2017年に設立され、群馬県桐生市に本社を置く株式会社パンフォーユー。全国各地の手作りパンを独自の技術で冷凍し、自宅やオフィスに届けるサービスが注目を浴びている。「パンのサブスク」というアイデアはどのようにして生まれたのか。代表取締役の矢野健太氏に、起業のきっかけや今後の展望をうかがった。
魅力ある仕事を地方都市に――「食」の領域で見つけた可能性
ーー創業に至るまで、どのような経緯があったのでしょうか。
矢野健太:
「地元に貢献したい」という思いから株式会社電通を退職し、教育系ベンチャーを経て、群馬県のNPOで働く機会を得ました。独立を前提にしていなかったのですが、キャリア形成のメンターと話し合い、企業に属さずに起業する道を選んだ次第です。
都会と地方の機会格差・賃金格差を縮めるためには、地方にもっと魅力的な仕事があるべきだと考えました。可能性のある事業として「食」の領域に注目したところ、冷凍パンメーカー様と出会い、群馬にもおいしいパン屋さんがたくさんあると知ったのです。
一方で、東京の人気ベーカリーは店頭に行列ができてしまい、利用しにくいという問題があります。このような都会と地方のギャップを埋める事業にビジネスチャンスを感じました。そして、地方にある「町のパン屋さん」が世に知られるきっかけにもなると思ったのです。
「冷凍パンのサブスク事業」を軸に、町のパン屋を活気づける
ーー現在の事業内容を教えてください。
矢野健太:
冷凍技術やITを活用した複数のサービスを展開中です。個人宅にパンをお届けする定期便「パンスク」、社内カフェや福利厚生で楽しめるオフィス向けの「パンフォーユーオフィス」、ホテルやレストランに向けた業務用サービス「パンフォーユーBiz」、さらに「全国パン共通券」という電子チケット販売も行っています。
自社開発サービスの「パンフォーユーモット」は、弊社とのお取引に特化した発注管理システムです。パン屋さんがパン作りに集中できるように、発送スケジュールの管理や伝票作成、出荷作業などを効率化するシステムを提供しています。
ーー事業の強みについてお聞かせください。
矢野健太:
「魅力のある仕事を地方にも作る」という創業時の思いは変わらず、事業を進める中で新たなミッションを見つけました。パンの需要は増しているのに、パン屋さんの数が減っていることがわかったのです。パン店減少の理由としては、店舗ビジネスゆえに売上が不安定であったり、人手が不足したり、原料や光熱費が高騰していることなどが挙げられます。全体の事業を通じて、「生活動線上にパン屋がない」「法人もパンを仕入れるのが難しい」といった課題の解決に取り組んでいます。
パン屋さんからは「自分が作ったパンを遠方に住む方に食べてもらえるとは」という喜びの声をいただきます。販路を広げるという意味で、今までなかった世界をこれからも広げていきたいと考えています。サブスクリプション方式であることから受注も計画的で、作ったパンを確実に売上につなげられます。フードロスの削減にも貢献できていると思います。
「おいしいパンを取り寄せたい」という声に応える海外展開
ーー今後に関して、どのような考えをお持ちでしょうか。
矢野健太:
パンの定期便は、オフィスで手軽においしいパンを食べられるサービスとしてスタートしました。コロナ禍が落ち着いてからは出社する人が増えたほか、「福利厚生を手厚くしたい」という企業様も増え、ニーズがかなり高まっています。今後はより多くの方に楽しんでいただけるように、サービスの認知度アップや販売経路の増加に取り組んでいきます。
さらに、個人宅向けに展開している「パンスク」を通して、ギフト需要があることもわかりました。親御さんにパンを送るために登録しているお客様もいるため、「誰かにプレゼントできる」という点で楽しみを広げられればと思います。また、現在は基本的に、さまざまなパン屋さんのパンをランダムに送っているのですが、パン屋さんを自分で選べるサービスも検討中です。
ーー海外にも展開していくのでしょうか?
矢野健太:
海外でも趣向を凝らしたパン屋さんが増えているので、お取り寄せのニーズが増えるのではないかと考えています。輸出需要が伸びているウイスキーやケーキのように、高品質でおいしい日本のパンも後に続く形で展開できるのではないでしょうか。2024年6月にサービス展開したシンガポールを皮切りに、いずれは世界中で利用されるサービスになればと思います。
ベーカリーの仕事にさらなるDXを
ーー企業に関わる方や未来の仲間に向けてメッセージをお願いします。
矢野健太:
消費者の方がおいしいパンを食べたいと思った時に、想起してもらえるような会社にしたいと思っています。パン屋さんに対しては、お困りごとがあったら頼っていただける存在を目指して今後の5年、10年を歩んでいきたいですね。仕入れや人材採用など、店舗運営における業務をIT化して、「簡単な作業」にするシステムも提供したいと考えています。
パンという商材は親しみやすく、パン屋さんと向き合うことで社会貢献できるのが私たちの仕事です。一人ひとりのやるべきことが幅広いので、食の分野や社会性の高い事業に関心のある方・将来的に起業したい方は、ぜひ弊社の門を叩いてください。
編集後記
大手広告代理店でキャリアを積む未来を断ち、故郷で事業を起こした矢野社長。一世一代のチャレンジを恐れない人物だからこそ、「職人の世界」であるパン業界の常識をポジティブに打ち壊せたのだろう。パンフォーユーが生み出したパン経済圏が広がり続け、日本のおいしいパンが世界中で楽しまれる未来も遠くないはずだ。
矢野健太/1989年生まれ、群馬県出身。京都大学経済学部を卒業後、2011年に株式会社電通へ入社。教育系ベンチャーを経て、地元・群馬の桐生市のNPO法人にUターン転職。地方に貢献できるようなビジネスに注目し、2017年に株式会社パンフォーユーを設立し、代表取締役に就任。