※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

2019年に設立されたリードファーマ株式会社。国立循環器病研究センター研究所と大阪大学の技術を応用し、独自の医薬企画・開発を進めているベンチャー企業だ。代表取締役社長の和田郁人氏に、設立の経緯や事業の強み、今後の展望について話をうかがった。

遺伝子に作用する「核酸医薬」の創薬ベンチャーを設立

ーー医療の道を志した経緯をお話しいただけますか。

和田郁人:
中学生の頃は薬剤師を目指していたのですが、抗がん剤治療で苦しむ家族や、闘病する友人を見て、「もっと良い薬をつくれないだろうか」と考えるようになりました。新薬開発の道へ進むために大阪大学薬学部に入学し、「核酸医薬」の魅力を知ったことが起業のきっかけです。

「核酸」とは、生物の細胞核中に含まれるDNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)の総称です。新型コロナ流行時に、多くの人が経験したMRワクチンも、RNAにあたります。私が配属された大学の研究室は、DNA・RNAを使った国内での創薬においてパイオニアに位置づけられ、核酸医薬の研究も進んでいました。

遺伝子解析の技術が発展するとともに、遺伝子上の問題と疾患の関係性も明らかになってきました。生命は、遺伝子に蓄積された情報をもとにタンパク質をつくります。私は、遺伝子さえコントロールできれば病気の要因となるタンパク質の生成を抑えられると考え、「核酸医薬を極めれば万能薬をつくれる」と直感的に思ったのです。

ーー将来的に起業する構想もあったのでしょうか?

和田郁人:
研究に熱中していたため、製薬企業に勤めることを前提に博士課程まで進みました。しかし、製薬企業に就職した人から「あくまでも大きい組織の一部であり、創薬をしている実感がない」という話を聞き、将来のビジョンが変化していったのです。

研究を続けたい一方で、研究機関の多くは予算が限られています。大学は教授のポジションになかなか空きが出ないため、キャリア形成に不安がありました。そんな中で自分たちの研究が進み、「研究チームのみんなで会社をつくろう」という話が出たのです。「自分のやりたいこと」ができる道だと賛同したところ、私が経営者に指名され、弊社の設立に至りました。

ーービジネス面でのご苦労はありましたか?

和田郁人:
設立から1年が経つ頃に、経営者としての知識不足を感じ始めました。そこからきちんと経営術を学び、業界における人脈づくりの大切さも実感したことにより、事業が前進していきました。

信頼を得られなければ製薬企業との共同研究も叶うことはありません。そもそも「誰の紹介であるか」が重視される世界です。商談会をはじめとする各種イベントに参加し、ゼロに等しい状態から、ビジネスのネットワークを構築することに多くの時間を使ってきました。

独自開発した技術で医薬品における「安全性の課題」を克服

ーー貴社の事業内容を教えていただけますか。

和田郁人:
医薬品の安全性を高めるコア技術を強みに、「アンチセンス」という核酸医薬の分野で、独自の治療薬開発を進めています。核酸医薬はさまざまなタイプが登場する中で、いずれも副作用があることが大きな課題でした。弊社は、この「安全性の問題」を克服する技術を追求しています。

また、自社のコア技術を他の製薬企業に提供する形で、医薬品の共同開発事業も行っています。国民性の違いから、アメリカはリスクを取ってでも「新しい技術を使っていこう」という姿勢が強く、研究も日本より先進的です。海外の関心の高さには、事業展開の可能性を感じています。

高度な技術を持った研究員を中心に、会社が構成されていることも大きな強みです。コア技術を開発した取締役の山本をはじめ、数多くの経験をしてきたメンバーがいるからこそ、新しい医薬品を生み出せているのだと思います。

「今までになかった治療薬」で多くの患者が救われる未来へ

ーー今後の展望をお聞かせください。

和田郁人:
中期計画としては、グローバル展開を進め、技術が発展した先で「日本の創薬ベンチャー」における、一つの成功事例をつくることが目標で、それを実現できるチームや技術が弊社にあると考えます。

日本では、優秀な研究者ほど安定した大手企業に入る傾向があります。そのため、創薬系スタートアップの不安定なイメージを払拭した上で、「面白そうな分野だな」と思ってもらえる取り組みをしていかなくてはいけません。

人材の獲得は創薬ベンチャー全体の課題であり、「新しいチャレンジをしていこう」という雰囲気づくりが求められているといえます。弊社としては、COOを任せられる方や、製薬企業で事業開発に携わった方に来ていただけると、事業をさらに成長させられると考えています。

ーー事業にかける思いもうかがえればと思います。

和田郁人:
いろいろな疾患を治せる可能性があるにもかかわらず、実用化できていない医薬品が世の中にはたくさんあります。病気の治療方法を増やしていくためにも、まずは多くの製薬企業とつながり、弊社の技術を活用していただく必要があるでしょう。

弊社の明確なミッションとゴールは、自分たちのコア技術を活かした薬が医療現場に届き、実際に役立つことです。今まで「治療薬がない」と言われていた患者さんが、病気に苦しむことなく生活できるようになる未来が一番喜ばしいですね。

編集後記

創薬ベンチャーの経営者でありながら、研究者でもあり続ける和田社長を突き動かすのは出世欲ではなく、「世の中に安全な治療薬を届けたい」という揺るぎない願いだった。メンバーの総意であるミッションを達成するため、組織の力を活用している「企業」の新しい形ともいえるリードファーマ株式会社。同社の開発した治療薬が、医療現場に届く未来に期待したい。

和田郁人/1989年生まれ、青森県出身。2009年に大阪大学薬学部へ入学し、核酸医薬と出会う。大学院に進学後、核酸医薬の研究に従事し、2018年に博士号(薬科学)を取得。2015年より、国立循環器病研究センター研究所の斯波研究室にて研究に従事。2019年、リードファーマ株式会社(Liid Pharmaceuticals, Inc.)を斯波部長とともに設立。代表取締役社長に就任。