※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

株式会社リングスターは、創業130年以上の老舗工具箱メーカーだ。2020年にはアウトドア向けの商品を展開するブランド「Starke-R(スタークアール)」(※1)を立ち上げ、順調に売上を伸ばしている。

また、長崎県対馬市の海岸に流れ着いたポリタンクをリサイクルした製品を発売し、海洋ごみ問題にも積極的に取り組んでいる。

ものづくりへのこだわりや、新ブランドの立ち上げに対する思いなどについて、代表取締役社長の唐金吉弘氏に話をうかがった。

(※1)Starke-R(スタークアール)公式サイト

「ないならつくろう」頑丈なプラスチック製工具箱の誕生秘話

ーーこれまでの貴社の歩みをお聞かせください。

唐金吉弘:
もともと弊社は木製やスチール製の工具箱をつくっている町工場でした。それからプラスチック製の工具箱が開発されるようになると、アメリカから輸入して販売していました。

しかし、アメリカ製の工具箱は耐久性が低く、落とすと割れてしまうことが多かったのです。また、インチとセンチでサイズの違いが生じ、道具箱に道具が入らないという問題もありました。

こうなったら自分たちでつくるしかないと思い、父親とイチからプラスチック製の工具箱の製作に取りかかりました。

ーーこれまでにない製品づくりへのチャレンジに不安はなかったのですか。

唐金吉弘:
取引先と強い信頼関係があったので、良い商品さえつくれば絶対売れるという自信はありました。まずは鉛筆でデザイン画を書き、海外からあらゆる素材を集め、何度も試作を繰り返しました。

そうして完成したのが、車のバンパーの素材でつくった「SUPER BOX SR450」です。耐久性に優れた工具箱を開発したことで「プラスチック製の工具箱はすぐ壊れる」という常識を覆しました。

丈夫で長持ちする分、買い替える回数は減ってしまいます。ただ、私たちは商品が次々と売れることよりも、優れた商品をつくってみなさんに喜んでもらいたいという思いが強かったですね。

ーー開発にあたってどのようなことを意識しましたか。

唐金吉弘:
お客様の「こんなものがあったらいいのにな」という要望に応えるため、使いやすさをとことん追求しました。バケツやクーラーボックスをヒントに大きなハンドルを付け、開閉しやすいようバックルの構造にもこだわりました。

他社の商品をそのまま真似した方が楽ではあるのですが、真似をしている限りその商品を超えることはできないんですよね。そのため、いかに付加価値をつけられるかを常に意識しています。

環境保護に貢献する商品がお客様の理解を得る

写真右側:マーケティング室長 唐金 祐太 マーケティング室 篠田 玲羅

ーー貴社では海洋プラスチックごみを再利用した製品を発売していますね。ご子息の祐太様からこの提案を受けたときは、どう思いましたか。

唐金吉弘:
会社のイメージアップのためだけでなく、ビジネスとして成立させ、長く続けられなければ意味がありません。そこで息子には「リングスターの製品として出すからには、会社の歴史とお客様を裏切らないこと」と伝えました。

また、コストがかかる分、価格を高くせざるを得ず、お客様から理解を得られるかも不安でした。ただ、いざふたを開けてみると、予想に反してたくさんの方が我々のプロジェクトに賛同してくださったのです。

20代、30代の方々も商品を購入してくださり、若い世代の環境問題への意識の高さには驚かされました。

ーー製品化を成功させた主な要因は何ですか。

唐金吉弘:
明治20年の創業当時から137年間、「どうすれば職人が安心して使える強靭な工具箱を提供できるか」、そこに真摯に向き合って開発を続け、既存製品の構造上の強さを突き詰めてきたからです。

もともとの製品の耐久力がずば抜けていたからこそ、海洋プラスチックごみを使用していても長く使える製品を作ることができました。

ーーその他に自信を持って売り出したい商品はありますか。

唐金吉弘:
「SPEEDY BOX(スピーディーボックス)」(※2)の売上をさらに伸ばしていきたいと思っています。この商品は「SUPER BOX(スーパーボックス)」(※3)や「DOCUTTE(ドカット)」(※4)と比べ、お客様の認知度は低いのが現状です。

バックルを1回でロックできるのですが、簡単に外れてしまうのではないかという先入観を持たれてしまうんですよ。もちろんきちんと計算して設計しているため、安心してお使いいただけます。

また、他の商品と同様にフタを半開きにでき、スライドさせると全開にできるのもポイントです。さらに、フタを閉めたときに自動でロックされるため、閉め忘れも防止できます。

このように他にはない便利な機能を搭載している商品なので、もっと多くの方に使っていただきたいですね。

SPEEDY BOX(スピーディーボックス)

(※2)SPEEDY BOX(スピーディーボックス)公式サイト

(※3)SUPER BOX(スーパーボックス)公式サイト

(※4)DOCUTTE(ドカット)公式サイト


新たな顧客の獲得につながったアウトドア商品の戦略

ーーアウトドア向けのブランド「Starke-R(スタークアール)」の立ち上げは、貴社にとって大きな変化でしたね。

唐金吉弘:
このブランドを立ち上げたのがきっかけで、一般の方の認知度が上がりましたね。これまで弊社の主なお客様は、普段から工具箱を使われる専門業者の方がほとんどだったため、その売上が減ってしまうと、業績悪化に直結することを危惧していたのです。

そもそも工具箱は市場が小さいため、購入者層を増やしていかなければ、売上が先細りすることは予想していました。

そこでピラミッド図でいうところの、先端部分をコロナ前から趣味でキャンプをされていたようなコア層、土台の部分はキャンプを始めたての層と考え、コア層の方々に使ってもらえるブランドをつくりたいと考えていました。

こうしてアウトドア向け商品の準備を整えたタイミングで、新型コロナウイルスが蔓延したのです。コロナ禍で工具箱の売上は落ちたものの、キャンプブームのおかげで売上は一気に伸びました。

その結果、弊社はコロナ禍でも業績の低迷をまぬがれることができました。

ーー貴社が目指す会社の今後の姿をお教えください。

唐金吉弘:
「80%くらいの力が出せればいいや」と思っていると、実際には50%くらいにしかならないんですよ。つまり100%の実力を発揮するためには、130%の熱量で仕事に取り組まなければいけません。

そのためには私たちが、社員たちに仕事を好きになってもらう職場にしなければいけないと思っています。社員が定年を迎えたときに「この会社で働けてよかった」と言ってもらえるよう、私も努力していきます。

また、自分の親が楽しそうに働く姿を見て、子どもたちが入社してきてくれる、そんな会社にしていきたいですね。

編集後記

絶えずお客様の声を聞き、使い勝手の良さにこだわってきたという唐金社長。インタビュー中には商品を使って機能へのこだわりについて熱く語ってくださり、自社商品への愛を強く感じた品質の高さを追求し、新たな進化を続ける株式会社リングスターは、今後も活躍の場を広げていくだろう。

唐金吉弘/1963年生まれ。1982年に株式会社リングスターに入社し、プラスチック工具箱の市場拡大に大きく貢献。2009年に代表取締役社長に就任。2017年に城東税務署より優良申告法人として表敬。2023年に、生駒市民憲章として表彰された。現在は長崎県対馬市に漂着した海洋プラスチックゴミを配合した工具箱を販売し、啓発活動なども行っている。