※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

石油ボイラーのメーカーとしてスタートし、商社機能を融合させた独自の事業モデルで成長を続ける長府工産株式会社。同社の井村隆社長は、「顧客ファースト」の経営哲学を掲げ、新たな挑戦を続けるリーダーだ。入社から現在に至るまでの道のりや、未来への展望についてうかがった。

知名度ほぼゼロで立ち上げた関東営業所で床暖房事業を軌道に

ーー井村社長の入社時のエピソードを教えてください。

井村隆:
大学卒業後に入社し、大阪や山口の勤務を経て、関東営業所の立ち上げメンバーとして関わりました。当時、会社全体が「新しいことに飢えている」ような空気があり、とくに先代社長が「日本一を目指す」という強い意志を社員全員に共有していました。その言葉に背中を押され、自分も「売れる市場を開拓する」という強い使命感を持って取り組みました。

ーー関東営業所の設立時は順調でしたか?

井村隆:
関東に行く前は「西日本の倍の売り上げも夢ではない」と楽観視していましたが、実際は苦労の連続でした。当時、関東では弊社の知名度が低かったので、「どこの会社?」と言われることがほとんどで、最初はなかなか商談につながりませんでした。しかし、私は元来、負けず嫌いな性格なので、「絶対に売ってみせる!」という意気込みで挑み続けました。

そんななか、大手ガス会社が販売している床暖房について、「売り上げがかなりいいらしい」との評判に注目しました。そこで製品価格や施工コストを徹底的に調べ、弊社の技術を使えば床暖房を設計から施工までセットでお手頃な価格で提供するプランを提案したのです。その結果、少しずつご依頼が増え始め、「床暖房なら長府工産が安心だ」という評判が広がっていきました。

BtoBの取引を通じて、いろんな企業からも「あそこの会社はいいらしい」という評価をいただき、売上が伸びていきました。床暖房の事業で得た設計スキルや図面作成のノウハウは、実は現在の太陽光発電事業にも役立っています。

結果として、この経験は、現在の事業基盤を築く大きな一歩となりました。今振り返ると、道具を選ばずに、とりあえず利益になるものから一生懸命取り組むという姿勢が、非常に重要だったと感じています。

営業の本部長として見出した「メーカー・商社」の強み

ーー営業本部長時代、どのような点を重視していましたか?

井村隆:
最も大事にしていたのは、競合に勝つための方法を徹底的に考え抜くことです。価格競争だけでは大手企業には勝てないと感じていました。そこで、「メーカー・商社」という言葉を生み出し、営業がワンストップで取引先企業のあらゆるニーズに応えられる体制をつくろうと思い立ったのです。

たとえば、弊社では現在、主要メーカーの太陽光発電システムを幅広く取り扱っているので、パネルを設置する屋根の形状やニーズによって、最適な提案が可能です。メーカーが営業すると、自社の製品を中心に販売する「メーカー優先」になりがちですが、私たちは太陽光発電の導入を検討される「お客さまファースト」での提案を徹底しています。この考え方が現在の弊社の根幹を支えています。

ーー現在、注力されている商品についてお聞かせください。

井村隆:
弊社では、「LiB Tower Plus」という製品の普及に力を入れています。これは、日中に太陽光発電で発電し、余った電気を貯めておける家庭用蓄電システムです。蓄電した電力は夜間に使ったり、電気自動車(EV)へ充電したりすることもできます。逆に災害時などにはEVから給電できるので、停電時のバックアップ電源としても安心です。

日々の暮らしだけでなく、災害時にも役立つという特徴は、弊社がお客さまファーストである以上、非常に大切な部分です。こうした製品を通じ、弊社は単なる販売業ではなく、お客さまの課題を解決するパートナーとしての役割を果たしています。

挑戦を続ける組織を構築することで500億円企業へ

ーー今後の成長戦略についてお聞かせください。

井村隆:
売上500億円を目標に掲げ、既存事業の拡大と新規事業の開拓に力を入れています。とくに再生可能エネルギーや災害対策の需要を背景に、新たな商材の導入を積極的に進めています。

新商材は、取引先から寄せられる「こんな商品があれば助かる」という声に応える形で生まれることが多々あります。現場の声を大切にし、それを商品開発に活かすことで、お客さまの期待を超える提案を実現しています。現場主導のイノベーションが、弊社の成長を支える大きな要素です。

そのため、私は50名以上の営業マンの日報を毎日チェックしています。弊社の成長を支えてきた根幹は新規営業です。新規営業が新たな事業を生むチャンスを見つける大切な役割だからこそ、現場の動向を常に知る経営者でありたいですね。

ーー最後に、井村社長が描く社会の実現について教えてください。

井村隆:
私は、弊社が提供する商材やサービスを通じて「エネルギー自給社会」の実現に貢献したいと思っています。各家庭が発電所となり、災害やエネルギー価格の変動にも強い仕組みを整えることで、安心して暮らせる社会を目指しながら、社員と一緒に成長し、持続可能な企業を築きます。

編集後記

井村社長のインタビューを通じて、「メーカー・商社」という概念を掲げ、顧客のために最適な提案を行う姿勢が印象的だった。価格競争ではなく、ワンストップでのサービス提供に注力した取り組みが、同社の成長を支えている。同社が描く「エネルギー自給社会」の実現に向けた挑戦が、未来をどのように変えていくのか注目したい。

井村隆/1977年、長府物産株式会社(現:長府工産株式会社)に入社し、営業部に配属。その後、山口県下関市本社の営業部で営業経験を積み、関東営業所や東北支店の開設に携わる。2008年、山口県下関市本社に異動し、常務取締役に就任。2015年には専務取締役営業本部長に就任。2024年4月、代表取締役に就任。