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ティアック株式会社は、創業71年を迎えるオーディオ機器の製造販売会社だ。2005年に大幅な赤字を出しながらも再建を果たし、高品質な製品をグローバル展開している。2006年に同社の代表取締役社長に就任した英裕治氏に、社長就任の経緯や事業への思い、今後のビジョンについてうかがった。

10年かけて債務超過からの再建を果たす

ーー入社から社長就任までの経緯を教えてください。

英裕治:
私はもともとギターを弾くことが趣味で、ティアック製品のいちユーザーでした。「とてもいい製品だな」と興味を持ったことが入社のきっかけです。入社後は、国内営業を5年ほど経験しています。私は自分を営業向きだと考えていたので、自分から志願しました。

その後、本部に欠員が出たため企画マーケティング部に異動することになります。海外駐在を経験したのち、タスカム部長、執行役員などの役職を経て2006年に社長に就任しました。

ーー社長に就任してから苦労したことについて教えてください。

英裕治:
私が社長に就任する前年に、弊社は200億を超える赤字を出してしまいました。2000年代当初はフロッピーディスクやCD-ROM、DVDなどのいわゆる光ディスクと呼ばれる製品が売上げの8割を占めていたのですが、海外メーカーの台頭やフラッシュメモリ(※1)の普及によって、パッケージメディア(※2)の将来性が見えないという先行き不透明な状況に陥ってしまったのです。

そのため債務超過になってしまい、弊社のメインバンクに紹介していただいたファンドに出資していただいて再建することになりました。そういった状況の中で私が社長に指名されたわけですが、これ以上投資ができず、コストも下がらないというギリギリの状態からのスタートでした。海外にあった工場を閉鎖するなど、経営へのダメージを最小限に抑えつつ事業を撤退するのに約10年かかりました。

※1 フラッシュメモリ:SSDやUSBメモリ、SDカードなどのデータの記録や消去ができる保存媒体のこと。

※2 パッケージメディア:CD、DVD、ブルーレイディスク、書籍などコンテンツがパッケージ化されて伝達されるもの。

自社ブランドへの思いでお客さまから信頼される製品づくりを目指す

ーー会社が危機的状況にあった中で、どのような思いや考えを大切にしてきましたか。

英裕治:
もともと自社商品が好きで入社したので、仕事は自分が好きなものの延長線上にあると思ってやってきました。自社ブランドに対する思いは非常に強く、自社製品について人から意見をもらったり、話をしてもらえると、とても嬉しくなります。ですから、「安心して使えるブランドだ」とお客さまに認知してもらうことを意識して仕事に取り組んでいます。

ーー現在はどのような事業を展開していますか。

英裕治:
一般的によく知られている弊社の事業は、プレミアムオーディオ事業です。「TEAC(ティアック)」と「ESOTERIC(エソテリック)」の2つのブランドを取り扱っており、それぞれプレミアムオーディオ機器とハイエンドオーディオ機器を販売しています。

もう一つ「TASCAM(タスカム)」というブランドもあり、こちらは放送局や設備音響向けのBtoB領域と、ミュージシャン、クリエーター向けのBtoC領域の両方で、プロオーディオ製品を取り扱っています。

また、これら音響機器事業に加え、創業以来培ってきた「記録・再生」というコア技術を水平展開した情報機器事業も行っています。具体的には、物理信号の記録解析に用いられるセンサーやデータレコーダーといった計測機器、医療用の画像記録機器、航空機向けの音声や動画再生機器などの分野で、製品とソリューションを提供しています。

ーー貴社の事業の強みやこだわりはどのようなところですか。

英裕治:
弊社は中国と日本にある自社工場で、6〜7割の製品を製造をしています。これは、現場にしかない製造のノウハウを失いたくないという思いがあるからです。たとえばハイエンドオーディオなどは、はんだ付けのやり方一つで音が変わることがあります。そういったノウハウを定着させて品質を一定に保つために、自社で製品をつくることにこだわっているのです。

また、これは日本国内限定ですが、すでに生産が終了した製品に関しても、使える限りは修理を受け付けるようにしています。弊社の製品を長く愛用してくださっているお客さまを大切にしたいという思いがあるからです。

安さではなく魅力的な製品づくりを目指したい

ーー最後に貴社の今後のビジョンをお聞かせください。

英裕治:
世の中で売れている安くていいものを目指すのではなく、それを上回る製品を常に考えるのが弊社の基本方針です。弊社の社員には「ものづくりをしていることにプライドを持って、もっといいものをつくろう」と伝えています。市場には出ていなくとも、お客さまが求める製品はまだまだあるでしょう。

全体のニーズで見るとほんの一部かもしれませんが、そういったお客さまのための開発も行っていきたいと考えています。短期的に売上げを上げるのではなく、現在取り組んでいる事業をベースにして、確実に会社を成長させていきたいですね。

編集後記

「この世界が面白そうだと感じる人や、弊社製品が好きな人と一緒に働きたい」と語る英社長。ご自身をはじめ、同社の社員にはオーディオマニアやミュージシャンが多いという。「好きこそものの上手なれ」ということわざがあるように、やはり「好き」という気持ちは物事を動かす大きな原動力となる。オーディオマニアやミュージシャン揃いの同社は、今後どのような製品を世に送り出すのだろうか。その成果にぜひとも期待したい。

英裕治/1961年生まれ。1985年、成蹊大学工学部卒業後、ティアック株式会社に入社。2001年にタスカム部長、2004年に執行役員タスカムビジネスユニットマネージャー、2005年に執行役員エンタテイメント・カンパニープレジデントを歴任し、2006年、代表取締役社長に就任。2013年、代表取締役社長CEOに就任。