※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

高齢化や健康志向の上昇に伴い、近年ますます市場規模が拡大するヘルスケア業界。今回とり上げる株式会社ニデックは、その中でも「Eye & Health Care(目と健康ケア)」に関連する分野を事業領域とするニッチ企業だ。創業者である父親から同社を引き継いだ2代目社長の小澤素生氏に、社長就任のエピソードや現在の事業内容、今後の展望について聞いた。

父親の病を転機に事業を継承

ーー社長に就任した経緯についてお聞かせください。

小澤社長:
父親がニデックの創業者で、私は学生時代までは後を継ぐ気がまったくなく、就職したのも東京の印刷会社でした。でも、社会人になって3年ほど経った頃に父親から「戻ってきてくれ」と声をかけられ、1992年にニデックに入社することになりました。売上や社員数が現在の半分ほどの規模だった時代のことです。

その後、父親が海外で病気になって倒れたことがきっかけで、私は2005年に副社長に就任し、実質的に社長業を引き継ぐことになりました。フランスやアメリカ、イタリアの現地法人の社長を経て、2008年に本社の代表取締役社長に就任しました。社長に就任するまでに、少しだけ助走期間があったのはよかったと思っています。

当時は広範囲にわたって事業を展開しており、事業体系が煩雑化していた時期だったので、まずは事業整理を進め、体制を整えることに注力しました。

「目」を軸に広がる事業領域と、新たな挑戦

ーー事業内容について教えてください。

小澤社長:
現在は「Eye & Health Care」を事業領域として掲げ、「目」に特化した事業を展開しています。主な事業は眼科向けの医療機器、眼鏡店向けの機器・レンズや液晶部材などのコーティングの開発・製造・販売です。また、人工網膜システムや、eスポーツプレイヤー向けのゲーム用メガネなど、開発にも力を入れています。

人工網膜システム(開発中)
G-SQUARE「アイウェア」

特に、これから注力していこうとしているのが、ヘルスケア領域です。これまで眼科医療機器を提供してきた技術を応用して、目の検診を通して体の健康状態がわかるような商品を提供したいと考えています。高齢化が進み、健康産業はこれからも伸びる市場であることが予測できます。健康を増進するために、やるべきことは尽きません。世の中がどんどん変わっていく中で、時代の変化に合わせて多様なプロジェクトを走らせています。

ーー貴社で働く魅力は、どのような点にありますか。

小澤社長:
社員の話を聞くと「目の疾病で物が見えづらい人が、弊社の機器によって見えやすくなって喜んでおられる姿をみるとやりがいを感じる」という声が多い印象ですね。弊社は「見えないものを見えるようにしたい」「見えたものをより見えるようにしたい」と願って始まった会社なので、創業の精神が現場にも息づいているのは弊社の魅力であり、強みでもあると考えます。

そして、世界100カ国以上との取引があることも魅力のひとつかもしれません。そもそもがニッチな産業であるため、日本だけでは市場規模が小さすぎて、創業時から海外展開を前提に事業を構築してきました。

海外の眼科医から評価されたことで、日本の眼科医療現場でも製品を導入してもらえるようになり、国内で事業を拡大できるようになったという経緯もあります。ニッチだからこそ、自然にグローバルな視野で仕事ができるのは弊社ならではかもしれません。

測れなかったものを測れるようにする技術革新で、未来を切り拓く

ーー今後の展望についてお聞かせください。

小澤社長:
現在、策定している中期計画では、プロダクトアウトからマーケットインにシフトし、ソリューション型の企業になることを目指しています。「自分たちがつくりたいものをとにかくつくる」のではなく、お客様の困りごとを解決するような企業文化の醸成に取り組んでいます。

たとえば、医療機関や眼鏡店は人手不足に悩まされているという課題があります。視力検査ひとつにしてもまだまだ時間がかかる。目を見るだけで視力が測定できる商品を開発すれば、現場のオペレーションを簡便にすることができ、生産性を高めることもできます。

目にまつわる産業の省人化・自動化を進めることで、現場の課題解決に貢献したいと考えています。「こういうものが欲しかった」と喜んでいただけるような製品を開発するために、お客様の悩みを汲み取るような営業力の強化に取り組んでいます。

また、目とAIも親和性の高い領域です。デジタルの力を活用しながら、今まで測定できなかったものを測定できるようにすることを目指して技術革新に取り組んでいきたいと考えています。とはいえ、一時的な流行を追うだけではなく、弊社の事業軸である「目」に対して、真摯に向き合うことを変わらず大切にしていきたいですね。

編集後記

先代が培った創業時より、目に関わる事業に取り組んできた同社。一時は新たな領域に進出した時期もあったそうだが、小澤社長が創業の精神に立ち返って事業整理を行ったというエピソードが印象的だった。国内外でますます存在感を高めていくであろう同社の動向に、今後も注目していきたい。

小澤素生/1985年、名古屋大学工学部を卒業、1987年、米国ロチェスター大学大学院光学科修士課程を修了。東京の印刷会社勤務を経て、1992年、父親が創業した株式会社ニデックに入社。取締役ビジネス開発部長、常務取締役、代表取締役副社長、フランス・アメリカ・イタリアの現地法人取締役社長を歴任後、2008年に株式会社ニデックの代表取締役社長に就任。社外では一般社団法人日本眼科医療機器協会会長、蒲郡商工会議所会頭などを務める。