※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

創業97年目を迎える岡本硝子株式会社は、プロジェクター用反射鏡・フライアイレンズ・歯科用デンタルミラーの3部門で世界シェアNo.1を誇る特殊ガラスメーカーである。同社はガラスを材料の段階から開発できる技術や、お椀型や深型、筒型形状など、さまざまな形の立体物にナノメートル単位で薄膜を均一に、または意図的に不均一につけられる技術を強みとしている。

今回、代表取締役会長兼CEOの岡本毅氏を取材し、世界にも通用する同社の強さの理由に迫った。

大学卒業後は警察庁へ。社長就任後は「ナンバーワン探し」を通して上場を目指す

ーー社長就任までの経歴を教えてください。

岡本毅:
ウチは男が一人なので、将来は父の会社である岡本硝子を継ぐのだろうと思っていました。大学卒業後に警察庁に入庁したのは、将来ビジネスの世界に行くことが決まっているのであれば、ビジネスとは関係ない「天下国家のために働く仕事」を経験したかったからです。

警察庁には16年間勤めましたが、その後、父が事故で急逝したことをきっかけに退職。岡本硝子へ入社し、社長に就任しました。就任当初は、社員や職人に気持ちよく働いてもらうための環境づくりに注力しましたね。

また、警察庁という異業種からガラス屋の社長になり、ガラスのことが何も分からない状況だったため、最初の頃は「今の自分にできることは掃除しかない」という思いもありました。そのため入社当初は、元旦とお盆の1日を除いて、363日出社して現場の掃除をしていた記憶があります。

ーー2003年にジャスダック上場したときのことも聞かせてください。

岡本毅:
上場を目指したときに始めたのが、「ナンバーワン探し」です。当時から弊社は、口元を照らす歯科用デンタルミラーで、すでに世界1位のシェアをとっていました。そういった別のナンバーワンをとれる分野を見つけるところから始めました。

ナンバーワンの製品を手がけていることを社員に伝えることで、社員たちの誇りにもなりますし、また外部から資金を調達する際のアピールにもなるとも思ったからです。

ガラスと薄膜の精密な成形を通して、大手企業ではできない特殊ガラスを製造

ーー改めて、どのような事業を手がけていますか。

岡本毅:
弊社はガラスと、ガラスにつける薄膜の製造販売を行っています。強みは3つあり、1つ目はガラスを材料の段階から製造できること。2つ目は開発したガラスを精密に成型できること。3つ目はガラスの表面にナノメーターレベルの薄膜をつけられることです。

また、他社では難しい特殊ガラスも扱っています。ガラスはもともと耐熱性が強い固体ですが、弊社の特殊ガラスは通常のガラスよりさらに耐熱性が強いのが特徴です。他社では製造が難しいガラスを弊社がつくれるのは、97年という長い歴史に裏打ちされた秘伝のノウハウがあるからです。

ーー貴社の製品や技術について詳しく教えてください。

岡本毅:
分かりやすい製品でいうと、弊社の歯科用デンタルミラーは、特殊な膜をつけることで人体に有害な熱線を反射させず、可視光だけが反射するように設計されているのが特徴です。また、口元だけを適切に照らせる技術も採用しています。

さらに、弊社は色温度と演色性にこだわった製品開発を実現しているのも特徴です。たとえばデパートで服を買ったとき、外に出て太陽の下でその服を見てみたら、買ったときと色が違って見えたという経験をしたことがある人もいるかもしれません。

これは照明の環境が異なることによって、光の色合いを表す「色温度」や、色の見え方を表す「演色性」などが変わり、色の見え方が変わってしまう現象なのですが、弊社ではガラスにつける薄膜によってこの色温度と演色性を上手くコントロールし、色味を補正しています。

今後のテーマは営業力の強化。自分で課題設定できる人材を採用していきたい

ーー今後の展望を聞かせてください。

岡本毅:
弊社は技術力が高く、非常に良い物をつくることができる自負があります。

しかし、これからアプローチを強化したいと考えている日本の自動車業界の企業は、実績の多い大企業との取引を好む傾向にあり、弊社のような、まだそこまで規模が大きくない会社は、商品を採用してもらうまでに長い年数がかかってしまっているのが現状です。

営業力にはまだ足りないところも多いので、今後は営業マンを増やすなど、営業力を強化することに努めたいと思っています。

また、採用に関しては、自分自身の中長期的なテーマが常に頭の片隅にあって、仕事に対して熱意をもって取り組んでくれる方の採用に力を入れたいと思っています。自分で課題設定できる人材が来てくれると嬉しいですね。

編集後記

岡本会長の言葉からは、マーケティング力や資金力ではなく、技術力を第一に世界で戦ってきた老舗のメーカーとしての自負が感じられた。同社の製品はすでに世界中で使われているが、営業力を強化することで、さらに使途が広がれば、さらに社会に貢献できるだろう。妥協しない姿勢で、日本のものづくりをこれからも引っ張っていってほしい。

岡本毅/1955年、東京都生まれ。1980年、東京大学法学部卒業後、警察庁に入庁。1995年、先代の父・岡本勲氏に代わり、埼玉県警刑事部長を最後に退官。岡本硝子株式会社に入社し、同年、代表取締役社長に就任。