株式会社サマリーは、テクノロジーの力で新たな「所有」の在り方を提案する企業。同社が展開する宅配収納「サマリーポケット」は、預けたい荷物を箱に詰めて送ると、専用の保管センターで保管され、アプリ・Webから日本全国どこからでも荷物を確認・取り出しができる。
この宅配収納サービスを、日本で社会インフラのような存在にしようと邁進しているのが、代表取締役社長の日下部康介氏だ。同社のサービスが一体どのようにして収納業界を変えるのか、サービスの詳細や今後の挑戦について聞いた。
ファクトベースに打開策を考え、困難を乗り越える
ーー起業から社長就任までの経緯を教えてください。
日下部康介:
新卒で機械部品の企画・販売を行うミスミに入社しました。ちょうど急成長中の第二創業期にあたるタイミングでの入社で、1年目から担当を持たせてもらい、営業企画や品質管理、ECサイト更新のPMなどを幅広く経験しました。その後、大学時代の先輩である前代表の山本憲資(現サマリー社顧問)に誘われ、ミスミを退職し、株式会社サマリーの創業に参画しました。
会社を辞めて起業を決意した理由は主に2つあります。1つは、山本の描くビジョンが非常に面白そうだと思ったこと。もう1つは、彼とは学生時代に一緒にプロジェクトを進めた経験があり、お互いの長所や短所をよく理解していたことです。
サマリーではCOOとして主にビジネス面でリードしてきましたが、2023年に前代表よりバトンを引き継ぎ、代表取締役社長に就任しました。
ーー困難だった出来事はありましたか。
日下部康介:
起業してから14年が経ちますが、急成長している時期もあれば、踏ん張り時もあり、それぞれ異なるタイプの難題に直面してきました。弊社では普段からデータを重視していますが、難題にはファクトベースに打開策を考えてチームの仲間やパートナー企業の方達と「できない」ではなくて「どうやったらやれるか」と、前向き・建設的なマインドでロジックを積み上げていくことで乗り越えてきました。
お客様の「ご意見」を改善に落とし込み、サービスの質を向上させる
ーー事業内容について教えてください。
日下部康介:
弊社が提供する「サマリーポケット」は、専用ボックスに預けたい荷物を詰めて送ると、空調・セキュリティが徹底管理された環境でお預かりをする宅配型の収納サービスです。月額330円からご利用いただけ、荷主自らが足を運ぶ従来のトランクルームとは異なり、宅配便を活用することで居住地域に関係なく、預けたモノを確認したいときも、取り出したいときも、自宅にいながらスマホ一つで操作が可能になります。
まず、お客様に専用の段ボールをお取り寄せいただき、保管したいアイテムを詰めて保管センターに送っていただきます。荷物がセンターに到着すると、スタッフが届いたアイテムを1点ずつ撮影し、お客様はアプリやWebを通してアイテムを管理できる仕組みです。
また、クリーニングが必要な衣類などがある場合は、アイテム一覧から指定した衣類のクリーニング依頼を出すことも可能です。この他にもさまざまなオプションサービスもご用意しています。
ーー貴社の事業やサービスにはどのような強みがありますか。
日下部康介:
サマリーポケットの強みの1つは、コストパフォーマンスの良さです。全国から集まる多くのアイテムをまとめて取り扱うことで、お客様が個別に宅配サービスやクリーニング店を利用するよりも、手頃な価格でご利用いただけます。また、全ての工程において「UX」を重視しているため、アプリやWebサイトの使い勝手の良さにもこだわっています。
また、お客様の声を中心に改善を続けている点も強みの1つです。CSへのお問合せやSNS上で、お客様から直接ご意見をいただくことがありますが、それは弊社のサービスがさらに良くなることを期待されているからだと考えています。
たとえば過去に、サマリーポケットは衣替えでの利用が多く、特に秋頃に荷物のお取り出しオーダーが集中したことにより、お届けまでに時間がかかってしまい、お叱りのご意見をいただいたことがあります。お客様にとってスムーズなモノのやり取りを実現するため、当時1社のみだった物流会社を2社にすることでキャパシティを増やし、さらにピークシーズンの事前告知を行い早期お取り出しへのご協力をお願いするなど、改善策を実施していく事で現在は安定したお届けを実現しています。
サマリーポケットではお預かりするアイテムすべてを、世界に1つしかない大切なものと考えています。そのため、保管センターはクリーンネスの徹底、災害に強い環境整備をしている他、配送には高強度ボックスを使用するなど、安心・安全への取り組みにも力を入れています。
ーー社内の環境づくりについては、どういった工夫をしていますか。
日下部康介:
オフィスへの出社義務はなく、メンバーは北海道から沖縄まで日本各地どこでも自由な場所でリモートで勤務しています。また、フレックス制を採用しており、勤務時間や始業・終業のタイミングは各人の裁量に任せています。
リモートワークを行ううえで、孤立感が生まれないこと、コミュニケーションがとりやすい環境にすることは非常に大切です。そのための取り組みとして弊社では、事前の連絡や予告をせずに、Slackでいきなり通話しても良いというルールを設けています。
役職者と直接通話するのは気が引けるかもしれませんが、全く気にせず行っていただいて構いませんし、逆に役職者からの着信に出られなくても謝る必要はありません。
また、半年に一度は半期のキックオフイベントを開催し、全国のメンバーが集まる機会を設けています。さらに、普段業務で直接関わりのない社員とも少人数で交流できるミックスランチを実施するなど、気軽に社内交流ができる仕組みを整えています。
宅配収納サービスを日本でも当たり前の存在にするために
ーー最後に今後の展望をお願いします。
日下部康介:
弊社のサービスに類似するトランクルームサービス業界の市場規模は、アメリカで約3兆円、日本では1000億円弱と言われています。日本においても、外部に荷物を預けるという習慣は今後さらに広がり、それに伴って人々の生活の質も向上していくと考えています。
電気・ガス・水道のように、5年後や10年後には外部収納が社会インフラの一部となるような存在にしていくためにも、我々のような手頃な価格で利用しやすい宅配型サービスが果たす役割は大きいと考えています。
最近では法人向けにパレット単位での荷物保管が可能なスペースプランを開始しましたが、個人向けの保管に止まらず、今後さらに幅広い法人向けの提案を増やすことも視野に入れています。また、サービスの利便性を高めるため、例えばクリーニング店など弊社サービスと相性の良い企業と積極的に提携することで、さらなるスピード感をもって事業を展開していきたいと考えています。
編集後記
事務書類や商品在庫、展示会の備品といった会社の物を預かる法人プランの提供を今年7月にスタートした同社。宅配収納を通して人々の生活を便利にする同社の挑戦は、着実に進展している。同社が日本の宅配収納業界のパイオニアとなり、新たな社会インフラを生み出す日は近いだろう。
日下部康介/一橋大学卒業後、2005年ミスミに入社。FAメカニカル事業部にて、数十垓(兆の1千万倍)に及ぶ膨大な商品数を提供するカタログ・ECサイトの事業開発・開発マーケティングなどを経験した後、2010年の株式会社サマリー創業時より参画、2015年取締役、2019年取締役COO、2023年代表取締役CEOに就任。