもらえるイベントとして活用できないかを検討中です。
ーー貴社独自の強みを教えてください。
佐野明正:
「おもちゃ花火」と打ち上げ花火、そして実際の打ち上げまで、花火のすべてを取り扱っていることです。ここまで幅広く取り組んでいる花火会社は、全国でも弊社のみだと思われます。
花火の製造はストック場の所有がネックになりますが、弊社は一年中花火を絶やさないように十分な規模を確保しています。花火に関するあらゆることを、一年中、提供できる体制を整えています。
花火の既成概念を壊し、新しい価値を提案する
ーー今後、注力したいテーマについて、お聞かせください。
佐野明正:
今までの形にとらわれない、新しい花火を提案していきたいですね。すでに、これにも取り組み始めていて、環境に配慮したエコパッケージ花火や1本数百円する高級花火の販売、9月以降でも花火を楽しんでいただくためのキャンペーンなど、多角的な視点からアプローチしています。
特に夏以外の販売には力を入れていて、試験的にハロウィンシーズンの売上を調べたところ、同じ売り場面積のハロウィングッズの売上を上回る結果も出ています。
花火業界は、今まで伝統的な産業として守られてきた一面があります。しかし、生活スタイルの変化や少子化などにより、今までと同じでは通用しなくなってきています。
どのように花火のユーザーを増やしていくのか。この課題に花火業界は向き合わねばなりません。そのためにトライアンドエラーによる新商品作りはもちろん、花火の面白さを広めていく活動にも力をいれていきます。
ーー最後にメッセージをお願いします。
佐野明正:
花火を仕事にすることは「特別な瞬間に立ち会う」ことでもあります。私もそれを日々実感していて、2020年の東京オリンピックに携わったのは一生の思い出です。普通ではできない体験ができる、特別な思い出が作れるのは、この業界ならではの楽しさだといえるでしょう。
純粋に、花火が好きな方は、この仕事に向いていると思います。花火業界は環境面・肉体面でハードな部分もあるのですが、特別な体験ができたときは、「この仕事をしていて良かった」と心から思います。
弊社はこれから経営幹部の育成にも取り組まねばなりません。だからこそ次世代の力が必要です。仕事を人生の思い出にしたい方、花火が純粋に好きな方は、ぜひ私たちと一緒に働きましょう。
編集後記
「感動に言葉はいらない」とよく言うが、まさに花火はその王道を行く存在だ。自分が打ち上げた花火が国を超えて人々をつなげたら、一体どのような気持ちになるのだろう。グローバル化が進む時代に言葉を使わずに人をつなぐ。佐野代表は感動で人を繋ぐ魔法使いなのかもしれない。
佐野明正/1963年、愛知県岡崎市生まれ、1986年に青山学院大学を卒業後、興亜化工株式会社に入社し、1987年に株式会社若松屋に入社。2007年、取締役副社長に就任。2022年、代表取締役に就任。