充電式のEV車や自動運転機能の搭載など、昨今の自動車業界は大きな変革期を迎えている。そんな中、遮音性や吸音性に優れた自動車部品を提供し、心地良い空間づくりを支えているのが、株式会社ヒロタニだ。
社長就任当時に味わった挫折や、「明るく楽しく。そして挑戦。」を掲げる同社の職場づくりに対する思い、プロフェッショナルな人材を育てる秘訣などについて、取締役社長の廣谷清氏にうかがった。
社長就任後に廃業に追い込まれた苦い経験
ーーまず社会人になってから家業に入り、社長に就任するまでの流れを教えてください。
廣谷清:
幼稚園児の頃から「父親の跡を継ぐ」という意思を明確に持ち、社長になることを意識していました。当時は父親がベニヤ板などの建材の販売事業をしていたため、お世話になっていた仕入れ先で3年間修行させてもらいました。
それから社長に就任したものの時代の流れで経営が傾き、建材事業を畳むことになってしまいました。当時を振り返ると、あまりいい経営ではなかったと感じます。
その後、会社を清算するのに数年かかり、資金繰りにも苦労しました。プライベートでは結婚したばかりで、仕事が上手くいかないことに焦りを感じていました。ただ今思えば、当時の挫折から多くの学びを得たので、良い経験になったと思っています。
ヒロタニを支えた自動車部品事業。明るく楽しい職場を目指すようになった気付き
ーー転機となったタイミングについて教えてください。
廣谷清:
建材会社を清算した後、エンジン音を遮音・吸音するダッシュインシュレーターを製造する今の会社の社長に就任しました。それから自社の製品が自動車メーカーのマツダ様で採用され、一気に売上を伸ばすことができました。
その結果、これまで積み重なった累積損失をすべて解消できました。こうしてようやく赤字から脱却でき、自動車業界で再出発を図ろうと士気が高まりました。
ーー貴社のビジョンにもある「明るく楽しい職場づくり」を始められたきっかけは何だったのですか。
廣谷清:
経営が上手くいかず塞ぎ込んでいた時期は、社内の雰囲気もどんよりしていました。社内の雰囲気が悪いと、自然と同じような波長の人間が集まってきますよね。
しかし、業績が上向いてからは自然と明るい人が集まるようになり、会社の雰囲気がガラッと変わったのです。このことに気付いてから「まずは会社のトップである自分が明るくならないとだめだ」と思うようになりました。そのため自分から社員に声をかけ、積極的にコミュニケーションをとるようにしました。
社長業は会社の資金繰りやクレーム対応も重要です。しかしそれよりも、職場づくりや会社づくりが社長の一番の仕事だと思っています。明るく楽しい職場には良いエネルギーが生まれ、成功を目指してチャレンジする精神も芽生えると考えています。
社員教育で重視しているのは、直接見て触れて感じるリアルな経験を積ませること
ーー貴社の強みについて教えてください。
廣谷清:
チームワークの良さが最大の強みです。一緒に食事をしたり野球の試合観戦をしたりするなど、普段からコミュニケーションを深めています。楽しいことはみんなで共有したいので、野球の試合観戦は3回に分け、社員およそ300人全員が参加しています。
楽しい時間を共有することで、社員同士のチームワークが強まり、普段の仕事にも活きていると思います。信頼関係を構築し、目標に向かって一致団結できる点が強みにもなっているといえるでしょう。
ーー経営者として大切にしている考えはありますか。
廣谷清:
専門分野の知識や経験のある人間を信頼し、任せるようにしています。そのため「視察に行きたい」「新しい設備を導入したい」などの提案は、たいてい許可しています。現場のことは現場の人間が一番よくわかるので、できるだけ社員の意見を尊重したいと思っています。
ーーそうしたプロフェッショナルな人材を育てるために取り組んでいることを教えてください。
廣谷清:
社員には自分の目で見て触れて、できるだけたくさん経験を積んできてもらうことを大切にしています。これは「行きたいところに行って、どんどん見聞を広めてきなさい」という父の教えが基になっています。
海外出張の際は「急いで帰国しなくていいから、1日2日は自由に過ごしなさい」と伝えていますね。私自身も隔年で行われるスイスのカンファレンスに出席した後は、社員と一緒に周辺の国へ足を伸ばし、買い物や食事を楽しんでいます。
国内の場合も同様に、見本市などへ出向き、実際に製品を自分の目で見てくるよう伝えています。「そんなことをしても無駄だ」「効率的ではない」と思う方もいるかもしれません。しかし私は、自分自身が経験した体験は、将来必ず役に立つと思っています。自分の足で稼いで経験を積んできた人間とそうでない人間では、大きな差が生まれるでしょう。
取引先の開拓と社員の個性を大切にする組織づくり
ーー今後の事業展開について、どのようなビジョンをお持ちでしょうか。
廣谷清:
弊社のキーワードは「音・美・熱」です。雑音をシャットアウトし、上質な質感と美しさにこだわり、快適な温度を保つ。これによりユーザー様に快適な移動空間を提供していきたいです。なお、現在大手自動車メーカー2社とお取引させていただいていますが、他の自動車メーカーさんなどとも取引ができればと思っています。
ーー組織づくりに関しての思いをお聞かせください。
廣谷清:
弊社では派遣社員から正社員になったケースもあり、さまざまなキャリアを積んできた個性豊かな人材が集まっているのが特徴です。また、人口が減少していく日本では、海外から次々と人が流入し、人種の多様化が進むと予想されます。
今後もそれぞれの個性を尊重し、お互いの良いところを高め合い、組織の成長につなげたいと考えています。現在新卒と中途採用の両方に力を入れているので、明るく楽しい職場でやりがいのある仕事がしたいという方にぜひ集まってほしいですね。
編集後記
実際に現地に行き、直接見て触れて感じる体験をさせることを大切にしている廣谷社長。こうして各自で学びを得て、自分の意見を持てる人材に育てることが、成長し続ける組織を形成するのには不可欠なのだと感じた。仕事を楽しみながらチャレンジを続ける株式会社ヒロタニの展望が楽しみでならない。
廣谷清/1957年生まれ、広島修道大学短期大学部卒業。1980年に株式会社ヒロタニに入社。同年7月に取締役に就任。就任後、仕入れ先へ3年間出向し、経営手法等を学ぶ。1987年1月に専務取締役に就任。同年12月に取締役社長に就任。