※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

大規模展示会やスポーツフェスティバル、ショッピングモールの集客イベントなど、多彩なジャンルのイベントを創造し続けるTSP太陽株式会社。現在は2025年開催の大阪・関西万博に向け準備を進めている。

同社代表取締役社長の池澤嘉悟氏は、新卒で入社して以来イベント業務に従事し、2022年の社長就任後はコロナ禍に好機を見出し会社を業績向上に導いた。コロナ禍での成長の理由と今後の展望、挑戦していく課題について、池澤社長にお話しいただいた。

イベントを通し、地域のポテンシャルを上げる仕事がしたい

ーー入社から社長就任までの経緯を教えてください。

池澤嘉悟:
もともと建築学科を専攻しており、就職を考えたときに、「ゼネコンに入って建物だけをつくるよりも、ディベロッパーのようなまちづくりの企画をやりたい」と思いました。

当時は地方での博覧会が盛んにおこなわれていたため、その土地のポテンシャルを上げて地域開発をしていくことに面白みを感じました。そこで調べてみるとTSP太陽というイベントの企画制作をしている会社があると知り、先輩の紹介で入社を決めました。

技術者として採用された後は、企画・運営から営業まで幅広い業務を経験させていただき、事業本部長を任された頃からは会社の拡大に向けた経営を意識し始めました。最初から社長を目指したわけではなく、目の前のことに懸命に取り組み、事業をまとめていくうちに、気づけば今の立ち位置に就いていたのです。

ーー貴社で展開されている事業や、強みについてお聞かせください。

池澤嘉悟:
弊社はイベント制作会社として、多くの空間プロデュースやまちづくり、防災・防疫支援に取り組んできました。

創業当初は運動会のテント設営など小さなイベントから始まりましたが、次第に1970年に開催された大阪万博や大きな博覧会などを手掛けるまでになり、歴史を積み重ね、来年で70周年を迎えます。そうして蓄積したイベントの知識や経験に加え、企画・制作・施工・運営・交通輸送など、イベントに関する全ての作業を一気通貫でできるというのが私たちの強みです。

さらに、ネットワークを活かし弊社グループの中でも世界トップクラスのシェアを持つテントメーカーである太陽工業株式会社が兄弟会社のために、「テント」という商材を使って何もないところにイベント空間を生み出すことが可能です。

イベント制作のみならず、昨今では積み重ねた実績を基にイベント主催者の課題に対するダイレクトなプロデュースができるようになり、ともにイベントをつくり上げていく事業も展開しています。

コロナ禍で見えた「リアル」の大切さ、臨場感こそが提供できる一番の価値

ーー社長に就任された2022年以降、新型コロナウイルス禍の中でも急激なスピードで成長されていますが、どのような戦略を試みたのですか?

池澤嘉悟:
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、PCR検査やアクリル板の設置などの対策が進みました。弊社ではワクチン接種の運営などにいち早く携わったことで、2022年以降の売上に大きな影響を与えたのです。

2023年になり、アフターコロナといわれる時期には、これまで人に会うことを制限されていた反動からイベント開催への需要が高まりました。さらに2020東京オリンピックという一大イベントにも携わり、「自分たちができる仕事の幅を広げていこう」という思いでずっとやってきたことが実を結び、企業の成長につながったのではと思います。

ーーコロナ禍ではバーチャル空間でのイベントも数多くおこなわれましたが、リアルのイベントとの違いは何でしょうか?

池澤嘉悟:
やはり、現場の空気感や臨場感が全く違いますね。コロナ禍では有名なアーティストもバーチャル上でコンサートをおこなっていましたが、コロナ禍が明けると一気にバーチャルの流れはなくなり、リアルに戻っています。

「ライブ」はリアルでの音の圧や、周りの人の熱気、現場のノリなど、実際に現場に赴くことで多くの感覚を感じとれるからこそ面白く、それこそが私たちの提供できる価値だと思っています。

イベントDX、テントの新商品、木材廃材の再利用…パイオニアの挑戦は続く

ーー今後はどのようなサービスを展開する予定でしょうか?

池澤嘉悟:
今一番注力しているのが、イベントDXです。弊社ではイベントの運営をおこなっていますが、今後少子高齢化が進み運営に入れる人材も減っている中、より少ない人材で今まで以上のサービスを提供するために、運営サイドの業務効率化アプリを開発しています。

このアプリは、運営本部とスタッフとの情報伝達をスムーズにするものです。さらには、記録写真や実績データなども都度保存して報告書を簡略化し、お客様の落とし物や迷子の情報も即時に共有できるようになるでしょう。

一方で、イベントに参加するお客様向けのアプリも開発中です。アプリをダウンロードしてQRコードを読みとるとイベント情報が出てきて予約ができるようになります。また、弊社は駐車場も運営しているため、アプリで事前に駐車場を予約し精算を済ませておくことで、イベント当日はスムーズな入出庫が可能になります。

ーーテント事業にも力を入れているとお聞きしました。

池澤嘉悟:
テント事業に関しては、1970年の大阪万博以降、さまざまなイベントで建築実績を積み重ね、今では国内でも多くの場所でテントを使用いただけるようになりました。

海外のテントを最初に日本に導入したパイオニアとして、今後もよりお客様の要望に合わせた商品展開を図るべく、一度分社化したテントレンタル事業会社を2023年に吸収合併しました。全社一丸となってテント事業の成長を目指すべく、海外製テントなどへの投資を積極的におこない、レパートリーを増強していくつもりです。

ーー最後に、新たに取り組んでいきたい事業について教えていただけますか?。

池澤嘉悟:
昨今、木造建築物の廃材を再利用する取り組みも増えていますが、弊社でも日本の各地域の木材を利用した仮設空間をつくり、その廃材を再利用する方向で事業を展開しようと考えています。

日本の木材を利用することで国内林業の維持に貢献することができます。さらに、自然環境保全のためSDGsと掛け合わせた取り組みや新しい商品をつくりだしていく予定です。

私たちは、これまでイベント制作やテント設営のパイオニアとして長い歴史を歩んできました。今後は、新しいことに取り組んでいくチャレンジ精神も大切にして事業開発に励んでいきたいと思います。

編集後記

「イベントの主催者と来場者双方のニーズを的確に把握することが重要だ」と語る池澤社長。
ただの「ものづくり」ではなく、その空間にどのような価値を持たせるかを常に問うてきた同氏だからこそ、人を魅了するイベントを生み出し続けてこられたのだろう。同社の挑戦により、日本中に感動の輪が広がっていくに違いない。

池澤嘉悟/1962年生まれ。兵庫県出身。1988年、TSP太陽株式会社入社。入社以来、世界リゾート博や愛知万博などの国際博の会場計画や運営・輸送業務のプロジェクトに参加し、事業の拡大と推進の役割を担う。2004年にクリエイティブ本部長、2008年に企画営業本部長を経て、2014年に取締役、2020年に副社長執行役員に就任。2022年、代表取締役社長に就任し、現在に至る。