「HKS」といえば、クルマ好きにおなじみの自動車用チューニングパーツメーカーだ。1973年の創業以来、自社開発からOEMまで手掛けて数多くの製品を生み出してきた。優れた開発技術を活かし、現在はIoTやサステナブルの分野にも進出している。代表取締役社長の水口大輔氏に、就任までの経緯や詳しい事業内容をうかがった。
クルマ好きのエンジニアから大手企業のリーダーへ
ーー社長就任までの経緯をお聞かせください。
水口大輔:
当時はスーパーカーブームだったこともあり、小さい頃からクルマが大好きでした。プラモデル作りも得意で、成績が一番良かった科目は図画工作です。大学は機械系に入り、エンジンをバラして組み直すといったクルマのカスタマイズを楽しんでいました。乗ること以上にカスタマイズが好きだったので、就職活動ではチューニングパーツメーカーの「HKS」を志望したのです。
面接では先代の社長に質問を受けるがまま「ご飯を食べるのが早いです」「勉強は機構学(メカニズム論)が好きです」と話していたら、すぐに合格をいただいて驚きました。入社後はHKSがやってきた開発を一通り経験させてもらいました。
「ゆくゆくは社長を継がせたい」と私に告げた半年後に、先代は急逝してしまいました。私としてはエンジニアであり続けたかった気持ちもありましたが、先代の思いを継ぐ決意をし、社長に就任しました。
ーー組織のリーダーとして大切にしていることは何でしょうか?
水口大輔:
2012年に取締役となったときに、改めて自分ひとりではできないことの多さに気付きました。プロジェクトに取り組むチームをまとめるにあたって、「人を動かす」というよりも「まずは、自分がやっている姿を見せる」というのが私の答えです。最初に自分が動くことで周囲の協力を得やすくなるのだと学びました。カリスマ経営者によるトップダウンだった社風が少し変わり、みんなで話し合う機会が増えたと思います。
自動車・IoT事業におけるビジネスモデルと社会的インパクト
ーー事業内容を教えてください。
水口大輔:
アフターマーケットと呼ばれるチューニング事業は、弊社のビジネスボリュームで4分の3程度を占めています。
残りの4分の1はOEM事業で、自動車メーカー・部品メーカーとの共同開発や製造受託が多く、今まではエンジンや制御システムの開発、マフラー等の部品製造が主でしたが、クラウドに保存したドライブレコーダーの映像や車両の運転挙動をスマホで見られるIoT事業を始めたところ、保険会社など多くの企業様に採用していただきました。
その他のIoT事業では幼稚園バスの子ども置き去り防止システムなど、社会課題の解決にもフォーカスしています。アルコール洗浄液のポンプを押すと、お店の自動ドアが解除される振動検知デバイスも開発しました。コロナ禍では自宅でできる趣味に没頭する人が増え、カスタマイズ分野の業績が世界的に向上したと思います。
ーー直近の取り組みにはどういったものがありますか。
水口大輔:
ガソリンエンジンの代替として、環境にやさしい天然ガス燃料や、水素などのカーボンニュートラル燃料用エンジンの研究開発を行っていますが、電動化にも向き合う中で、交換式バッテリーパックやエンジン車を電気自動車に改造する「EVコンバージョンシステム」の開発にも注力しています。
チューニングの世界では、二酸化炭素が出ないモーターでオールドカーを動かす人も増えつつあります。カスタマイズとサステナブルを掛け合わせれば、どんなクルマも環境にやさしくなれるのです。
ーー国内外のマーケットに変化はありますか?
水口大輔:
人口が減る一方で顧客単価は上がり、日本国内の売上は成長しています。弊社が開発に携わった自動車ディーラー限定車など、操作系や駆動系にこだわったパッケージングを購入した方がチューニングにさらに興味を持ち、HKS製品が揃うパフォーマンスディーラー(HKS推奨店)にお越しになることもあります。エントリー(初心者)層に認知してもらうことで、カスタマイズ層の構築につながっているのです。
海外においては国内以上に市場の成長が見込まれる中、現在ターゲットにしているのは海外の富裕層の方々です。HKSのパーツが好きな方が世界中にいらっしゃるので、取り扱い店舗は海外にも約500軒あります。日本車はもちろん、世界中のクルマ好きの方々にHKSブランドを訴求するために欧州車など、日本車以外のチューニングも始めました。
いろいろな「クルマ好き」が集まる職場――現場で学ばせる人材育成論
ーー貴社で活躍できるのはどんな人材でしょうか?
水口大輔:
社内にはコアなカスタマイズ好きだけでなく、クルマを見ることが大好きなメンバーもいます。入社してからも学んでいけるため、パーツに詳しくなくても大歓迎です。「クルマが好き」ということが何より大事ですので、いろいろな「好き」を持つ方に来ていただければと思います。
人材育成においては、弊社のノウハウを次世代に伝えるべく、ベテラン社員とともに動画マニュアルを制作するなどDXを取り入れながら進めています。毎月開く社内セミナーにはベテラン社員が登壇するほか、年に2回ほど自動車メーカーの開発者など社外から有識者を特別講師としてお招きしています。
また、弊社で行っているモータースポーツ活動のなかで、ダートトライアルという競技にもチャレンジしています。現地に行きたい新入社員や若手メンバーを募り、クルマについて学ぶだけでなくモータースポーツの緊張した雰囲気を味わうことができ、人材育成に役立っています。
編集後記
クルマへの愛があれば未経験者も大歓迎だと語った水口社長。開発の現場では、モータースポーツのレース前のように「ヴォンヴォン」とエンジン音が鳴り響く。HKSにはそれだけで気持ちが高ぶり、仕事に熱が入る社員が集まっている。彼らの思いにクルマ好きが共鳴するからこそ、国内外でHKSブランドが愛され続けているのだろう。
水口大輔/1969年生まれ。1993年に株式会社エッチ・ケー・エスに入社。商品開発部門、モータースポーツ部門、HKS USAへの出向、ガスエンジン開発部門などを経て、2012年に取締役となり受託開発部門を統括。2016年より代表取締役社長に就任。株式会社エッチ・ケー・エス テクニカルファクトリー代表取締役社長、日生工業株式会社代表取締役社長を兼任。