※本ページ内の情報は2024年8月時点のものです。

1919年に呉服問屋として創業した大磯産業株式会社。時代の流れを読みながら商材や販売場所を変え、現在は海外ファッションアイテムの輸入代理業を軸としている。代表取締役社長の大磯隆重氏に、会社の歴史や就任の経緯、経営術についてうかがった。

呉服問屋として生まれた会社で、顧客に愛されるアパレルビジネスをスタート

ーー貴社の歴史をお聞かせください。

大磯隆重:
1919年から呉服を中心とした問屋業で成長し、私で3代目となります。2代目の父がミセス向けのアパレル事業を始めて、昭和30年代に会社を大きくしました。百貨店とのお取引で成長しましたが、業界が縮小していく将来を見越して、呉服業はきれいに閉める形となりました。私の代で海外ファッションの輸入代理業にシフトし、現在に至ります。

ーーファッションに関する興味は、いつ頃からあったのでしょうか。

大磯隆重:
小学生の頃から、お年玉で自分の洋服を買うほど、ファッションが好きでしたね。アルバイトしていた洋服店で実績を積んだことをきっかけに、アパレル企業から1つのブランドを任され、21歳で販売代行を含むビジネスを始めました。5坪の小さいお店でしたが、約3,000名の顧客を抱え、売上は年間で2億円に達しました。

しかし、ブランドのターゲットが百貨店からファッションモールに移行し、単価の変動によってビジネスが成り立たなくなりました。初めての事業は約5年で撤退しています。

ーーどのように多くの顧客を得たのでしょうか?

大磯隆重:
たとえば1,600円の靴下を売るためには、それに合うネクタイなどを含むスーツ一式を並べます。お客様が好みそうなコーディネートをイメージしておくのです。お客様の気分が盛り上がれば、トータルで10万円の売上となります。私の接客を気に入ってくださる方がどんどん増えて、ご来店前にコーディネートの注文を受けるほどになりました。

アルバイト時代から、お客様の名前は覚えるようにしていました。また、黒色を希望されても茶色が似合う方には、1時間かけてでも茶色のアイテムをおすすめします。「実際に着たらみんなに褒められた」と喜んでもらったこともあり、ファッションアドバイザーとしても役に立っていたのではないでしょうか。

原点回帰を目指した新規ブランドの立ち上げ

ーー入社に至った経緯をお聞かせください。

大磯隆重:
26歳で事業を辞めてからは、ご縁があって、ニュージーランドの教会を日本レストランに改装するプロジェクトに携わりました。オーナーについていく形で渡航したのち、語学を学ぶために再び単身で滞在し、現地のビジネスパートナーと協力して車の輸出業も行いました。

1年半ほど経って帰国した際に、父から声をかけられ、大磯産業への入社を決めました。ただ、ビジネスにおいては先代と波長がなかなか合わないため、別会社を立ち上げて自分の経歴を生かせる仕事をしていきました。そして、インポートの代理店業はうまくいかなかったので、原点である買取100%のアパレル事業に力を入れていったのです。

ーーお取引先も大きく変化したのでしょうか。

大磯隆重:
1999年から約1年かけて、世界数ヶ国のブランドを調査しました。アメリカとベルギーで2人のデザイナーを見つけて、青山のスパイラルホールでファッションショーを開催したところ、300人もの業界関係者がお越しくださいました。海外の展示会では企業のトップたちと出会い、そこから大手セレクトショップに向けたビジネスを展開していったのです。

雑誌にも広告を打ってブランドを育てていく中で、スニーカーブームの火付け役は私たちだと思っています。高級スニーカーを百貨店に提案し、初めて契約を締結したのは弊社です。それからは、シーズンごとに4〜5社から、「新しいブランドを日本で売ってほしい」とオファーが来るポジションとなりました。

ブランドの力を信じた未来計画――異業界交流と直営店の拡大

ーー注力しているブランドや事業はありますか?

大磯隆重:
今はイタリア発のスニーカーブランド「D.A.T.E.(デイト)」と、やはりイタリアで誕生しているダウンジャケットをメインとした「CAPE HORN(ケープホーン)」という2ブランドが会社の軸になっています。いずれのブランドも品質の高さが強みで、有名ブランドに引けをとらないクオリティでありながら、価格帯はその半額程度のアイテムがそろっています。

人気YouTubeチャンネル「UUUM GOLF(ウームゴルフ)」の社長をはじめ、多くの出会いに恵まれたことから、スポーツの分野にも進出しています。アマチュアゴルフトーナメント「メルセデストロフィー」ではスポンサーとして、「CAPE HORN」のダウンジャケットを出場者の皆さまに提供しました。今までにないマーケットとのつながりを持てるため、今後もゴルフ事業によってブランドのポテンシャルを広げていきたいですね。

ーー今後のビジョンをお聞かせください。

大磯隆重:
「お客様第一」という考え方は昔から変わっていません。SNSを含めた媒体において商品の情報を発信しつつ、お客様から「ありがとう」「また買いたい」と言われるようなビジネスがしたいと思っています。各ブランドの信頼度を高める取り組みも進めていきます。

「CAPE HORN」は季節に合わせて百貨店にコーナーを持ち、「D.A.T.E.」はローマ・ミラノ・フィレンツェの店舗に加えて、来年には日本に出店できるよう交渉中です。

編集後記

人とのつながりを大切にしてきた大磯社長。百貨店や専門店にアパレル用品を卸していた商社から姿を変え、自らの情報発信拠点を持つことで各ブランドの価値を高めていった。「より多くのお客様を喜ばせたい」という思いが商材だけでなく出会いの幅を広げ、顧客満足度の高さにもつながっていったのだろう。大磯産業株式会社が新たなブランド展開や事業を通して今後、どのような世界を見せてくれるのか、期待が高まる。

大磯隆重/1964年、兵庫県生まれ。近畿大学を中退後、アパレルショップに勤務。1989年から約1年半、ニュージーランドで過ごす。1991年に大磯産業株式会社へ入社。2年後に別会社を設立し、Prisma(Max mara G)の直営店を運営。2017年、大磯産業株式会社の常務取締役に就任。2019年にT-square事業部を設立。2005年、代表取締役社長に就任。