前身企業を含め、1960年からの歴史を持つ昭和金属工業株式会社。大手アウトドアメーカーと深く関わり、自転車や自動車用部品の製造をメイン事業としている。代表取締役社長の小谷侑久氏に、現在までの歩みや今後の展望についてうかがった。
培った技術力で伝統を継承し、未来へつなぐ
ーー貴社の歴史と社長のご経歴をうかがえますか。
小谷侑久:
弊社の前身は、祖父がボール盤1つで立ち上げた会社です。大手アウトドアメーカーとのお取引が始まった1972年に現在の昭和金属工業として法人化しました。50年近く祖母が実質的に経営に携わり、2023年8月に私に代替わりした次第です。
祖父母の養子として育ったことから、私は幼少期から会社を継ぐことを意識していました。大学卒業後は大手アウトドアメーカーでキャリアをスタートしました。統計学やMicrosoft Officeの専門知識は、最初に配属された購買部門の上司に教えていただきました。
当時の係長に感銘を受けたことから生産技術部隊にも属し図面の知識(図面の見かた)や、機械工学知識、AutoCAD(図面の描き方)の扱い方も身につけたため、弊社に3DCADを導入したときも直感的に使いこなせました。その後、4年ほど修業してから家業に入り、現場の仕事を学んだ次第です。
現実的・論理的思考と統計学による企業改革--「5S」の成功例
ーー昭和金属工業に入社後、着手したことについて教えてください。
小谷侑久:
私は現実に起きている物事に着目し、付加価値や改善点を考えるタイプです。社内改革の際は「現実的思考」「論理的思考」「統計学」の3つを重視し、会社の利益を上げるためにも社内の基盤を整えることにしました。改革チームとして立ち上げた「社長室」のメンバーは製造・管理部隊から一人ずつ選び、中途採用者や私を含めて4人で構成しました。
最初に着手したことは「整理・整頓・清掃・清潔・躾」からなる「5S」の活動でした。不要なものを捨てて有効スペースを確保し、社内の設備を効率的に再配置したのです。社内がきれいになった状態を継続するために管理体制も変更しました。
ーー改善事例もお話しいただけますか。
小谷侑久:
1年以上使っていない設備は廃棄し、傷んでいた床は張り替えました。作業環境には特に力を入れ、「金型や工具を製造するためのツールを見やすく陳列する」「中2階を作り設備のスペースを増やす」「フォークリフトの動線を効率化する」といった改善をしました。
古いクーラーは冷風機に、照明は白熱灯からLEDに変え、屋根に断熱塗装を施したことで水道代と電気代の節約も叶いました。さらに、集塵機を空間の上部に設置してオイルミストの排出量を削減しています。これらの改善はすべて1年以内に実行しました。
人事においては、年功序列でピラミッド型組織を脱するべく評価システムを一新し、社長室のメンバーが中心となって営業部を新設しました。そこで、新規開拓よりも、既存のお客様の中から金属製品やネジの総合商社に着目したのです。総合商社様は日本全国に営業所があるため、アプローチしていなかった場所が多く、過去3年間でゼロだった新製品の契約獲得件数は年間約20件までに増加しました。
営業においては、目標の達成率を数値化して評価する「KPIマネジメント」を活用しました。統計学から数式(※)を立て、「見積もり件数を増やすことが新製品獲得件数アップの最適解である」という考えを軸に、全国を巡って営業し、見積り件数を月あたり10倍に増やすことができました。
(※)新製品獲得件数=見積獲得件数(大変数)×新製品獲得率(小変数)
また、自社の開示できる情報は、可能な限り隠さずにお客様に開示するようにしております。分かりやすい構成のPR資料の作成を心がけ、見積もりは業界の平均で約3日かかるところ、弊社は1日で回答できるように努めています。
見積もり金額を指定せず、下限と上限をお客様に提案するのも弊社の特徴です。多くの商社様はWin-Winな関係を望まれるので、最下限の価格で決まることはあまりなく、競合に対する中間値をキープできています。
誰もが「努力の成果」と「やりがい」を得られる会社作り
ーー求人におけるPRをお願いします。
小谷侑久:
弊社は努力さえすれば、年齢・性別・勤続年数に関係なく昇格できる会社です。人事評価の総合点でトップ10入りした人は賞与授与式で発表され、自動的に昇格が決まります。昇格先の枠が埋まっていたときは人事役員会で投票を行うのです。
競争は激しいものの、高校卒業から3年で役職についた女性もいます。評価基準をオープンにしているので自分の働きに対する評価が明確となり、やりがいを感じられるのだと思います。テストや講習会などスキルアップの機会も豊富に設けています。
フレキシブルな働き方ができるほか、安全に配慮した上で作業着の着こなしや髪色が自由な点も特徴的です。アニバーサリー休暇をはじめ各種休暇制度も充実しています。
「やりたいことはすぐに実行」――瞬発力を活かした事業戦略
ーー今後の目標を聞かせてください。
小谷侑久:
弊社の特許技術により、今まで転造加工でしかできなかった綾目ローレット(クロス模様)のような3D形状を冷間鍛造で加工できるようになりました。この加工技術を積極的に売り出しつつ、ドローンやカーシェアリングなどのモビリティ事業にも投資していく予定です。
私の目標は「昭和金属」という名前を残し、次の世代に引き継ぐことです。昨今の急激な経済変動を見ていると、中・長期計画の必要性に疑問を抱きます。「目の前の問題」に一つずつ取り組みながら、会社をより良くしていく形を社員とともに続けていきたいと思います。
編集後記
現在はKPIマネジメントで算出した「答え」を基に、営業活動の軸を金属製品やネジの総合商社に切り替えている昭和金属工業。少し先の未来を想像しながらも、目先の課題を丁寧に解決する企業スタンスがうかがえた。「次世代のモビリティも攻めていく」と語った小谷社長。課題を見つける俊敏さと大胆な行動力を兼ね備えた人物だ。
小谷侑久/1989年生まれ、大阪府出身。2011年、近畿大学産業理工学部 電気電子工学科を卒業。2011年に株式会社シマノに入社。2015年、昭和金属工業株式会社に入社。2023年、代表取締役社長に就任。