※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

海外から輸入した切花を、国内の量販店、小売店、冠婚葬祭会社、花市場等へと届ける株式会社アグリーム。2020年には成田空港付近に500坪の冷蔵設備を有する1,700坪の物流加工センターを開設し、温度管理の徹底によって花の品質維持を実現している。花の品質と納期を重視した事業展開で、取引先からの信頼を着実に積み重ねてきた同社は、近年では国産の最高品質のバラのネット販売も手がけ、BtoB、BtoCの両軸で成長を続けている。花の魅力を最大限に引き出そうとする、代表取締役社長の須貝佳弘氏に事業への思いをうかがった。

新規事業への情熱が開いた、フラワービジネスへの扉

ーーフラワービジネスに携わることになったきっかけを教えてください。

須貝佳弘:
就職活動をしていたころ、商社で新事業を立ち上げたいと考えていました。そんな折、大学4年生のときに、入社が決まっていた大手商社の社名をTVドラマのエンドロールで見かけたのです。そのドラマは総合商社のOLがフラワービジネスを立ち上げるというもので、自分と重なり、とても印象に残りました。そのときに総合商社の仕事の幅の広さを改めて実感し、その会社で働くことがより一層楽しみになったことを覚えています。

入社後は営業経理という部署で働いていましたが、4年後に縁あってフラワービジネスを手がける部署に異動することになり、これが後に起業するきっかけとなりました。大手商社でフラワービジネスを担当していくうちに、どんどんその魅力に引き込まれていき、2009年に弊社設立に至ったのです。

品質へのこだわりが花の魅力を守り抜く

ーー貴社の事業内容を教えてください。

須貝佳弘:
弊社は主に切花の輸入卸を手がけています。国内のスーパー、ホームセンター、花市場、仲卸のほか、花束加工を行う会社や冠婚葬祭会社にも商品を提供しています。また、自社でも花束を加工してスーパー、ホームセンターに販売しています。2020年には、成田空港から車で約10分の場所に約500坪の冷蔵設備を設置し、花の鮮度を最大限長く保てるようにしました。また、輸入卸だけでなく、国内の取引先から注文をいただき、花市場から仕入をした国産の切花の卸売りも行っています。

最近では「MoaFura(モアフラ)」という国産の最高品質のバラの定期便サービスも始めました。これはコロナ禍での巣ごもり需要を受けてスタートしたものです。バラと旬の花をセットにした定期便コースもありますので、季節に応じてさまざまな花を楽しんでいただきたいですね。また、バラの花束のギフトも大変喜ばれたと、多数お声をいただいています。

ーー貴社の強みはどのようなものですか?

須貝佳弘:
品質へのこだわりは、どこにも負けない自信があります。海外から花を輸入する際の航空便の選定一つとっても、運賃だけでは判断しません。安い航空便を使うと到着が遅れたり、どこかで止まったりする可能性が高くなります。そういった不確実性は品質に大きく影響するため、確実に予定通り到着する便を選ぶようにしています。

また、空港に到着してから、成田の社員が花を倉庫に入れるまでの時間を極力短縮することにこだわって仕事をしています。たとえばスーパー向けの花束をつくっているお客さまは、弊社の納品のタイミングに合わせて作業を計画しています。そうしたお客さまに対して、品質の良い花を期日通りにお届けできる体制を整えていることも強みといえるでしょう。

ーー品質管理ではどのようなことに注力していますか?

須貝佳弘:
花の温度を一定に保つことを特に意識しています。花は非常にデリケートな商品で、環境の変化に弱い花は特に扱いが難しく、温度管理が極めて重要になります。生産者は収穫後に前処理として防腐剤や糖分が入った処理剤を使用し鮮度を保つ努力をしていますが、その後の温度変化でストレスを受けると日持ちが極端に悪くなってしまうのです。

生産者から直接届く場合は品質の維持が比較的容易ですが、途中で長く保管されていたり、環境が変化したりすると、どうしても品質に影響が出てしまいます。細かな管理の積み重ねが、最終的な品質の差になって現れてくるので、常に一定の温度帯を保ち、できるだけ早く移動させるようにしています。

シェアナンバーワンを目指し、双方が満足できる取引を追求

ーー今後の事業展開についてお聞かせください。

須貝佳弘:
現在取り扱っている品目はまだ限られているため、シェアには伸びしろがあると考えています。ただし、単純に取扱品目を増やすのではなく、まずは現在扱っている商品でナンバーワンの地位を確立することを目指しています。適正な利益を確保しながら品質の高いサービスを提供し続けることが重要です。

また、将来的には世の中に価値を還元できるような事業展開をしたいと考えています。今はまだ、そのイメージをはっきりと持ててはいませんが、社会により良い形で貢献していけるような未来を描いていきたいですね。

ーーどのような人材を求めていますか?

須貝佳弘:
お客さまの状況をしっかりと理解し、約束を果たせる人材を求めています。特に重要なのは、生産者とお客さまという、ときとして相反する立場の方々の橋渡しができる能力です。たとえば、生産者は高く売りたい、お客さまは安く買いたいという基本的な構造がありますが、それ以外にもさまざまな要望や課題が存在します。そういった状況の中で、両者の事情や状況を適切に把握し、双方が満足できるような提案ができる人材が理想です。

また、弊社は年間を通じて5回ほどの繁忙期があり、3月、母の日、お盆、お彼岸、年末は特に忙しくなります。そういった繁忙期を乗り越えたときの達成感は格別なものがありますし、お客さまからの信頼も着実に積み重なっていきます。ぜひ、そういったやりがいを一緒に感じられる方と働きたいですね。

編集後記

生産者から消費者へ、花が届くまでの過程は想像以上に繊細で緻密な作業の連続だった。市場価格や効率を追求するのではなく、一つひとつの花の特性を理解し、最適な環境を整える。そうした努力の先に、より多くの人々の暮らしを彩る花々があるのだろう。今回の取材で、綺麗な花を届けることの責任の重さと、それを全うしようとする同社の真摯な姿勢に深い感銘を受けた。

須貝佳弘/1968年、栃木県生まれ、早稲田大学卒業。1992年に日商岩井株式会社(現:双日株式会社)に入社。食料部門の営業部署の営業経理を担当した後、営業部門に異動し、園芸関連事業の事業部長に就任。17年間勤務した後、2009年に出向していた子会社から切花事業を買取り、株式会社アグリームを設立。代表取締役に就任。2018年、経済同友会入会、2019年、早稲田二十日会入会。