食の多様化が進む今、飲食業界においては顧客の期待とニーズに応えるためのさまざまなアイデアが創出されている。
「ココイチ」でおなじみのカレーハウスCoCo壱番屋をチェーン展開する株式会社壱番屋では、カレーを軸として多様な業態を展開する企業に変革しようと挑戦を続けている。
同社、代表取締役社長執行役員の葛原守氏に、エンターテインメントとしての外食企業を目指すビジョンと社員の自己成長を促すための取り組みについてお話をうかがった。
壱番屋に転職し向上心でキャリアを着実に築く
ーーキャリアのスタートは料理人だとうかがいましたが、どのような経緯で壱番屋に入社したのですか?
葛原守:
高校時代から料理への情熱があり、カフェレストランを開業したいという夢を抱いていました。高校を卒業後、調理師の専門学校に進み、その後ホテルの料理人としてキャリアをスタートしました。
ホテルでレストランや宴会場などのさまざまな部門で料理の技術を磨きながら、「自分の店を持ちたい」という思いが強くなっていきました。
自分の店を持つためには資金が必要だったので、給料の良い職場を探していたときに「カレーハウスCoCo壱番屋」の求人広告を見つけたのです。広告を見ると、給与制度が整っていることや、努力次第で店長までキャリアアップしていけることに心惹かれました。
忙しいホテル勤務の合間を縫いながら転職活動を行い、1992年に壱番屋に入社しました。
ーー転職時はどのような思いでしたか?
葛原守:
私自身、負けず嫌いであり、成長したいという意欲を強く持っていました。同期や先輩を超えるスキルを身につけたいという思いで仕事に取り組んでいました。
壱番屋では、店舗従事者を対象とした等級制度があり、目標を次々とクリアしていく感覚で仕事を進めることができたので、一気に昇級することを目指しました。
ーー仕事上で、転換点となったエピソードを教えてください。
葛原守:
24歳のときに、アルバイトや社員の方の協力があってこそ自分の仕事が成り立っているということに気づきました。最初はマネジメントの経験が少なく、チームとして店をつくる大切さがわからなかったのですが、26歳で「チームで動く」ということを理解できるようになったのです。等級も一気に上がりましたね。
エンターテインメントの要素を取り入れた戦略で顧客の「食べてみたい、行ってみたい」をかき立てる
ーー貴社は「わくわくで未来をつくる」という2030年に向けたビジョンを掲げていますが、その具体的な内容と、実現に向けた取り組みについて教えてください。
葛原守:
壱番屋は、2025年2月期から27年2月期までの第8次中期経営計画に取り組んでおり、最終年度の売上高を2024年2月期と比べて約30%の増加となる、740億円を目指しています。そのために、カレー事業の拡大だけでなく、他の飲食事業にも力を入れています。2030年に向けてカレーハウスCoCo壱番屋を含めさまざまなシーンでお客様に喜んでもらえる外食企業として成長したいと考えています。
壱番屋の目指すところは単なる飲食店ではなく、エンターテインメントとしてわくわくを届けられる外食企業です。お客様が楽しく食事し、喜びを感じられる場を提供することが大切だと考えています。これからもカレーを柱にしながら新しい事業を展開し、社員がわくわくしながら働ける環境をつくっていきたいですね。
各自が経営者感覚を持ち、自由にチャレンジできるフィールドを提供することで、私たちのビジョンを実現していきたいと考えています。
ーー新しい事業展開の具体例を教えてください。
葛原守:
2020年にグループに迎えた「旭川成吉思汗 大黒屋」というジンギスカン店では、北海道旭川に1店舗しかなかった大黒屋のおいしいジンギスカンを他府県のお客様にも家族で楽しんでもらいたいという思いがあり、東京、愛知と道外への展開を進めています。カレーとは異なる新しい試みも私たちの成長の一環として大切にしています。
失敗を恐れず挑戦する社員を応援し続けたい
ーー社員がわくわく働ける環境を提供するための取り組みについて教えてください。
葛原守:
私は顧客満足度を向上させるためには、社員の満足度も大事だと考えています。社長になってから、社員の働きやすさを改善するためにいくつかの取り組みを行いました。
たとえば休憩室や女性更衣室の改装を実施しています。休憩室をより使いやすくすることで、社員がリラックスできる環境を整えました。以前は、食事後に少し座るだけだったスペースをミーティングやリフレッシュに使えるようにしたため、社員同士の交流がより活発になったり仕事の効率が向上するといった声も増えてきました。
また、私たちの本社は車がないと通勤しづらい立地にあり、過去には本社を一宮市から名古屋市内に移転する話が何度も出ました。しかし、通い慣れている環境で社員が安定して働けることも大事ですから、移転せずに現在の場所を使い続けることにしました。
ーー今後、社員の新しい挑戦を支援するという点ではどのような取り組みを行っていますか?
葛原守:
漠然と「とにかくチャレンジしよう」ということではなく、社員の評価制度を見直し、チャレンジした人が正当に評価されるようにしています。チャレンジもしないかわりに失敗もしないという人よりも、結果は失敗だったとしても果敢にチャレンジをした人を評価しようという仕組みに変えました。自分の頑張りが自分にちゃんと返ってくるような仕組みにして、社員の活力につなげています。
たとえば商品開発のプロジェクトでは、若手社員が主体となって新しいメニューを考案し、プレゼンをしてくれました。彼らの情熱と創意工夫によって生まれたメニューが昨年(2023年)のヒット商品となりましたので、それが会社全体の活力を高めることにもつながっています。
また、新しく入ってきた社員が新しい風を吹き込み、社内の雰囲気を変えてくれるケースもあるため、キャリア採用にも力を入れています。
こうした取り組みを通じて、これからも社員が働きやすい環境を提供し、新しい挑戦を支援することで、さらなる成長を目指していきたいですね。
編集後記
ホテルの料理人からキャリアをスタートさせた葛原社長。若手社員のアイデアを尊重し、社員の新しいアイデアを積極的に取り入れる柔軟な姿勢が印象的だった。今後も社員と顧客の満足度を追及したサービスを提案し、実行し続ける壱番屋を応援し続けたい。
葛原守/1967年、広島県出身。調理師専門学校を卒業後、ホテルの料理人を経て株式会社壱番屋に転職。店舗のスーパーバイザーとして従事。海外進出に手を挙げ、現地合弁会社の副社長に就任。難しいとされた中国に続き、台湾進出を成功させた後に帰国。海外事業担当役員としてイギリスやインドへの出店に携わり、2019年に代表取締役社長に就任。