※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

火災報知設備の開発、生産者として1954年に設立されたニッタン株式会社。「お客様の大切な生命・財産を火災からお守りする」を理念とする同社は、その時代において、最新式の火災警報器や煙感知器を世に送り続けてきた防災のスペシャリストだ。

最近でも国内初の次世代型防災システム「B Catch Now」や「Artiedge(アルテッジ)」を矢継ぎ早にリリースし、業界内でのイニシアティブを取り続けている。そんな同社の代表取締役社長、沖昌徳氏に話をうかがった。

出向した子会社を知るため見習いで現場を体感

ーー親会社のセコム社に入社した動機とご経歴を教えてください。

沖昌徳:
安全を確保して世の中を快適にするという、理念のしっかりした会社だと思い、大学卒業後に新卒で入社しました。創業者の功績からみて「予想もつかないほど成長するのでは」と将来性に期待していましたね。

入社後は大阪で夜勤の警備員として現場経験を積み、その後は東京に異動して人材教育、営業、広報を経て企画部に在籍しました。そして2012年にグループ入りしたニッタン社へ、経営企画室長として出向することになりました。

ーー子会社となった貴社に出向した際、どのような経験をしましたか。

沖昌徳:
風変りなエピソードとしては、ニッタン入社後、施工現場を経験したことですね。経営企画室は中長期的な戦略立案に携わるため、社内全体を把握することが必要です。セコムでは現場の事情もよく分かっていましたが、防災という異業種の弊社のことは実態がよくつかめていませんでした。

そのため現場からスタートしなおそうと、入社して1年後に「見習い作業員」として現場経験を積むことにしました。

1ヵ月間、現場の仲間と一緒に汗をかいて分かったことは、弊社には実直でフレンドリーな社員が多いということです。ニッタン社への愛着が湧いたのはもちろん、施工現場から会社を立体的に理解できたことはとてもいい収穫でした。

ーー社長に就任して取り組んだことはなんでしょうか。

沖昌徳:
社長就任決定から就任するまでの期間には、就任日を初日とした100日プランを作成しました。そのプランの中で、中期3ヵ年計画として2021年度から2023年度までに取り組むべき施策をリストアップしてまとめました。

また、とりわけ顕著な取り組みは業績の回復です。社長に就任した当時はコロナショックの渦中であり、業績は過去10年で最低の利益でした。

会社の業績は内部要因と外部環境を掛け合わせた結果です。内部をしっかり構築すれば、外部要因が好転した時に業績は回復すると社内で訴え続けてきました。

そのために中計の分科会を通じてPDCA(計画、実行、評価、改善)を実践するなどの取り組みを行ってきました。その結果、業績はV字回復を遂げ、2023年には過去最高の売り上げと利益を達成し、2024年度はそれらを更新できたのは幸いです。

新開発のソリューションサービスが事業領域を広げる

ーー商品開発をはじめとした貴社の強みを教えてください。

沖昌徳:
私たちの強みは「技術のニッタン」と称されるほどの開発力の高さです。持ち前のノウハウを駆使した自動火災報知設備や消火設備などの技術開発、設備設計、販売、施工、保守を一貫して担い、総務大臣認定や消防庁長官賞の受賞など、各方面から高い評価をいただいています。

また、営業部署と現場、管理など部門間の距離が近いことも1つのアドバンテージです。コミュニケーションを取りやすい分、意思の疎通と決定が早いので、新しいアイデアが素早く形になりやすいというメリットがあります。そのことは現在力を入れるソリューション型の新商品・技術の開発にもつながっています。

ーー具体的なソリューション型商品をご紹介ください。

沖昌徳:
2020年にリリースした画期的なシステムが「B Catch Now」です。これは火災や地震が起こった際、建物から逃げ遅れる人を減らす目的で開発しました。これを使えば「人や物の位置情報」だけでなく、「火災の位置情報」をスマートフォンでリアルタイムに確認することができます。

また2024年に発売した「Artiedge(アルテッジ)」シリーズにも注目いただきたいですね。「ArtiedgeⅡ」は、既存の床の上に敷設して使用する床材で、散布されたガソリンを素早く床材の下に閉じ込めることで、燃焼するガソリンの量を大幅に削減して火災の勢いを抑制することができます。また、水素炎検知器の「ArtiedgeⅢ」は、人間の目に見えない水素の炎を感知して警報を出す装置です。

こうした製品は、さまざまな産業用途で利用価値を高め、これまでの事業領域をさらに拡張する役目を果たしています。

1人のカリスマより社員全体の底上げを図っていく

ーー目指す組織体制について教えてください。

沖昌徳:
私が理想とするのはカリスマ経営者に頼る組織ではありません。企業が成長するためには、社員一人ひとりが自立し、互いを頼り合う風土や体制をつくるべきでしょう。

そして経営陣は、その体制をコーディネートすることが役割なので、幹部の育成にも取り組んでいく方針です。

ーー今後の中長期的な展望をおうかがいします。

沖昌徳:
業績はここ4年ほど連続で増収増益を続けていますが、近い将来、日本は人口減で建築物の新築が抑えられるため、減少分を補うための新たな事業計画が必要となるでしょう。

そうした背景を踏まえ、危機感を持って既存事業のリニューアル、新事業・技術開発に向けた社内体制の強化に着手していきます。

編集後記

沖社長は若年層へのアドバイスとして「思い立ったらすぐにチャレンジし、早いうちに失敗したほうがいいでしょう。“小さく早くはっきり”失敗すれば、その後に修正しやすいからです」と語っている。

既存事業から脱却してビジネスモデルの刷新を目指すニッタン社は、何事も恐れずにチャレンジする意欲と新しいアイデアを生みだす人材を求めている。

沖昌徳/1965年、島根県生まれ。山口大学経済学部を卒業後、セコム株式会社に入社。2012年、セコム子会社のニッタン株式会社に経営企画室長として出向。2014年に取締役、2016年に常務取締役就任。2020年10月、代表取締役社長に就任。